杉センセイの生物図鑑、 知らんけど
# 5
栗/ブナ科クリ属
縄文時代から続く人との関係
2020.10.8
photo by Shunichi Kouroki

今回は秋の味覚である「栗」をテーマにします。栗は、食料として、木材として、縄文の時代から人の暮らしを支え続けてきたとても重要な植物です。この連載はなぜだかクマがよく出てきますが、日本のブナ科植物の中でもっとも早く実をつける栗は、早秋のクマにとってもかなり重要な植物です。そんな栗についての知識を、杉センセイに教えてもらいましょう。

写真:編集部/文:安江 悠真

世界に広がる
栗の仲間

杉センセイ、栗がおいしい季節になりましたね!私の大好きな栗きんとんやマロングラッセ、たくさん食べたいな~。ところで栗って和のイメージがありますけど、世界中にあるものなんですか?

栗きんとん
photo by enasan_net

栗はなあ、世界中にあんねん。北半球に広く分布しとって、アジア、欧州、アメリカ、アフリカの四大陸にまたがっとる。世界には12種類くらいの栗が存在していて、食用になるのは主に果樹栽培されとるもの。大きく分けて、日本グリ(和栗)、西洋グリ、中国グリ、アメリカグリの4種類あんねん。たとえばモンブランに使われとるのは西洋グリや。日本の栗ご飯に入っとる黄色い実とはちごて、淡い茶色をしとるな。

へえ!世界中に栗があるなんて知らなかったです。日本にも栗の産地ってあるんですか?

丹波栗
photo by Banzai Hiroaki

日本では、茨城県、熊本県、愛媛県、岐阜県、埼玉県あたりが有名な産地で、この5県で全国の収穫量の約6割を占めとるで。他には、長野の小布施町や京都の丹波地方も全国的に有名やね。京都の丹波地方は「栗のふるさと」と言われていて、栽培の歴史は「古事記」や「万葉集」にも記載されとる。この地方では、米の代わりに年貢として納められるほど貴重なものやった。和栗の有名な品種「丹波栗」は、この地方で野生のシバグリを品種改良したのが始まりやねん。和栗の栽培品種は、現在では100種以上もあると言われとる。

山に生えてるものを拾う「栗拾い」のイメージだったけど、栽培されているんですね!じゃあ、野生の栗は食べられないってこと?

地面に落ちた栗のイガ
photo by iwks

野生のものも食べられるで。栽培品種の栗は、果実を大きくして食用に特化した品種改良が進んどるけど、栗の実は生でも食べられる優秀な食材なんや。縄文時代の人がどんぐりやトチ、クルミの実を食べとったっちゅう話を聞ぃたことあるやろ?どんぐりやトチは渋いタンニンが多いから“あく抜き”をせぇへんと食べられへんけど、栗は生でも十分おいしい。せやから縄文人の食事の中心になっとった。つまり、稲作が始まる前は、栗が主食やったんや。

栗の痕跡は
縄文時代にあり!

栗は長い歴史を持つ重要な食べ物だったんですね!それにしても、縄文時代の生活のことが、どうしてそんなにはっきりわかるんですか?

遺跡からわかるもんなんやで~。日本各地の縄文時代の遺跡から栗が出てきとる。「貝塚」は知っとるか?貝殻や魚の骨を捨てとった穴なんやけど、他にも動物の骨や木の実が発掘されていて、そうした痕跡から栗が主食であったことがわかっとる。他にも、穴を掘って木の実を貯蔵しとった跡や、集落の近くに栗を植えて育てとった痕跡がようけ見つかっとるらしい。

縄文時代から栗の栽培もしていたんですか…!?

