hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 2
Special Issue 2
移‌住‌者‌が‌集‌う‌
‌「津‌和‌野‌ヤ‌モ‌リー‌ズ」
2020.12.8
島根県と山口県の県境に位置する津和野町。森を取り巻く豊かな自然と近代文化の名残が併存する地域です。かたや、森林業についてはいざ知らず。移住者、地元の人、行政などさまざまな視点から暮らしの断片を拾い上げていきます。

津和野町では地域おこし協力隊の制度を活用した自伐型林業チーム「津和野ヤモリーズ」が活躍しています。定着率が高いというヤモリーズについて、卒業生や役場の担当者にこれまでの経緯や現在のことを伺ってきました。

写真:西山 勲/文:田中 菜月

町に必要とされる
小さな林業

津和野町が力を入れる「自伐型林業」は、自分の山や山主さんから請け負った山を管理し、持続可能な形で森林経営を自律的に行うスタイルのこと。大規模な面積の山林を扱う森林組合などとはちがって、小さな規模で、自分たちができる範囲で取り組む点も特徴です。

津和野町の地域おこし協力隊は、町有林をフィールドとして伐採などの基本的な技術習得から、壊れない森林作業道のつくり方、伐採する木の選び方、木材の搬出方法、長期的な視点で森林を管理していく手法を実践的に学び、自伐林業家として独り立ちできることを目指します。

地域おこし協力隊とのやり取りを担当する津和野町役場の岡本さん。協力隊のメンバーと年齢が近いため、やり取りしやすいとの声も。

同町での協力隊のはじまりは2014年から。2013年7月の豪雨で山林に大きな被害が出たことや、人口減少が進んでいる状況から、防災面を含めた地域の森林管理をしていくこと、またその担い手を増やしていく必要性が高まりました。町全体で森林を保全していくには、規模の大きい森林組合では手の届かない、小規模な林業の存在も必要だということで、地域おこし協力隊の制度を活用した自伐林業家の育成がはじまったのです。

ヤモリーズ3期生の有村望さん。前職は木材流通業。2016年に神奈川県から移住。
ヤモリーズ4期生の原和弘さん。新卒で埼玉県から移住。

初年度からこれまでに19人(現役生の6人を含む)の移住者たちが隊員となりました。3年間の任期終了後も約6割(近隣市町村への定住を含めると約75%)が津和野町に残り、個人で林業などを続けています。比較的高い定着率は、ヤモリーズとしてゆるやかに組織化されたこと、また受け入れ・研修体制をいち早く仕組み化できたことが影響しています。

僕が来たときは
何もなかった

津和野ヤモリーズの形を整えていったのは、ヤモリーズ1期生の田口壽洋さんです。地域おこし協力隊として意気揚々とやってきた当初のことを振り返って、こう話してくれました。

森林組合などとちがって、しがらみの少ない自伐型林業なら自分にできるかもと応募を決めた田口さん。

「席もないし、林業用の機械もないし、現場もないし、何にもなかった。『来ちゃったけどどうするの?』みたいな感じで(笑)。津和野町自体が地域おこし協力隊を募集するのははじめてのことだったみたいで、行ってみたらビジョンしかなかった。チェーンソーもいくらするのか、使うためにどういう資格がいるのか誰も知らないし、そういう感じでした」

お互いに熱量あるスタートだったものの、完全に手探りの状態からはじまりました。

「機械類を買うにも中古はダメだとか制約が多かったので、自分で会社をつくってそこに業務委託してもらうことにしました。もともと行政から委託業務を受けて仕事をしていた経験があったので、そこは割とスムーズに進みましたね。着任してから半年ぐらい経ってようやく現場で本来の活動ができるようになりました」

こうして環境が整い、技術習得の日々が過ぎていきます。

ヤモリーズが手掛けた作業道。壊れない道づくりができてこそ持続可能な林業ができる。

「1期生は僕の他に女性が2人いたんですけど、伐採作業していて“かかり木”(※)になったらそのまま帰っちゃったりするんですよ。林業は常に危険の伴う作業なので、自然と向き合うそれなりの覚悟が必要です。『山が好き』ぐらいの気持ちだけで来る人には厳しいんだなと気付きました。そこから採用もある程度フィルターをかけていこうという話になりましたね」

※「かかり木」とは、伐採した木が周りの立木に引っかかってしまうこと。倒れかかっている木には応力が働いているので、むやみに処理しようとすると事故が起きやすい。かかり木処理には技術を要する。

