森で働く
# 5
クリエイティブな森の民
根羽村森林組合 【前編】
2020.8.18

「森と関わって働く人」のリアルな現場の声を伝えていく当連載。幼いころから森の中で暮らし、山で生き抜く知恵をたくさん持った人がいる一方で、生まれ育った環境とはまるで違う地で0からの生活を始め、腰を据える人もいます。今回はそうした移住者たちに会ってきました。長野県下伊那郡根羽村で、森林組合を中心とした“村と山の関わり”について聞いていきます。前編はオヤジたちの登場です。

写真:西山 勲/文:田中 菜月

ゴッドハンドを携えて
山を下り、街へゆく

(左から)
根羽村森林組合 参事/今村豊さん
地域プロデューサー/杉山泰彦さん
根羽村森林組合/小野隆治さん

長野県下伊那郡根羽村は県最南端に位置し、岐阜県と愛知県に接した集落です。人口約900人の小さな村ですが、移住者が比較的多く、山との暮らしが今もなお残る地域でもあります。中でも、村の林業を担う根羽村森林組合では、多くの移住者が在籍し、日々山で働いています。

森林組合というと、地域の森林を管理して、木を伐採して売ったり、苗木を植えて森を育てたり、といった仕事が一般的です。根羽村でも当然そうした業務を行っているのですが、他の地域と大きく異なるのは“木育活動”に熱心だということです。普段は山で作業をしている人たちが、子どもたちと直接触れ合い、山仕事のことを伝えたり、木のおもちゃで一緒に遊んだり、山と街を積極的に行き来しています。

そうした活動の中心人物が、同組合の参事を務める今村豊さんです。村内の山のことならなんでも知っている今村さんは地元民なのかな?と思いきや、東京都新宿区出身というから驚きです。学生時代からの山登り好きがきっかけで林野庁に入庁し、旧長野営林局の勤務となりました。その後、婿入りをきっかけに長野県職員として林業に携わります。根羽村とは仕事の都合で関わることが多く、縁あって50歳のときに転職して根羽村森林組合にやってきました。

村内を流れる矢作川。根羽村はこの川の源流域に位置している。

今のような木育活動を始めたのは、約10年前のことです。国土交通省主催の“矢作川流域圏懇談会”に根羽村森林組合として参加し、流域のさまざまな問題について山・川・海の各部会に分かれて課題解決に取り組むことになりました。今村さんは担当者として“木づかいガイドライン”の作成を担うことになり、そこで初めて下流域に暮らす市民と自分たちの仕事のつながりを意識するようになります。

流域にある森林や木々を一般市民に活用してもらうためにはどうすればいいのか。そこで生まれたのが、今に続く“木育キャラバン”でした。週末になると今村さんたちが全国各地へ赴き、子どもたちと木のペンダントづくりなどの木工体験を行い、ライブ感を意識した木と触れるイベントを開いています。

「好きでやっているんだよね。休みのたびに出張しているんだけど、それがすごく幸せ。子どもから見るとさ、オレの手がゴッドハンドに見えるわけ。見本で木のペンダントをつくったりすると、子どもたちは『すごーい!』って言ってくれるんだよ。そうやってプラスのエネルギーをもらっちゃうから幸せなんだよね」

興味津々で遊ぶ子どもたちに負けず劣らず、誰よりも木育キャラバンに熱中したのは今村さん自身でした。今でも年50回は出張しているそうです。

村イチの木工職人は
元サラリーマン

今村さんの木育キャラバンには小野隆治さんの存在が欠かせません。キャラバンのサポートをしつつ、木製品開発など主にものづくりを担当しています。

新潟県出身の小野さんが根羽村に移住してきたのは約18年前、40歳のときのことでした。それまでは食品の卸問屋で働き、順調にキャリアアップを重ねていましたが、管理職として深夜まで働く日々が続き、「これでは死んでしまう!」と転職を考えるようになったと言います。たまたま雑誌で見かけた山師の姿に惹かれ、林業を志し始めたころのこと。ちょうど根羽村森林組合の求人を見つけてすぐに応募し、村に移住することになります。

山の仕事はすべてが初体験、0からのスタートでした。「最初の半年は現場に行くために山を登るだけで息切れしていました」というくらい過酷だったそうですが、10年経ったころには一人前の山師となり、趣味のチェーンソーアートの腕前もプロ並みです。

