能登町で特殊伐採を生業とする木こりたちが活躍しています。能登町の森づくりや祭りなど、町の自然や文化にも関わる存在なのだそうです。一体彼らは何者なのでしょうか?
木こりチーム
GOENとは?
特殊伐採は木を相手にする仕事ですが、植えて育てて収穫する林業とは少し異なります。自然災害により電線にかかった倒木を処理したり、家のすぐそばにある枯れた大木を周囲に危険が及ばないよう慎重に伐採したり、取り扱いが難しい状態の樹木を適切に伐採していく技術が求められます。
根元から木を伐り倒すのではなく、人が木に登って上から少しずつ伐り、伐った部分をロープなどで地面に下ろしていきます。ときには高所作業車を使って作業する場合もあります。

そうした特殊伐採の技術を有した木こりチーム<GOEN>が能登町で活動しています。令和6年能登半島地震の発災後、能登町内の倒木処理などで活躍したのもGOENの皆さんです。チームメンバー5人はそれぞれ個人事業主でありながら、現場に合わせてチームを組み、連携して特殊伐採のミッションにあたっています。

GOENの礎を築いたのは、能登町出身の高木功次郎さん(こうちゃん)と上端修平さん(しゅうちゃん)です。ともに地元の森林組合で働いていたときから特殊伐採の仕事に携わり、2018年に独立して、フリーの木こりとなります。特殊伐採の作業をする際は、樹上で作業をする人と、地上で作業をする人の2人体制となるため、独立後もこうちゃんとしゅうちゃんはチームを組んで活動していました。
その後、2020年に森岡康亘さん(やっちゃん)と脊戸郁弥さん(いくちゃん)が、2024年に岡井正和さん(MASAさん)が加わります。3人はもともと林業や特殊伐採に関わっていたわけではありません。やっちゃんは工業系の仕事から農業を経て、いくちゃんは消防士から、MASAさんはサラリーマンからの転身です。こうちゃんとしゅうちゃんとの出会いをきっかけに、特殊伐採の仕事に惹かれて合流したのでした。
GOENが行う特殊伐採は、行政や電気通信系・建設系の事業体から依頼を受け、道路沿いの木の伐採をする仕事が多くを占めていると言います。今後は、地震の影響で崩れた道路を修復していく際に倒木処理の依頼も増えてくるのではないかとのことでした。能登町ではGOENの存在がますます欠かせなくなっていることを感じます。
命がけだからこそ
安全第一で
GOENの皆さんの話を伺い、実際に現場で作業をしている様子を見させてもらっていると、安全に対する真剣さをひしひしと感じる瞬間が多くありました。社会的な後ろ盾が少ない個人事業主であることに加えて、気を抜けば命に関わる事故が起きるリスクと隣り合わせの仕事だからなのでしょう。
「作業をするときは安全が一番大事ですね。自分がケガをしないように気をつけるのはもちろん、一緒に作業する人たちもケガをしないように、色んな視点から安全確認をするようにしています」(こうちゃん)
「家族の大黒柱がケガして仕事できんくなったら、そこの家庭が路頭に迷ってしまうわけやから、それは絶対避けたいって常に思ってます。特殊伐採を始めたころは技術的なことは何もわからんかったけど、安全だけは最初から意識してましたね」(いくちゃん)
ともに3児の父であるこうちゃんといくちゃん。自分の家族だけでなく、仲間の家族に対しても思いは同じです。何より安全第一で仕事をすることが信頼にもつながっていくのだと、しゅうちゃんが教えてくれました。

