森にまつわる本や映画のラビリンスにどっぷりとはまり込む、そんなカルチャーを紹介する「Memento Mori」。今回は取材先である岩手県遠野市で出会った小関さんの本棚から一掴み。「家って自分でつくればいいのでは?」と思ったら読みたい3冊を紹介してもらった。
人間が暮らしやすい“巣”とは
どんなカタチ?
「家を買う」。それは、人生で最大の買いものと呼ばれるほどに高額だ。なぜ35年間も借金して返済しなければならないのか?仕方がないと考えている人も多いであろう。この悩みに「自分で家を建てる」というアンサーを持っている人がいる。それが今回書籍を紹介してくれる小関直(ただし)さんだ。まずは書籍の紹介を始める前に、選書をしてくれた小関さんを紹介したい。
小関さんが活動の拠点としているのは、岩手県の山中に位置する遠野市の借家。「超低コスト住宅研究会」というパンチのある屋号で、生きていくために必要なものをどれだけ自作できるか実験しながら暮らしている。そんな超低コスト住宅研究会のHPにはこんな一節がある。
―― 動物たちは自分で巣をつくる――
私はこの言葉を聞いたときに「人間も動物だし、自分で“巣”を作れるのではないか?」と妄想を膨らませた。現在は、長く大事に住む家が主流だ。その一方で、例えば出張や移動が多い人には、安く短くカスタムしながら移動できる家のほうがマッチしているかもしれない。
「バン箱゜」(VAN-PACO)と室内用「巣箱゜」(SU-PACO)だ。どんな巣をつくったのかは、別記事に譲ろう。
さて、小関さんの家は、リビングにSU-PACOを設置しているため「家の中に家がある」という奇妙な状態だ。おかげでリビングはSU-PACOに占領されている。今回、紹介いただく3冊の書籍はこのSU-PACOによって日影に追いやられた本棚から引っ張り出してきたものだ。小関さんはこれまで、どんな書籍に出会うことで巣をつくれるようになったのだろうか?おすすめの本を3冊引っ張り出してもらった。
思ったよりも
簡単な小屋暮らし
まず紹介する書籍は、『Bライフ 10万円で家を建てて生活する』。海外放浪や路上生活を経て、家づくりを始めた著者の経験が整理されている本だ。ここで著者の定義するBライフとは“Basic Life”を意味している。すなわち「必要最小限の暮らし」ということ。必要最小限で生活していくためには、現実問題として何から始めればよいのか?そんな妄想やたくらみを実現しようとする筆者のリアルが描かれている。お金周りの話も具体的に盛り込まれていて、DIYや小屋暮らしに関心がなくともこんな生き方ができるという気付きを得られるはずだ。
『Bライフ 10万円で家を建てて生活する』
出版社:秀和システム
価格:1,320円(税込)
小関さんコメント:
100万円程度の初期費用で月2万円のお気楽生活を手に入れる、という小屋暮らしを紹介している本です。お金をかけない暮らしを目指す人にとっては参考になる内容だと思います。著者はDIY初心者にも関わらず、土地を探し、小屋の建て方をWebで検索しながらつくり上げ、小屋暮らしを始めています。この本の面白さとしては、よくあるノウハウ本の上級者感や丁寧さが少なく、素人が試行錯誤しているリアル感が「こんなに適当でも何とかなってしまうのか!?」と、逆に読み手を勇気づけます。当時会社員だった私は、読み終えた後にさっそく土地探しをするようになりました。小屋暮らしにかかる月々の生活費、各種税金や社会保険などの金額をわかりやすく示していて、「こんな考え方があるのか!」と気づかせてもらえました。この暮らし方を知っていると、いざという時の安心感が生まれると思います。
自分で家を作ることを
リアルにしてくれた一冊
小屋づくりといっても、つくり始めるにあたって悩む点は数多くある。資格や法律関係に作業の細かい部分など例を挙げればきりがない。本書では、そんなプロと素人の間のDIY住宅で直面する課題をコストも含めて記されている。著者が木造住宅のホゾ組・基礎工事・設計の基礎を独学で学んだということもあり、記述が分かりやすいのもポイントだ。
『自分でわが家を作る本。』
著者:氏家誠悟
出版社:山と渓谷社
価格:1,870円(税込)
小関さんコメント:
DIYを趣味とする人が一度は憧れる「家をつくる」ことを実践した貴重な本です。素人が9年かけてコツコツと家をDIYで築いた記録が綴られています。法律や金額についても細かく書かれており、読みながら自分の未来の家づくりに思いを馳せることができます。苦労話などのコラムもあり読みものとしても面白い。水回りやお風呂、トイレ、電気工事などについても一通りセルフでやる方法が書かれており、家のリフォームなどにも応用できる内容です。私の場合はこの本を読んでから「家を自分で」という考えになっていきました。
マイ発電所!?
電気もDIYの時代
やはり現代生活の中で欠かせないインフラのひとつが「電気」だろう。電気が途絶えてしまえば、たちまち生活は変わる。だから安定した供給を求めて電力会社と契約を結ぶ。でも、常識を疑い、当たり前にある電気だからこそ自分でつくってみるのはどうだろう。実際に書籍のレビューを覗いてみると、そうした衝動に駆られて太陽光発電システムを自作している人の多さに驚く。自分だけの太陽光発電所を創り上げることは、夢ではない。
『自分で作る蓄電型発電所 1kW独立型太陽光発電』
著者:角川 浩
出版社:パワー社
価格:1,650円(税込)
小関さんコメント:
自分で太陽光パネルを設置することで電気を確保できないか、と考えたときに見つけた本です。本のタイトルの通り「DIY」で太陽光パネルを設置する内容なのですが、内容がマニアックなので理系的な工作が好きな人向けの本です。太陽光パネルについてはもちろんのこと、配線の接続の方法、コネクターの種類、電気量の計算など自作するにあたり参考になることが書かれています。この本だけでは不十分と感じる点もありますが、できるだけ安価な材料を探してコツコツとつくっていく姿勢がとてもお気に入りです。この本を参考に自分でも発電システムを構築し、さらに幅を広げるために電気工事士の免許も取得しました。
小関さんの紹介してくれた書籍と書評を見ていると、自分が求めているベーシックで必要最小限の暮らしとは、どんなものだろうかと考えさせられる。家や電気まで自分でつくれるのに、交通の便と職場への近さで選んだアパートに住み、生活インフラにそれなりのコストを支払っている。一方でDIYなら、自分にとってちょうどよいものをつくれるし、自分の生活スタイルや暮らし方を見直す機会になるかもしれない。たまには上手くいかないこともあるだろうが「プロじゃないし」と割り切ることもできる。そんな「ラフさ」を、まずは書籍から楽しんでみたい。