森で働く
# 2
飛騨市森林組合 Vol.2
挑戦的な林業を続けたい
2020.2.17

「森と関わって働く人」のリアルな現場の声を伝えていく当連載。森の中で働く人はさまざまで、現場以外にも多くの人が関わっています。第2回目は、前回に引き続き、飛騨市森林組合。今回は管理部門の長、林産部門を統括している新田克之さんです。

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写真:西山 勲/文:田中 菜月

森林組合の仕事とは
管理者として担うもの

《森林施業プランナー》
新田 克之さん
飛騨市森林組合(岐阜県)
林産課 課長補佐

飛騨市森林組合は市町村合併をきっかけに、平成17年10月、古川町・河合村・宮川村・神岡町の4つの森林組合が統合して発足しました。組合員数は約3100人、組合員所有森林面積は約3.4万ha。従業員数は事務職員10人、森林技術者30人。事業は以下の3つが大きな柱です。

●森林整備(苗を植える・下草を刈る・枝打ち・間伐など)
●林産(組合員から受託した山で木材などを収穫)
●路網整備(林業に必要な作業道などの整備)

収穫された木材は市場などで販売され、この利益が事業活動や組合員である森林所有者に還元されていきます。

同組合において、肝となる部分を担うのが新田さんです。森林施業プランナーであり、林業のスペシャリスト。森林施業プランナー協会が認定するもので、対象となる森林の将来的な姿をイメージして作業内容や事業収支を含めた経営計画を立て、実行・管理までを担うのが森林施業プランナーです。

現在、新田さんが担当しているのは林産部門全体の管理。林産チーム4つの動きをすべて把握し、現場の状況に応じて各チームの担当現場を指示したり、専属トラックの効率的な配車を組んだり俯瞰的な視点で林産部門を統括しています。

「現場で細かい指示をすることはあまりなくなりました。どんな作業内容で進めていくのか、エンジニアたちが自分自身で考えることが一番身になるんですよね」と新田さん。人材育成も重要なミッションの一つです。

収益性を確保しつつ、組織としての成熟度も高め、地域の森林をいかにより良い状態で残していくか。背負うものは大きいです。

林業には不向き?
広葉樹林と向き合う厳しさ

日本で冬に落葉する木のほとんどが広葉樹。

岐阜県北部の豪雪地帯に位置する飛驒市は、森林率が93.4%。そのうち広葉樹林が約7割、針葉樹林が約3割を占めています。日本全体で見ると広葉樹林と針葉樹林はほぼ半々の割合であることから、広葉樹が豊富にある地域であることがうかがえます。

しかし、手入れの方法がよく分からない広葉樹は林業に不向きだと言われています。真っ直ぐ育ち手入れが行き届くスギやヒノキなどの針葉樹と比べて、まったく手入れされないため成長スピードも遅くなり、ぐねぐね伸びるナラやブナなどの広葉樹。手間の割に、高価で取引される家具用材はほとんどないため、収益は上がりません。

形質の不揃いな広葉樹。

現在、形質に左右されず簡単に加工できる燃料・製紙用チップとして安く流通しているのは広葉樹が大半です。飛驒市の広葉樹は胸の高さぐらいの直径が平均約26cm。建築や家具用材としては使えずパルプ・チップ、薪にしかならないのが実情なのです。いくら必死に伐採して木を売っても、山に還元される利益が少なく、事業を続けることすら危うくなってしまいます。高値で取り引きされる家具用材もごくわずか。全体で収穫された広葉樹のうち約5%です。

それでも、限られた資源を最大限活用していくしかありません。新田さんたちの手探りの日々が続きました。

やり続けないとわからない
新しい林業が生まれる

最近では、飛驒市の呼びかけで製材所、木工職人と一体になって広葉樹の販売・活用チャネルを増やす取り組みを始めています。

一つは、広葉樹の買い手である木工家に山の現場へ足を運んでもらい、どんなサイズ・形状・質の材がほしいのかなど直に意見交換する場を設けたことです。リアルなユーザーの声を聞くことで、柔軟な丸太の寸法調整ができるように改善を進めています。

現場作業員は3m、4m、6mなどの市場の規格で丸太を切るのが当たり前です。でも、消費者側からすると、1mや1.5mなどもっと細かく刻んだ長さを望む人がいます。手間はかかりますが、生産者の考えと消費者ニーズのギャップを減らすことで、より無駄のない活用法を探り出すことにつながります。もちろん生産コストを下げる工夫も求められます。

そしてもう一つは、広葉樹の“育成木施業”です。仮に将来、直径100cmの大木に育てたい良質な木があるとして、その成長過程で邪魔になる支障木を伐採する必要があります。途中で伐採された木々を消費者へ届けながら、育成木も育てていく。つまり、広葉樹を人工的に管理しながら、収益も上げていく。今までは無理だと思われていたことに挑戦していくということです。

「専門家からは厳しい意見をもらいました。でも、やり続けてみないとわからないじゃないですか。だから自分たちでトライアンドエラーを繰り返しながらチャレンジしています」

きっと周りからは賛否両論あるでしょう。それでも前に進めるのは、“飛騨の森を残していくのは自分たちなんだ”という矜持が背中を押しているからように感じました。

険しい山林でも作業ができる「タワーヤーダ」をいち早く導入した。

資源の限られた山深い地域で生き残っていくためには、あるものを最大限活用するために頭を捻り、行動していくしかありません。今の木材流通や需要にそぐわない形だとしても、価値転換を起こすような“何か”が必要です。“何か”の答えは誰もわかりません。それでも探し続けなければいけない。行動あるのみです。

サブリーダーの沖村幸介さん。13年目のベテラン。この日は造材を担当。
地元・ 飛驒市古川町出身の後藤慎治さん。腰元のリモコンでタワーヤーダを自在に操る。

飛騨市森林組合での取り組みは新しい林業に向けたチャレンジの一例です。森林全体の管理方法や作業システムは多様で、各地域の自然環境や立地、経済、物流、文化、さまざまな要因に影響されています。今後もマクロとミクロの視点を織り交ぜながら、林業や森で「働く人」に話を伺っていきます。

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。