hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 3
Special Issue 3
三者三様の
組合職員
2021.5.13
山梨県西部、都心から車で約70分の距離にある都留市。1000m級の山々と豊富で清らかな水に囲まれた地で、人口約3万人が暮らしています。ほどよい環境のこの地域で、子どもから大人まで“森に学ぶ場”が近年増えてきています。その活動の最前線を、響hibi-ki独自の目線で取材してきました。

南都留森林組合には個性豊かな職員が所属しています。どのような経緯で組合に入り、普段はどういった仕事をしているのか、代表して3名の方に話を伺い、三者三様の違いを目の当たりにしてきました。

※南都留森林組合の全体についてはこちら

写真:西山 勲/文:高岸 昌平

おじいちゃんとの会話で解く
森のパズル

左から卯月さん、辻さん、内藤さん。

今回話を聞いたのは、渉外設計部の部長である卯月美優さん、同じく渉外設計部の課長・内藤尊人(たかと)さん、そして、地域おこし協力隊として2020年から組合に加わった辻康子さんの3名です。

渉外設計部 部長
卯月 美優さん
都留市出身

卯月さんは建築系の大学を中退後、製造業の会社に就職しますが、そこが1年で倒産してしまい、新たな就職先を探すことになりました。そのときにハローワークで見つけたのが南都留森林組合です。

「土日祝休みで17時半終業と書いてある募集を見つけて、それに惹かれて入ってきました。山が好きとかじゃなくてすみません(笑)」

8年前に入った当時は周りの職員も異業種から飛び込んできた人ばかりで、すんなり馴染めたと言います。一方で、最初の頃は真夏の山仕事がとにかくつらかったと振り返る卯月さんですが、なぜここまで続けられたのでしょうか。

「仕事に楽しさを感じていなかったら、続いていなかったと思います。自分に合っていたのもあるのかな」

やりがいは「自分の仕事が目に見えること」だと話します。間伐をすれば、明らかに森の中の明るさが変わり、生い茂った下草を刈り取れば爽やかな林内が現れ、見違えるほどの変化を実感することができます。

約5年前に3事業部化されてから、卯月さんは渉外設計部の所属です。主な仕事は、森林の現況や境界の調査、林内の測量、森林所有者とのやり取り(森林整備の提案など)、書類作成など多岐に渡ります。山へ行ったり、所有者の自宅を訪問したり、事務仕事をしたり、地域内を転々と動き回っています。1日のスケジュールはその日によってまちまちです。

業務の中でも特に骨が折れるというのが、森林所有地の境界線を確定させる作業です。境界がはっきりわかっている箇所の方がめずらしく、曖昧なところが大半なのです。自治体が交付する森林計画図や登記簿につけられている公図、所有者の記憶などから必要な範囲の境界線を明確にしていきます。

辻さんが覗き込んでいるのはGPSが内蔵された測量機器。卯月さんが手にしている反射板に照準を合わせてボタンを押すだけで、方位角、傾斜角、斜距離、水平距離、現在位置が瞬時に計測・計算される。

この一連の仕事は、“パズルを解いていく”ような面白さもあると言います。地図だけではよくわからない箇所があるため、所有者の記憶が頼りになります。場合によっては何年も森に入っておらず忘れてしまっている方もいますが、一人ひとりから丁寧に話を聞くことで、各自が所有する森林がどこからどこまでなのか、探偵のように解読していくそうです。境の目印になっている尾根の巨木や沢の分かれ目など、集めた証言をヒントに山を歩き、地図の境界と照らし合わせていきます。

所有者は多くが高齢の方ばかりですが、おじいちゃんの記憶力には目を見張るものがあると言います。自分の隣の隣の森林まで誰が所有者か覚えている人は、仕事を進める上で重要なキーマンになっています。

