まちづくり推進課長として地域内循環型のまちづくりに注力する藤村憲司さん。一度は阿武町を出たUターン者の藤村さんにとって、何もないように見えた阿武町が近頃は変わって見えてきたと話します。そのワケと、まちづくり事業の現状について話を聞きました。
阿武町って
意外といいかも?
地域内循環型のまちづくりを進める阿武町では、滞在型交流の拠点となる「まちの縁側推進プロジェクト」を始動しています。町の玄関口である「道の駅 阿武町」に隣接する形で「キャンプフィールド」や「ビジターセンター」をつくる計画です。
中国地方を商圏に、阿武町の新鮮な農水産物の販売や、阿武町の暮らしを見せるような体験プログラムの提供などを行うそうです。こうした工夫をこらすことで、町を訪れる人の滞在時間をのばして、消費を促し、町の暮らしを知ってもらうことで、地域内で人・もの・お金が回っていくことを目指しています。
こうした取り組みを展開しはじめた背景について藤村さんが振り返ります。
「僕自身は大学卒業後に阿武町を出て広島で働いていたんですけど、30年前に父が亡くなったのをきっかけに阿武町へ戻ってきました。地元を出ていくような人って、そもそも地元を知ろうとしないんですよね。何もないと思っている。でも、阿武町を気に入って外から来てくれた人たちと交流するうちに、私たちにとっては当たり前でつまらないものも、外かの視点では魅力的に見えることに気づかされるようになりました。その気になって町の歴史や文化、自然を知っていくと、阿武町もなかなかいいところじゃないかと思うようになっていったんですよね」
俯瞰的な視点を持てたことで阿武町の特色をどのように活かし、伸ばしていくのか、役場としても考えるようになりました。国の事業で地方創生が叫ばれ、町としても人口減少が加速する状況が重なり、「選ばれる町」「地域内循環」といったことを掲げるようになっていきます。
「町から出ていくお金や資源を減らすという意識はもともと僕らにはなくて。今一緒にまちづくりプロジェクトをはじめ、外からの刺激を受ける中で気づかされました」
町を外に開いていくことで発見があり、それが町に変化をもたらす兆しになっていきました。
“まちの縁側”に
キャンプ場をつくる
現在、地域内循環の拠点として、“まちの縁側”として、キャンプフィールドの計画が大きく動いています。
「漁業がもっと盛んだったときに埋立地をつくったみたいなんですが、今は持て余している部分があって。かといって大規模に再開発できるわけではないので、お金も環境への負荷もかけずに形を変えていくならキャンプ場がいいのではないかという話になりました。海辺なので海や夕陽を眺めながら焚き火ができるのはいいですよね。観光客が楽しめるのはもちろん、住民にとっても非日常が近くにあるのはいいなと思います。一方で、はじめての取り組みなので町内で不安視する声もあるんですよ、正直。『わざわざこんなところまで人が来るの?』って。それは私たちもわからないけど、やってみるしかないですよね」
キャンプフィールド計画には、アウトドアメーカー「スノーピーク」が設計や運営のアドバイザーとして関わっています。キャンパーに大人気のアウトドアメーカーならではのノウハウを借りながら、どんな拠点になっていくのでしょうか。キャンプ以外にも、遊び感覚で漁を体験してもらいたいと藤村さんは話します。
「本来であれば漁業権の関係で一般の人は磯で遊漁ができません。勝手に貝をとると捕まってしまいます。そこで、ルールと場所を決めて自由に遊漁できるエリアをキャンプフィールドのそばにつくれないか検討中です。貝や魚をとりたい人ってたくさんいると思いますし、子どもの頃から磯遊びの経験ができると、漁師の後継者育成にもつながってくるはずです。そういったことを漁協や漁師さんに理解してもらって何とか進めていきたいです」
藤村さんの取材を通じて、外の声を受け止めて少しずつ変わっていく役場の姿が見えてきました。自然界では環境の変化に対して臨機応変な生物が生き残っていくと言われますが、人や地域そのものも同じなのかもしれません。移住者や町民にとって阿武町役場は頼もしいパートナーとしての存在感を増しています。