協力隊のリアルを綴るため、チームメンバーが自ら発信するブログもはじめました。実情を理解してから応募する人が増えたため、入ってくる人も変わってきたと言います。

●津和野ヤモリーズのブログはこちら
https://note.com/tsuwanoyamori

「他にも、道具の使い方が悪いだとか、機械を壊したまま戻す人もいて。そうした使い方や片付けのルールなんかも決めたり、日報の制度をつくったり、個人面談を設けることも提案していきました。どれも僕が企業で勤めていたときに学んだことを同じように実践しているだけなんですけどね」

田口さんを筆頭に、役場の担当者やチームメンバーによる日々の積み重ねが実のある形となって、今の津和野ヤモリーズへと続いています。ゼロから林業をはじめたい人にとっては、心強い受け入れ体制が整った環境になっています。

伝統がないから
誰でも林業をはじめやすい

ヤモリーズの卒業生たちの進路はさまざまです。津和野町で自伐型林業を続けながら、特殊伐採や農作業の手伝いなどの複業で生計を立てる人や、津和野を拠点にしながら周辺地域で自伐型林業の事業を手伝っている卒業生もいます。

今回の取材でスケジュール調整や当日のアテンドなどを担当し、編集部をサポートしてくれた石田さん。

千葉県から移住してきた石田佑佳さんは、ヤモリーズの3期生。2016年に津和野町へやってくる前はシステムエンジニアとして働いていました。日本と世界の森林資源のギャップなどについて関心を抱くようになり、これからの生き方を模索していた折、たまたま津和野町の地域おこし協力隊の募集を見つけてやってきました。

赤色立体地図(特許番号4272146・アジア航測株式会社)。傾斜量を赤色の濃淡で表現(色が濃い箇所は急傾斜)。崩れやすいポイントなどがわかるため、防災面でも重要。

協力隊での研修を通じて自身の得意不得意を考慮した末、伐採や搬出などの現場作業に携わるのではなく、ICT分野にフォーカスすることにしたという石田さん。具体的には、GIS(地理情報システム)などを使って、データ上で森林の座標位置や所有者、資源量の把握をしたり、航空写真や立体地図、GPSデータなどを道づくりに応用させるなど、活躍の場は多岐にわたります。今は個人事業主として町や地域の方から仕事を請け負っていると言います。

前出の田口さんは現在、津和野周辺で循環型の地域づくりのマネジメントに奔走中。「本当は木を切って海に潜って魚をついて暮らしたい」と話す一方で、「ここで暮らしをちゃんとつくっていこうとした結果が今。やるべきことがそれしかなかった」と話します。これまでの経験や人脈を活かして、地方と都市をマッチングする役割を担っています。

●田口さんの現在の活動はこちら
https://hibi-ki.co.jp/ganbaranakuteiiiju001-007/

2人の他にもメンバーは全国から集っています。津和野町役場の岡本さん曰く、「代によってカラーがバラバラなので面白いですよ。昔ながらの林業を志す人もいれば、先進的な取り組みに挑戦する人もいたりいろいろですね」

さまざまな背景や個性を持った移住者がいる津和野ヤモリーズですが、卒業生を含めたゆるやかなネットワークがあります。
「1人じゃ林業はできないし、1人だけでいろんな機械を持つのも効率が悪いので、みんなで協力し合って仕事をしています」と話すのは石田さん。年齢の近い仲間がいることは一つのアドバンテージになっているようです。

さらに、移住者にとっては林業に新規参入しやすい場所でもあると岡本さんが教えてくれました。

「このあたりは伝統的な林業というものがあまりないですし、山主さんもそれほど山へのこだわりがありません。新しく林業をやってみたいという人は入りやすい地域だと思います。ただ興味がない分、自分の土地を把握していない方が多いので所有林までたどり着くのが大変ですけどね(笑)」

今年で津和野ヤモリーズも6年目を迎え、森と関わる仕事をする移住者が少しずつ増えています。地域おこし協力隊の卒業生と現役メンバーを含めたゆるやかな連帯は、人が増えるほどに強固なものになっていくでしょう。

●地域おこし協力隊の募集情報はこちら
https://hibi-ki.co.jp/ganbaranakuteiiiju002-006/

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地域おこし協力隊に入ったら?
田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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