Memento Mori -Books,Cinema,Art,and more-
# 8
山暮らし開拓者が選ぶ
タメになる3冊
2021.9.29

森にまつわる映画や本のラビリンスにどっぷりとはまり込む、そんなカルチャーを紹介する「Memento Mori」。今回は取材先である群馬県の奥地で出会った、北山郁人さんの本棚からひと掴み。古民家の建て替えから林業・農泊などの多彩な生業を掛け持つ北山さんに、山暮らしに憧れたら読んでおきたい、とっておきの3冊を紹介してもらった。本当にワクワクして役立つ本とはどのようなものだろうか?

写真:北山 郁人、西山 勲/文:北山 郁人、高岸 昌平

豪雪地帯をイチから
開拓した北山さん

どんな生活や趣味を始めるにしても、自分で本を読んで知識を蓄えたり、理解することは大切だ。本を読み進めながら妄想が膨らんだり、夢が広がったりするような本もいい。実際に田舎暮らしを実践している方に、読んでよかった本を選んでもらった。まず、本の紹介を始める前に、選書をしてくれた北山郁人さんを紹介しよう。

どんな生活や趣味を始めるにしても、自分で本を読んで知識を蓄えたり、理解することは大切だ。本を読み進めながら妄想が膨らんだり、夢が広がったりするような本もいい。実際に田舎暮らしを実践している方に、読んでよかった本を選んでもらった。まず、本の紹介を始める前に、選書をしてくれた北山郁人さんを紹介しよう。

北山さんは東京・奥多摩の秘境から10年以上前に群馬県の奥地・みなかみ町の藤原地区へと移住してきたベテラン移住者だ。新潟県に隣接する藤原は雪の多い地域で、周囲にはスキー場がたくさんある。そんな土地で北山さんが現在も暮らしている古民家は、北山さん自身が基礎から建て替えたというから驚きだ。

その他にも農泊事業や林業を始めたり、茅葺き屋根の材料となる茅の生産をしていたりと地域のキーマンとして多岐に活動している。編集部はそんな北山さんと林業を始めた、みなかみ町の移住者を取材していた。

北山さんたちの取材記事はこちら

取材帰りに、北山邸での話を振り返りながら、北山さんの背後にあった本棚が気になっていた。きっと農泊事業に林業、古民家の改築など多分野で活動するにあたって、相当な数の本を読み、それを実践してきたに違いない。「本棚はその人の人柄を映す」と言うが、一体どのような本が積まれているのだろうか?そして、北山さんが選ぶ本当に役立つ山暮らしの本とはどのような本なのだろうか?3冊の本を選んでもらった。

秘密基地をつくるような
自給自足づくり

最初は『完全版 自給自足の本』。なんとシンプルなタイトルなのだろう。出版されてから40年近く経過しても読み継がれるバイブルである。「自給自足」という生き方は、どこか本気のサバイバルのようなイメージが先行しがちだけど、簡単に言えば自然のものを活かして生活しようということである。自然の中から自分で作る・育てる・生み出す、そんな喜びのある自給自足ライフが見つけられそうだ。

最初は『完全版 自給自足の本』。なんとシンプルなタイトルなのだろう。出版されてから40年近く経過しても読み継がれるバイブルである。「自給自足」という生き方は、どこか本気のサバイバルのようなイメージが先行しがちだけど、簡単に言えば自然のものを活かして生活しようということである。自然の中から自分で作る・育てる・生み出す、そんな喜びのある自給自足ライフが見つけられそうだ。

『完全版 自給自足の本』
ジョン・シーモア/文化出版局/3,190円(税込)

「田舎で自給自足の暮らしをやってみたいという願望を抱いている人にとっては、妄想の膨らむ本です。土地の開墾から食料をつくり、家を建ててエネルギーを自給するところまで、幅広く紹介されています。すべてが事細かに載っているわけではなく、自給自足に必要な知識や技術を網羅的に知ることができます。1983年に出版されている本ですが、基本的に手作業・手づくりでできることが紹介されている普遍的な内容です。著者がイギリス人なので、日本の風土との違いはありますが、手描きの図解が多く見ているだけでもワクワクする楽しい本です」

地元民とよそ者が
一緒に見つける地域の宝

「まちづくり」や「地域づくり」といった言葉を聞く機会が増えてきた。いまや大学にもそんな学部があるという。でも「地域づくり」といっても、“地域”は昔からあるわけだし、新しく何かモノを“つくる”ことが「地域づくり」ではないはずだ。では、一体地域をつくるとはどんなことだろうか?

『地元学をはじめよう』
吉本哲郎/岩波書店/924円(税込)

「地域には、よそ者から見ると大変貴重で面白いモノや自然と生きる先人の知恵などがたくさん眠っています。地元学とは、地元の方とよそ者が一緒に地域の宝を発見していく手法のことで、水俣病問題で苦しむ地域住民が、地域をどう再生するかというところから生まれました。ないものねだりをやめて、足元にあるものを再発見していくプロセスは、とても刺激的で面白く、地域に活力が生まれます。地元学の視点で地域を見ることができると、全く違ったその土地の魅力に気づくことができるようになります」

月と木にまつわる
古くて新しいロマン

月と木の間にどんな関係があるのだろう?そう疑問を持つ人もいるだろう。1996年に原著が出版された当時も、賛否両論を巻き起こした。月の満ち欠けと、木材の質にどのような関係があるのだろう?科学的にも実証されつつあるという、本書の記述を確かめたい。古くて新しい「新月伐採林業」がここから生まれるかもしれない。

『木とつきあう知恵』
エルヴィン・トーマ/地湧社/2,750円(税込)

「著者が製材業を営むオーストリアでは、樹木を新月に伐採すると腐りにくく、虫がつかず、火にも強くなると言います。これまで、経験的に言い伝えられてきたことでしたが少しずつ科学的にも証明されてきており、オーストリアの森林局では、新月に伐採されたことが証明書に明示されているそうです。

日本でも法隆寺は『闇伐りの木』、つまり新月に伐採された木が使われていると伝えられています。また、有名なヴァイオリンの名器、ストラディバリウスも新月伐採の木を使っていると言われています。しかし、新月伐採の効果は、まだ科学的に証明されていない部分も多く、だからこそロマンがあります。月の満ち欠けと生きものの関わりは謎に満ちています。サンゴは満月の日に一斉に産卵をすると言われています。私も40数年前、6月の満月の日に生まれました。調べてみると妻も満月の日に生まれており、当然、私の子どもも満月の日に生まれました」

北山さんから選書した本とその紹介文をいただいたときに、田舎暮らしや山暮らしをつくるということは秘密基地をつくるような面白さがあるのだろうなと感じた。身近な自然・人と関わる中で暮らしていくことが純粋に楽しそうに思えたのだ。当然、大変なこともあるだろうけど、田舎暮らしは生きていくことそのものなのかもしれない。それに気がつくためには、本に目を通すこともいいだろう。本から新たなイメージが生まれれば、ペンをとり自分の理想だって描きたくなるはずだ。

高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。