渉外設計部の仕事には、山からさまざまな情報を収集・整理して、図面と照らし合わせる視野の広さと、所有者からうまく話を引き出すコミュニケーション能力が大事になります。特にコミュニケーション能力は作業の進捗に直結する場合もあるそうです。 コミュニケーションを取る際は、地元のおじいちゃんたちの方言を理解する“リスニング能力”も重要になります。

「最初は何を言っているのか全然わからなかったんですけど、段々とわかるようになりました。耳が慣れてくるんですよね」

長田さんは組合から仕事を請けて伐採作業も行っている。

南都留森林組合の組合員で副組合長でもある長田さんは、「若い人たちはよくやってると思うよ。かなり真面目にやってくれている」と、卯月さんをはじめとする組合職員に対する印象を話してくれました。これまで組合を支えてきた組合員(森林所有者)との信頼関係はしっかりと続いています。

「何回も行っている所有者さんのお宅は、実家のような感覚で行ってます(笑)」

組合員との親密な関係性を紡ぎ出す卯月さんは、組合の礎を築く存在なのです。

理想は
趣味でのんびり林業

渉外設計部 課長
内藤尊人さん
神奈川県出身

もともと木に関わる仕事がしたいと考えていた内藤さんは、高校時代に造園業を志していました。あるとき、庭に留まらず、森林にも関心が広がったと言います。高校を卒業後、森林について学ぼうと東京環境工科専門学校に進学し、そこで同級生となったのが参事の竹田さんでした。同校で自然環境全般を学び、さらに林業を究めるため京都府立林業大学校に入学します。

南都留森林組合との縁のはじまりは、林業大学校での研修制度でした。各地の事業体で1ヵ月ほど研修をするというもので、実家に近かったことと先生の知人から勧められたことをきっかけに南都留森林組合を研修先に選んだと言います。その中で、森林環境教育など他の組合にはない活動をしている点に惹かれて、卒業後に就職することになります。

書類への捺印をもらうべく組合員である森林所有者のもとを訪れたときの1コマ。

渉外設計部に所属する内藤さんですが、開地保育園の森林整備や大人を対象にした「都留市森の学校」の担当もしています。特に森の学校の活動では、「僕たちが教えたいと思っていることと、受講生が知りたいと思っていることの違いに気付いた」と話します。丸太が木材になる過程を学んでもらおうと企画した製材の講義では、「木工をするためにはどんな道具が必要なんですか?」といったような、ユーザー・消費者の視点を強く感じたそうです。

森林環境教育や森の学校は、参加者だけでなく、教える側にとっても今までにない学びや発見を得られる場になっています。参加者たちからの反応を受けて、今後の講座内容のブラッシュアップにもつなげていきたいと内藤さんは話します。

最新の林業道具なども常にチェックしているという内藤さん。組合随一の林業マニア?

こうした活動に留まらず、最近は特殊伐採や森林環境教育での活用のために、ツリークライミングのスキルを磨いています。何か言いたげな竹田さんに向かって「練習してるだけで、趣味では使ってないですよ」と主張する内藤さん。ツリークライミングの練習にかなり熱が入っているようです。

山の中でランチをすることもしばしば。写真は内藤さん提供。

そんな内藤さんの理想は“趣味でのんびり林業”。「達成できそうにないです」と笑っていましたが、お昼に山の上でキャンプ飯感覚で即席ランチをつくるなど、今の環境を楽しむ日常を送っています。

10年間の国際協力から
都留の森へ

地域おこし協力隊(林業による地域活性化事業)
辻 康子さん
静岡県出身

辻さんは昨年5月に地域おこし協力隊として南都留森林組合へやって来ました。その前は森や林業と関わりがあったわけではなく、10年ほど海外協力の分野で活動していました。大学卒業後に教員を勤めたあと、青年海外協力隊としてシリアへ、結婚・出産後はJICAに勤め、ボスニアヘルツェゴビナでプロジェクトコーディネーターなどを務めていたと言います。