その後、組合の都合で新しい製材工場の担当となり、突然、木材加工をすることになってしまいました。何度も断ったものの、人がいないということで仕方なく引き受けたのだそうです。ちょうどそのころ、「バンドに引っ張り込まれるみたいな感じでしたね(笑)」と小野さんが話すように、今村さんから誘われて木育キャラバンに加わることになりました。

小野さん力作の「どこでもサウナ」。組み立て式になっているので、好きな場所に設置することができます。
写真提供:取材先

そうして木育活動を始める中で、森の現状を子どもやその親世代に伝えることの重要性や木工自体の面白さに目覚めていきました。商品開発では、木のおもちゃや雑貨から始まり、最近ではサウナや軽トラキャリーまで開発・販売するなど、創造力は止まりません。

※商品の詳細はこちら
http://nebaforest.net/mono/mono.html

「次の新しいものをつくりたくてしょうがないです。自分の好きなものをつくりながら、木育もやり続けています。寝ながら妄想して形にして、どんどん商品が増えていっています」

あんなに山仕事から離れたくなかった小野さんも、今ではすっかり木工職人です。

「工作機械だってそれまで触ったことなかったんですよ。だけど、『好きこそものの上手なれ』っていうじゃないですか。それを実行しているだけの話なんですよね。ものづくり自体は好きだったので。好きだから努力できるし、努力すれば形になります。最初1,2回失敗しても3,4回目になっていいものできたなあってなるんですよ。それをきっかけに山仕事も木工もどんどんうまくなっていくんです」

止まらない!
オヤジたちの妄想

木育キャラバンや木製品づくりに限らず、山づくりについても新たな展開をつくっていきたいと今村さんは語ります。

「どうしたら収益性の高い山づくりができるか、といった今までの当たり前の林業だけじゃなくて、色んな山づくりをやっていきたいです。例えば、景観を楽しめるような花の山づくりをするのもいい。家のすぐ裏山って木を運び出しづらいから、林業地帯にはなり得ないんです。そこで、家から50~100mのところに生えている木は伐ってしまって、代わりに花の山、彩りの山に切り替えていって、そこに階段とかウッドデッキを設置したら、すぐ裏山がパラダイスになりますよね」

今村さんの口からポンポンとアイデアが出てきます。

「オヤジの里山クラブみたいなものもつくりたいと思っているんですよ。山で飲もうぜって。尾根のところにウッドデッキをつくって、星空ビアガーデンをやっちゃうとかね。山の下からロープをたぐって山の上にビールを運んだり、ビアガーデンのそばにウッドサウナをこしらえたり、オヤジはオヤジで楽しむ空間があってもいいと思うんだよね。遊びかもしれないけど、その感覚で山づくりを考えていくのも一つの方法だと思います。そのために、どこにどんな木を植えようか、あの立派な木から種を拾ってきて植えてみようか、そうやって考えるだけでも楽しいでしょ。山に転がっている材で焚き火をしたり、窯をつくってピザを焼くのもいいね~。そうすると山にどんどん人が集まってくると思う。人口減少が特に進んでいる農山村では重要なことだから」

オヤジ2人が集うと妄想が止まりません。話を聞いているとどれも面白そうだけれど、実際どこまで実現できるものなんでしょうか。

「ただの妄想に聞こえるかもしれないけど、マギーがいるから、妄想が妄想じゃなくなるんだよね」と今村さんがニコニコと教えてくれました。

マギー?外国人?
一体何者なのでしょうか。

オヤジたちの妄想を現実に変えるキーマン、マギーの話は後編に続きます。

※後編記事はこちら

●Information
根羽村森林組合
長野県下伊那郡根羽村407番地10
TEL 0265-49-2120 FAX 0265-49-2432
http://nebaforest.net/

田中 菜月 (たなか・なつき)
取材・記事執筆担当。印刷会社で働いていた数年前、ふと森に関わる仕事がしたいと思い立ち林業の学校へ。それ以来どっぷり森の沼にハマる。もう抜け出せない。伐木作業者特別教育修了/狩猟免許の更新忘れた…/休日はアイドル、キャンプ、純喫茶巡り、読書。