Memento Mori -Books,Cinema,Art,and more-
# 12
樹木マニアの愛読書
2023.8.4

森にまつわる本や映画のラビリンスにどっぷりとはまり込む、そんなカルチャーを紹介する「Memento Mori」。今回は連載「杉センセイの生物図鑑、知らんけど」で執筆を担当している三浦夕昇くんの本棚から一掴み。幼いころから樹木が大好きでいろんな本を読んできたという彼に、「人と森のつながり」をテーマに3冊選書してもらった。

写真:三浦 夕昇・編集部/文:三浦 夕昇・編集部

“樹木”好きは
どんな本を読んできた?

「私の書いた樹木・森に関する記事を連載という形で響hibi-kiさまのホームページで公開させていただく、ということは可能でしょうか?」

三浦くんと響hibi-kiの関わりは、彼から届いたこの一通のメールから始まった。編集部は岐阜、三浦くんは神戸、ということでオンラインでのやり取りを何度か重ね、記事の執筆やX(Twitter)の投稿などを依頼することになった。彼と話していると本当に樹木や森林が好きなんだなあと感じる。私たち以上に。そして、素直で礼儀正しい彼の性格にも惹かれた。

三浦くんの取材記事はこちら

三浦くんと話したり、彼の文章を読んだりしていると、「人間社会と森林のつながり」に興味を持っていることがものすごく伝わってくる。それは響hibi-kiにも通底するテーマだ。けれど、テーマが近いといえど、見えている世界は違うだろう。その違いを知りたくて今回の選書を依頼した。ごく一部ではあるが、三浦くんがこれまでどんな本を読んできたのか、3冊ピックアップしてもらった。

森の世界を
タイムトラベル

まずは三浦くんと森林の関係を深めたと言える一冊を取り上げてみよう。

『森のスケッチ』
著者:中静 透
出版社:東海大学出版会
定価:3,740円(税込)

三浦くんコメント:
僕は小さい頃から樹木が好きだったので、遊園地やおもちゃ屋よりも、大きな都市公園とか、裏山の遊歩道みたいな、樹がいっぱいある空間が好きでした。毎週のように近くの森に出かけては、樹の枝ぶりや立ち姿を惚れ惚れと観察する…。そんな日々を送っていた中学2年の時に出会ったのが、この一冊。森林生態学の専門書なのですが、論文のような堅苦しさはなく、初学者の僕でも理解できるようなわかりやすい文体で書かれているので、サクサクと読み進めることができました。

この本に出会うまで、僕は樹という「点」に着目して、森の景色を観ていました。この樹種の枝ぶり綺麗だなあ、とか、この花綺麗だなあ、みたいな感じ。しかし実際には、森に生えているすべての樹は、何らかの理由があってそこに生えています。その森の歴史、樹種組成、土壌条件、人間の介入…ありとあらゆる要素が複雑に絡まり合って、1本の樹の人生が組み立てられているのです。

だからこそ、森を歩く時は「樹」一点ではなく、樹の周囲の空間、森が辿ってきた歴史にも着目し、「面と線の視点」を持たなくてはいけない。この本は、それに気づかせてくれたのです。

「森のスケッチ」というタイトル通り、この本の文章は森の風景を科学的に分解する、というスタンスで書かれています。美しいシラカバの純林はどういう経緯で成立したのか?森の中でたまに見かける、株立ちの樹はどういう戦略をとっているのか?大木が倒れ、一時的に破壊された森林空間では何が起こるのか?

森の中で日常的に遭遇する風景の一つひとつが、生態学的に大きな意味を持っている。コレを知った時の感動はヤバい。人間とは全く違う時間軸で胎動する森の風景を、科学の知見を元に整理し、人間の時間軸に落とし込んでゆく。森林生態学という学問が持つ、タイムトラベル的な魅力を実感できるのも、この本の魅力のひとつです。

三浦くんが描いた森のスケッチ。

殺人事件を
引き起こした針葉樹?

続いては、樹木と人間の歴史を文化的・社会的な視点からまとめた物語の本。どんなストーリーがつまっているのだろうか。

編集部撮影

『世界の樹木をめぐる80の物語』
著者:ジョナサン・ドローリ
画:ルシール・クレール
訳:三枝 小夜子
出版社:柏書房
定価:3,740円(税込)

三浦くんコメント:
世の中に存在する書籍の中で、「樹木図鑑」ほど好みの分かれるモノはないでしょう。僕らのような樹木マニアにとっては、心躍る宝物ですが、興味がない人からしたら面白くもなんともない。テキスト部分を読んだところで何もワクワクしないし、動物図鑑のようにかわいげある写真があるわけでもない…。

こんな感じで、「樹木図鑑」という書物に対して敷居の高さを感じてしまう人に紹介したいのが、この本。WWF(世界自然保護基金)のアンバサダーであり、長年樹木の保護に取り組んできたジョンサンドローリ氏が執筆した本で、タイトル通り世界中の樹木を80種紹介しています。「図鑑」ではなく、「物語」というスタイルで樹木を紹介しているのが、この本の一番の特徴。世界各国の有用樹種と、それを取り巻く人々の歴史が、優しい文体で描かれており、読み進めるほどにその世界観に引き込まれてしまいます。イギリスの住宅街で、2件の殺人事件を発生させた針葉樹、人類史上最高傑作の音色「ストラディバリウス」を生んだ樹、樹液が恐ろしい用途に用いられた樹…等々、興味深いエピソードが満載。