一昨年に帰国してからは、JICAの東京本部に勤務。転職したかと思うほど仕事内容が変わり、求められるものやプレッシャーは大きくなっていきました。忙しさも重なり、肉体的にも精神的にも追い詰められていたと辻さんは当時の状況を振り返ります。そんな環境の中で勇気をもらおうと見ていたのが、地域おこし協力隊のサイトでした。

地域おこし協力隊は青年海外協力隊のOB・OGが活躍している事例が多いそうです。そうした人たちの活動に励まされていた辻さんの関心は、次第に海外から日本の地方へと移っていきました。あるとき地域おこし協力隊のサイトをチェックする中で、南都留森林組合の竹田さんのインタビュー記事を見つけます。森林や林業に特段関心があったわけではない辻さんですが、竹田さんの記事から感じる情熱には惹かれるものがあったと話します。

「海外から日本の地方に活動場所が変わっても、自分ができることは同じだろうと思いました。今まで10年間やってきた手法や経験、知識を活かしてチャレンジしてみたい気持ちがありましたし、竹田さんと一緒に仕事がしたいとも感じたんです」

早速電話で問い合わせて話を聞いてみたところ、竹田さんもパティシエ時代に青年海外協力隊へ行きたいと思っていたことを知り、ますます親近感が湧いたと言います。そこから都留市へ移住するまでに、あまり時間はかかりませんでした。そして、2020年5月に南都留森林組合へ地域おこし協力隊として着任することになります。

教員だった経験を活かし、森林環境教育ではインストラクターとして活動。

着任してすぐは森や林業の基本知識・技術を身につけるところからはじまりました。卯月さんと一緒に森林の調査・測量を実践したり、チェーンソーと刈り払い機の資格を取得したり、森の学校では参加者とともに学んでいます。何もかも初めて知ることばかりの林業は、新鮮で面白く感じているようです。

「林業の仕事は修行かよっていうくらいきついですよ(笑)。でも、すごく面白いです。45年も生きてきたのに、森や山のことをこんなに知らないんだってびっくりしています」

知識や技術の習得以外にも、広報のサポートとしてFacebookやホームページなどの更新、森林環境教育のプログラムやイベント関連のサポートなど、毎日やることがいっぱいです。地域おこし協力隊の任期は最大で3年。今後はまず、森林組合として5年後10年後にどうなっていたいか、具体的な将来像を皆で決めたいと言います。1年目は組合としての明確な目標を立て、2年目はその取っ掛かりとなる活動に着手し、3年目は方向修正や協力者とのつながりを広めていけるように貢献したいと話してくれました。

「組合として進みたい方向性ははっきりしているので、やるべきことがたくさんあって忙しいですけど(笑)、やりがいもあります」

望む理想があるならば、その実現に向けて前進あるのみ。どこまで自分が貢献できるのか、辻さんの真剣な志を感じました。

都留市に家族で移住してきた辻さんは、「心も身体も健康になっている」と実感しています。以前は子どもたちが就寝したころに帰宅していたこともありました。仕事の都合で週末だけ家族のもとへ帰る時期もあったと言います。ですが、今は事務所から10分ほどの距離に住んでいるため、家族と過ごす時間が格段に増えました。

「中学生の娘が2人いまして、学校がここ(事務所)のすぐ目の前なんです。体育の授業がここから見えるんですよ。娘たちを近くに感じられることが増えたのは、移住してきてよかったことの一つです」

個人的なビジョンはまだぼんやりしているという辻さんですが、これまで積み重ねてきた経験と、今まさに吸収している知識や技術、そして現在の暮らしで得られたことを活かして、自然に関わり続けたいという思いを強くしています。

いろいろな経験や考え、性格を持ったメンバーが所属する南都留森林組合では、関わる人を少しずつ増やしながら、やりたいこと・やるべきことに舵を切って動き出しています。次に訪れたときは、どんなメンバーが新たに加わっているのでしょうか。

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田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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