hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 2
Special Issue 4
薪‌を‌生‌業‌に‌す‌る
村上さんの場合
2020.12.8
島根県と山口県の県境に位置する津和野町。森を取り巻く豊かな自然と近代文化の名残が併存する地域です。かたや、森林業についてはいざ知らず。移住者、地元の人、行政などさまざまな視点から暮らしの断片を拾い上げていきます。

山に囲まれた津和野町では、身近な資源である木材を生活のエネルギー源として使っていこうという機運が高まっています。中でも“薪ストーブ”は電気に頼りすぎない暮らしをつくるキーアイテムとして、実際に取り入れる町民が少しずつ増えているそうです。そこで、町内にある「bluebearの 薪ストーブ屋さん」の村上久富さんに薪ストーブのあれこれについて伺ってきました。

写真:西山 勲、取材先/文:田中 菜月

薪ストーブの
ここがいい!

村上さんが営む「bluebearの薪ストーブ屋さん」では、薪ストーブの魅力を7つあげています。

1 遠赤外線が放つ暖かさ
2 さまざまな料理ができる
3 自主防災
4 洗濯物・食器等の乾燥
5 時がゆっくり流れる
6 自然と触れ合う子育て
7 再生可能エネルギー・里山整備

村上さん写真提供

薪ストーブは暖房器具としてだけでなく、料理や防災などにも役立ちます。冬は薪ストーブの上でご飯を炊いたり、目玉焼きを焼いたりできるし、電気が使えなくなっても薪さえあれば暖を取ることもできます。何より、焔を見つめていると時間がゆっくりと流れ、心も穏やかになってくるものです。化石燃料とはちがって再生可能な木材を使っている点も魅力的です。雑木林の木を切って薪にすると里山の整備にもつながります。

「薪ストーブを入れたお客さんが後悔することはないですね。導入費用として工事費込みで100~120万くらいかかるのでそこまでの決断は苦しいけど、入れたら幸せしかないですよ。焔は人間の原点というか、見たら落ち着くんですよね」

店をはじめた頃、「薪ストーブは絶対いらん」と言っていた村上さんのおばあちゃんも、薪ストーブを入れてからはすっかり虜になりました。薪ストーブが魅力的なのは確かですが、一方で費用面はネックでもあります。

村上さんはもっと手軽に薪ストーブのある暮らしを楽しんでもらいたいと、去年から津和野町の空き家改修事業を建築士の友人と手がけるようになりました。リノベーションした空き家に薪ストーブを備え付け、賃貸物件として提供。リノベーションした3棟はすぐに埋まったそうです。

「移住者もいきなり薪ストーブを買うのは大変かもしれないけど、住むところにもともと薪ストーブがついていたらラッキーじゃないですか。薪ストーブ付きのリノベーション賃貸物件はこれから少しずつ増やしていきたいです」

産地は村上家の山
店主自ら薪づくり

同店では薪ストーブの販売・メンテナンスに加えて、薪の販売もしています。村上家が所有する山で木を切り出すところから、村上さん一人で薪づくりを行っています。薪割りは機械を使わずほぼ斧で割っているというから驚きです。「斧を使うと薪の割れ方が全然ちがいますよ。斧の方がスパッと割れて切り口がきれいですからね」と村上さん。

薪ストーブのオーナーさん向けに薪割り会を開いたり、一年を通して薪で遊べるようにサウナテントやバーベキューグッズの提案・販売もしています。

村上家の日常生活で大活躍の薪ストーブ。

「土日は店として家を開いています。薪ストーブのある暮らしを実際に見てもらった方がいいので。まあ、ほとんど来ないですけどね。ここまで来るお客さんはよっぽど興味があるか、本当にほしいと思っている人。だから来てくれるだけで一大事ですよ(笑)」

津和野町を
出たことないです

地元の人っぽくない自由な雰囲気の村上さんですが、生まれも育ちも津和野町。一度も町から出て暮らしたことはないと言います。店をはじめたのは2018年12月ですが、その年の3月までは地元の役場で勤めていました。

「移住してきた人たちを見ていたら、田舎を楽しんでいる感じが伝わってきたんですよね。バーベキューしたり、川や山へ行って遊んだり、本当に楽しそうで。地元の人からすると当たり前すぎて逆にやらなくなっていたんですけど、そういう暮らしを一からはじめてみたいと思いました。それと、長男が生まれたときに子どもをどう育てていくか夫婦で話し合って、『自然の中、夫婦2人でしっかり子育てしたい』という思いに行き当たりました。もしお互いに仕事をしていたら誰かに子どもを預けることになりますけど、それが嫌だったし、これまでの暮らしを変えるいい機会だと思って役場を辞めることにしたんです」

妻の千絵さんと長男の楽(がく)くん、長女の蒼ちゃん。村上さん写真提供

退職は、理想とする家族の暮らしや子育てを考えた末に決断したことでした。その中で、実際にどうやって生計を立てていくのか考えを巡らし、たどり着いたのが薪やストーブの販売だったのです。

「最初は林業をやろうと思っていたんですけど、自分の体力的な限界がいつか来るなあと感じたので林業を主軸にするのはやめました。自家用で薪をつくっていたとき、『そういえば薪を売る人がこの地域にはいないなあ』と思って、それなら自分が薪と薪ストーブを売ろうと考えるようになりました。もちろん簡単に薪ストーブ屋になれるわけじゃなくて、たまたま薪ストーブの師匠と巡り合って、その人が応援してくれたから実現できたと思っています」

田舎だって
おしゃれに暮らせる

仕事を辞め、暮らしを変え、店をはじめて、人生が大きく変わったと村上さんは話します。

「ちょっとだけど自分たちで畑をつくって、ニワトリも飼うようになりました。自然農法の野菜づくりをやってる近所のおばちゃんがよくしてくれて、野菜づくりについて色々教わってます。ニワトリは6羽いて、毎日3~4個は卵を生みますよ。食材は野菜をちょっと買い足して、肉とか魚とかそのあたりを買うだけで十分ですね」

理想とする家族の暮らしには少しずつ近づいていますが、集落全体で見ると不安要素も多いようです。

「うちの近所は同世代がいないんですよ。60代前後はいるけど、その子どもはすべて外に出てます。『こんなところには仕事がないから外に出て生活せえ』って考えの人が多いんでしょうね。10年後は2~3軒くらい、20年後は自分たち以外いないかもしれない。そんな状況です。結構やばいですよ」

だからこそ、薪ストーブがある暮らしをもっと広めていきたいと村上さんは話します。

「田舎でもこんなふうにおしゃれな暮らしがつくれるんだよってことを僕は体現していきたいです。押しつけるわけじゃなくて、見た人がいいなって思ってくれて、そうして移住する人や定住する人が増えてくれたらうれしい」

津和野町にはいわゆる限界集落と呼ばれる地域があるのは事実です。だけれど、村上さんのような人たちが暮らしているからか、絶望感はありません。この先どうなっていくのか未知数でも、決して暗くはない未来を確かに感じます。

●Information
blue bear 薪ストーブ屋さん
〒699-5203
島根県鹿足郡津和野町相撲ヶ原587
090-8247-1983
https://www.bluebear-woodstove.com/
https://www.instagram.com/bluebear_woodstove/
https://www.youtube.com/channel/UChZMB81xqnu88gG5jaUsN_w

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田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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