「あいつらに頼めば無事に終わるやろっていうので仕事を依頼してもらってるなって思います。そこで何か起こしてしまうと仕事も途絶えるし、命だってそうだし。だから安全が一番大事」
そんな彼らの仕事への向き合い方を目の当たりにして、心を揺さぶられてしまう人が続出しています。その一人が<合同会社NOTONO>の桐明祐治さんです。関係人口創出の取り組みで能登町を訪れた際にGOENと出会い、一瞬で心を掴まれ、能登の木こりや林業をPRするNOTONOの事務局として関わり始めたのでした。
「初めてGOENのみんなに会ったとき、『全員を安全に家族のもとに帰してやらないかん』という思いで仕事をしていると知って、衝撃を受けました。都会で働いていたら普段はまったくそんなことを考えないじゃないですか。そういう感覚で仕事してるのがすごいな、かっけえなって思いました。GOENに対する“ファーストかっけえ”はそれでしたね」
日頃生活していて、特殊伐採の現場を見る機会はめったにないでしょう。作業のイメージがあまり湧かない方もいるかもしれません。しかし、その現場を肌で体感すれば、彼らが日々向き合う責任の大きさと、それを背負って作業にあたる彼らの真剣さを感じるはずです。
震災を経て
変化した思い
木に登り、巧みなロープワークで樹上作業をする特殊伐採に憧れを抱く人は多くいるでしょう。各地で受講できるロープ高所作業特別教育や、ATI(アーボリストトレーニング研究所®)が開く講習会など、技術を学ぶ場は近年増えつつあります。こうちゃんもそうした講習を受けて技術を磨いてきたと言います。
「この仕事を始めたときにはもう家族がいましたし、子どもが自立するまでは絶対責任を持たないとって思ったので、安全に作業できる技術を身につけるために山梨県や愛知県まで講習を受けに行って勉強しました」
特殊な技術が必要だからこそ、独学で実践すると事故を起こす危険は高まります。仮に特殊伐採中の動画をSNSにアップして、マネをする人が出るのは避けたいと、これまで情報発信をしてこなかったというこうちゃん。ですが、ここ最近になって自身のInstagramで作業の様子を投稿するようになりました。
「震災が起きてから、能登の過疎化が進んでいる実感があります。能登で暮らしたいと思ってくれる人がどうしたら増えるかなって考えたら、今の時代はやっぱりSNSを活用するしかないと思うようになりました。情報発信しないとこの先がなくなってしまうので。それに、林業って危ないって思われてますけど、基本を抑えておけばそこまで危険じゃないよってことも知ってもらいたいです。もちろん安全対策には気を遣いながら撮影してます」
震災を経験して、能登の高校生たちが地元に目を向けるようになってきたことを実感しているというこうちゃんは、地元に興味を持つきっかけとして自分たちの活動を知ってもらえたらと話します。その結果、たとえ能登を離れたとしても、ふとしたときに地元の力になりたいと帰ってきてくれる子が一人でも育ってくれればそれでいい。そんな思いでSNSに向き合い始めたのでした。

「もともと能登に住んでる人は外に出たい人が多いし、帰ってきたときの仕事の選択肢として林業や特伐もいいけど、能登に移住してきた人が第一次産業で仕事をするっていうのはいいなと僕は思っていて。そんな話もこうちゃんと話してます。能登の人口はどんどん減っていく一方ですし。林業の仕事の素晴らしさ、楽しさ、発信していきたいねって話してたら、こうちゃんはもうアクションカメラ買ってました(笑)」
そう話すいくちゃんを始め、他のメンバーもSNSで積極的に投稿するようになってきました。それぞれ違った視点からの特殊伐採のリアルを垣間見ることができます。
●GOENメンバーのInstagram
こうちゃん:https://www.instagram.com/koujiro_takagi/
しゅうちゃん:https://www.instagram.com/shuhei_kamihashi/
いくちゃん:https://www.instagram.com/ikuya_seto/
やっちゃん:https://www.instagram.com/yasunobu2021/
MASAさん:https://www.instagram.com/mskz.okai/

ただ、覚悟を決めて始めたこととはいえ、不安はあると本音をこぼすこうちゃん。
「こんなこと言ってますけど、炎上しないか心配になるし、自分で情報を出していくのは見せたがりみたいで抵抗もありますよ(笑)」(こうちゃん)
「一番気にしいだからね(笑)。そんな気にせんでいいがに」(いくちゃん)
それでもやる道を選んだのか、とその思いの強さを感じずにはいられません。そして、能登で暮らす人が減っているという現実に危機感を募らせているのには、また別の理由もあります。
そこには、この地域にとってアイデンティティともいえる“祭り”の存在がありました。GOENは地域文化の担い手としても、活動の幅を広げています。
