hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 1
Special Issue 4
阿武町長はこんな人です
2020.10.14
森・里・海に囲まれた阿武町。手つかずの豊富な森林資源を有効活用して、雇用を生み出し、資源やお金を地域内で循環させ、持続可能な暮らしをつくっていこうとする試みが動きはじめています。移住者、地元の人、行政などさまざまな切り口から、変わりゆく町の今を覗いてみてください。

阿武町ではこれからの町を担う人を十分に確保し、支えていくために、「定住対策」を軸にさまざまな施策を展開しています。その中でもカギになるのが、町が推進する「自伐型林業」です。自伐型林業の話を中心に、定住の思いを花田町長に訊ねました。

写真:西山 勲、取材先/文:田中 菜月

自ら経営する小規模な林業
暮らしを支える複業の一つに

1次産業で生きる阿武町は、昭和30年に旧奈古町・旧福賀村・旧宇田郷村が合併して発足。合併当時の人口は1万789人でしたが、2000年に老年人口が減少へ転じたことにより減少が加速。現在の人口は約3200人となっています。2040年までに約1700人まで減るという試算も。こうした町の現状に対して、「若者の定住」と「雇用の創出」を喫緊の課題とし、その改善に向けた事業を展開しています。

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「定住対策を行う上で最大の課題になるのは、産業として成り立つ仕事をつくることができるかどうかということです。人を呼び込んでも、ご飯が食べられないといずれ出ていってしまうことになるでしょう?だから、移住者が食べていける仕事の下地を行政が整えていく必要があります」

そう話す花田町長は、人やお金、資源を地域内で循環させる仕組みを少しずつつくっています。外から何か大きな産業を誘致するといったことを行うのではなく、町がこれまで大事にしてきたもの、すでに持っている資源のまだ見えていない伸びしろに光を当てようとしています。

阿武町の田園風景

「阿武町の現実問題として、資源はあっても使っていないのがまさに“山”なんです。資源としてはたくさんあるんですよ。町の面積のうち約8割は森林ですから。でも、林業を専業としている人はほぼいません。以前はいたんだけどね」

阿武町では林業分野での雇用を増やしていくため、「自伐型林業」を推進しています。自伐型林業とは林業経営を自ら行い、長い目で見て森林を管理し、持続可能な形で収入を得ていく、自立型の林業です。町の主催で自伐型林業研修を開き、林業支援員として地域おこし協力隊も募っています。

「町有林(町が所有する山林)が1700haくらいあるんですよ。新たな所得を得る手段として、この山の資源を使っていかない手はないだろうと思ったわけです。移住者の方が所得を得るための一つのフィールドとして使ってもらいたい。自伐型林業は自分で管理・経営していくものなので、ただ間伐して丸太を売るだけではなくて、色んな可能性を考えながら山を手入れして、お金も生み出していってほしいです」

阿武町で自伐型林業の研修生をサポートする先輩たち

地域おこし協力隊として林業に従事すれば、卒業後を含めて町有林がフィールドとなるため作業地確保の心配がいりません。本来は自分の所有地か山林所有者との契約を経て、林内で作業をすることが可能になることを考えると、かなりの好条件と言えます。

※地域おこし協力隊(林業支援員)の募集情報はこちら

阿武町での働き方を
見える化していく

実家は農家という花田町長。昔の田舎は兼業複業が当たり前、幼い頃は持ち山の手入れも手伝っていたと話します。

阿武町の花田町長

「福賀地区は標高が380mくらいあって、冬は雪が降るんですよ。冬は農閑期になるから外へ出稼ぎに行ったり、土木作業をしたり、山で枝打ちしたり、そういう働き方が当たり前やったんですね。僕らが小さい頃は山へ薪を取りに行かされよった。楽しんでいくわけじゃなかったけど(笑)。雑木を切って、薪や炭にして販売もしよったし、植林にも行かされよったね」

薪や炭づくりも一つの活用法ですが、阿武町ではさらにもう一つ、林業と漁業がタッグを組んだ「間伐材魚礁」というものがあります。形質が悪くて山に捨てられるような丸太を使って魚礁を組み、魚のすみかとして海に沈めるという活動を20年以上前に全国で初めて行いました。

間伐材魚礁は阿武町が発祥。林業従事者と漁師が協力して実現。
白松さん写真提供

「はじめは林業従事者と漁師が一緒になって間伐材魚礁をつくりよったし、僕らも手伝いに行きよった。やけど今は町から森林組合に委託してつくってもらっています。冬はしけって漁師の仕事が少なくなるし、自分たちで間伐材魚礁をつくればいいのにと思うけど。昔みたに林業や漁業をやっている人の中からリーダー的な人が出てこないと難しいのかもしれないね」

間伐材魚礁を製造・販売するのは、自伐型林業における木材活用の一つとしてまだまだ可能性があります。他にも林業×〇〇といったように、異業種・異分野とのかけ合わせなど、森林や木材の伸びしろをぐんと伸ばしていく方策は柔軟な発想力に秘められていそうです。

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「こういう稼ぎ方ができますよっていろいろと話はできるけど、やっぱり実際に見せることが大事やからね。生計が立てられることを実例として示していきたいです。地域おこし協力隊で来てくれる人たちが形をつくって、そのあとに続く人たちがさらに増えていくとうれしいですね」

阿武町で自伐型林業をすることは、地域内循環の中へ自ら飛び込み、町の循環をぐるぐる回す存在になっていくということです。小さな地域で、小規模の山仕事をするからこその醍醐味だとも言えます。そうした実感を重ねていける日々が、阿武町にはあるのでしょう。

1
阿武町ってどんなところ?
2
移住者に聞いてみよう!
3
地元の人にも聞いてみよう
5
まちづくりを推進する人
6
移住したらこんな特典が!
7
阿武町の未来予想図
8
地域おこし協力隊に入ったら?

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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