樹木を利用しようとする人間たちの、懸命な努力に感服してしまうような話もあれば、樹木の生態に振り回され、散々な目に会う人間たちの滑稽な姿に笑ってしまうような話もある。樹木の紹介文を読んでいるはずなのに、小説を読んでいるかのようなワクワク感を味わえます。

「樹木の利用」というと、どうしても「森林破壊」や「乱伐」みたいな、ネガティブな側面ばかりが語られがちですが、本来樹木と人間の関係というのはもっと面白可笑しく、シュールなものなのではないか。そう気付かせてくれた一冊です。

そして、美しい挿絵も、注目すべきポイントのひとつ。この本には、写真が一切使われておらず、樹の姿形は1ページ丸々使った美しい細密画で表現されています。この絵が、柔らかな文体で描かれた”樹木の物語”の世界観に絶妙にマッチしていて、なんとも味わい深い。文章と挿絵が合わさって、ひとつの芸術品のような仕上がりの本です。そこに、図鑑のような退屈さはありません。

樹木に興味がなかったとしても、絶対に楽しめる一冊。

素朴に樹と付き合う

最後は親子でも読める本を取り上げよう。理屈うんぬん抜きに、感覚的な視点から人と森の関係性を描き出しているのがこの絵本だ。

編集部撮影

『木はいいなあ』
著者:ユードリイ(ジャニス・メイ・ユードリー)
絵:シーモント
訳:西園寺祥子
出版社:偕成社
定価:1,100円(税込)

三浦くんコメント:
樹は、私たちにさまざまな恩恵を提供してくれます。これに関しては、もはや説明は不要でしょう。近年のSDGsブームもあってか、多くの自治体、企業、市民団体が、樹木の生態系サービスを再評価し、その重要性を啓蒙しています。ブナ林は「緑のダム」と呼ばれ、森の土壌中に貯められる雨水の容量が細かく数値化されるようになりました。里山の落葉広葉樹林では、毎年生物の種数、絶滅危惧種の個体数が記録されるようになり、私たちはその結果に一喜一憂します。

この動きは、もちろん好ましいことです。樹木を保全するために、まず樹木が提供してくれる恩恵を可視化する、というのは正しいアプローチだと思います。しかしその一方で、僕はこうも思うのです。「樹木の恩恵」という無限の広がりがあるモノを、数式に当てはめて厳格に評価するのは、ちょっと寂しくないか?「人間社会と自然を共生させよう‼︎」という、あまりにも崇高な理念を掲げるせいで、樹木が本来持っているはずの、素朴な魅力を忘れてしまってはいないだろうか。

僕は以前、ブナ林が川の水質に与える影響を調べるために、水のサンプル“だけ”採って帰ってしまった環境保全団体を見たことがあります。彼らはすぐそこに広がっている美しいブナ林には見向きもせず、川の水と検査キットにのみ集中し、水質調査が終了したらそそくさと車に乗り込んで去ってしまいました。川の水質は厳格に調査するけれど、その水の源であるブナ林の美しさには目もくれない…。これが本当に「自然と共生した社会」なのかと言われると、正直疑問です。

そんなモヤモヤが生まれた時に読みたいのが、この本。

子ども向けの絵本で、樹と共に暮らすことの喜びが、優しい文体で綴られています。夏の昼間に、木陰でのんびりする時の気持ちよさ。焚き火をするために、森に薪を拾いに行く時のワクワク感。自分が植えた樹が、年を経るにつれて大きくなってきたときのうれしさ。生態系サービス云々とか、そういうの関係なく、純粋に樹ってすばらしいよね。単純だけれど、今の時代には見落としがちな樹の魅力に気付かせてくれるのです。こういう、素朴な形の「共生」こそ一番大事な気がします。

「自然と人間社会との共生」のような、大げさな理念を掲げなくとも、私たちには樹から恩恵を受ける資格があるのです。”社会”とか”環境保全のために”みたいな、格調高いチカラの入れ方をせず、同じ地球に住む生き物として、樹と付き合う。こういうのも、たまにはイイよね。それを教えてくれる一冊です。

photo by Isao Nishiyama

今はニュージーランドの大学で環境学を学び、将来は環境保全の仕事がしたいと考えている三浦くん。そんな彼にとって、実際にドングリから木を育てたり、各地の木々や森林に触れてきた経験は大きな礎になっているだろう。ただ、それだけでなく、本の存在によって見えている世界がぐっと広がっていることも今回の記事から伺える。

森に行くのもいいけれど、家でじっくり読書する時間もいい。木はいいなあと思うし、やっぱり本はいいなあ、とも思った。また積読本が増えそうだ。

三浦 夕昇 (みうら・ゆうひ)
神戸出身の19歳。樹木オタク。幼少期から樹木の魅力に取り憑かれており、日本各地の森を巡っては樹を観察する毎日を送る。2023年冬より、ニュージーランドの学校で環境学を学ぶべく留学をする予定。