そうそう。ただ、今でいうスギやヒノキのように世話をしとったわけやのうて、山でおっきな実をつける木を選んでは、その実を持ち帰って集落の周りに植えて、大きくなったら収穫しとったようやねん。つまり、半栽培といったところやろか。「桃栗三年柿八年」ちゅうことわざにあるように、栗は実をつけるのも早いねん。

なるほどー。でも、縄文時代って狩猟採集の時代だと思っていたので、少し意外でした。

三内丸山遺跡のやぐら。栗の木でできている
三内丸山遺跡のやぐら(photo by xiquinhosilva)

栗を集落の周りに植えとったのには、他にも理由がありまんねん。栗は木材としてもどエライ優秀で、建物の柱などに使われとったらしい。青森県にある「山内丸山遺跡」の、おっきなやぐらのような建物は誰でもいっぺんは写真とかで見たことがあるやろ?あのやぐらも実は栗で建てられとる。今あるやぐらは復元されたもんやけど、土台の部分からは、4200年前の直径1mもある大木が腐らんと残っていて、そのままの状態で出土したそうやねん。

栗の木で
薪ストーブはいかが?

ふむふむ。歴史の中で栗と人が密接に関わってきたことが、よくわかりました!現代ではその関りが少し薄れてしまった気がしますけど、実際どうなのでしょうか?

今は栗の実を食べる以外では栗を利用する機会は減っとるかもしれんなあ。これは、木の実を食べるクマが人里に出てくるようになったこととも関係しとるんやで。昔であれば、人里近くに植えられとった栗は、建築用材や薪にするために定期的に伐採しとった。こうした木は伐採されると再成長にエネルギーを使うから、あまり実をつけへん。ところが現在は人の手が入らんから、大きく成長した木が人里でようさんの実をつける。結果的に、人里近くはクマにとって魅力的な環境になってしまっとるわけや。

木を使わないことが、人と野生動物の関係性を悪化させてしまうこともあるんですね。

薪ストーブに栗の木や里山の雑木をどんどん使おう!

最近は薪ストーブの愛好者も増えたよな。利用されておらん人里近くの雑木林に手を入れて薪などに活用することで、人とクマの新しい形のすみわけができるとええなと思っとる。

どんどん薪を使いましょう!久しぶりにキャンプでも行って焚き火しよーっと!
他にも人と栗の関係性について何かあれば教えてください。

最近の話題でいうと、栗の品種の中で、渋皮のはがれやすいものができたことかな。すでに「ポロタン」ちゅう名前で生産が始まっとりまっせ。まだ生産量が少ないから貴重品やけど、そのうちクリの中心品種になるやろ。他には…そうやね、「鉄媒染(てつばいせん)」ちゅうものを知っとる?

初めて聞きました。鉄媒染ってなんですか?

鉄くずをお酢に漬けた液体とタンニンを反応させると黒く変色するんやけど、これを利用した染色技術のことやで。栗の実はタンニンがないから生食できるけど、渋皮や材の部分にはようけタンニンが含まれとる。これをつこうて、布や木工品を染める技法があんねんで。技術自体は古くからあるもんやけど、今も若手の作家さんがこの技法をつこうて魅力的なプロダクトを生み出しとるみたいやで。古の技法と新しい時代の感性の融合はワクワクするな~。将来的には栗×AIなんてものが出てくるかもしれへんし。知らんけど。

杉センセイのまとめ
●栗は世界中に分布していて、日本の栽培品種も100種以上ある
●カンタンにおいしく食べられる栗の実は、米よりも早く日本人の主食になっていた
●木材としても優秀な栗は、昔から人の生活を支えていた
●品種改良やものづくりを通じて、人と栗の関係性はこれからも変化していく

人と栗の関係は、昔も今も、いろいろな形で続いているのですね。これからの季節、甘栗や栗ご飯を食べながら、家のすぐ近くに生えている栗と、自分の生活との接点について考えてみてはいかがでしょうか?

そんなこんなで今回はこのへんで。杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!まだ1通も来ていません!よろしくお願いします!

【参考】
https://compass314.hatenablog.com/entry/2019/01/25/103351
https://mokumokuishi.com/?pid=150184435
名久井文明『伝承された縄紋技術 木の実・樹皮・木製品』
石井誠治『木を知る・木に学ぶ ―なぜ日本のサクラは美しいのか?―』

安江 悠真 (やすえ・ゆうま)
岐阜県白川町の限界集落出身。生きもの好きの延長で岩手大学の農学部に進み、林業と野生動物の関係を研究テーマとする。現在は岐阜県に戻り、カフェの店長をする傍ら、時々山に入って知的好奇心を満たす日々を送る。読書/コーヒー/薪割り