林業NOW 番外編 #1
Special Issue 4
森の未来を作るのは誰だ?
「moritomirai」
2023.4.29
ボードゲームやカードゲームを中心としたアナログゲームが人気を博しているこの頃。実は森林・林業界にも、ゲーム教材が増えてきているのをご存じでしょうか?ただ、一口に「林業教材」といっても様々なジャンルがあります。今回は多々ある教材の中から編集部が選んだ4つのゲーム教材を紹介したいと思います。楽しみながら理解する新しい“林業教育”の世界へようこそ。

日本の地方紙で一番初めに創刊し、2022年で150年を迎えた山梨日日新聞社。その節目となる年に作ったのが森林を題材としたカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」でした。なぜ新聞社がカードゲームを開発したのか?その経緯と想いを、本プロジェクト企画の山梨日日新聞社・秋山高男さんとゲームを開発した株式会社プロジェクトデザインの長瀬めぐみさんに聞きました。

写真:編集部/文:高岸 昌平

発信から企画のアクションへ

新聞社の企画で開発した森林のカードゲーム。それは、山梨日日新聞社の150周年に合わせた「やまなしSDGsプロジェクト」がきっかけでした。プロジェクトの企画をしていた秋山さんは当時を振り返ります。

●やまなしSDGsプロジェクト
https://www.sannichi-ybs.co.jp/sdgs_project

「地域の新聞として150年の間、購読いただき支えられている中で何をすべきかと考えていました。そんなときに、たまたま民間会社のある調査を見て、山梨県のSDGs認知度が全国でも低い後発県だと知りました。これはメディアとしてもっと発信しなくてはならないと、2021年7月1日にやまなしSDGsプロジェクトをスタートさせました」

1年目のプロジェクトのひとつである「わたしのSDGs宣言」の紙面。写真提供:山梨日日新聞社

1年目に行った取組のひとつが、新聞の「わたしのSDGs宣言」コーナーに小学生や読者などから意見を募るというもの。この取組が後に2年目のプロジェクトの方向を決定づけるものとなります。というのも、小学生から届いた宣言の中に「森を守るために木を使わないようにしよう」「木を使うこと=悪いこと」という認識が散見されたのです。海外の森林問題には過剰な伐採による問題が起こっていますが、日本の場合は木を適切に使い新たに植える循環を生み出すことが必要です。水資源豊かな富士山の麓・山梨で子供たちの間に間違った認識が根付いてはいけないという危機感から2年目からは「moritomirai」というプロジェクトが立ち上がり、その活動の一つにカードゲームがあったのです。

起きた出来事を取り上げて発信するという従来の新聞社の役割に留まらず、森林への正しい認識を伝えるためにゲームを作ろう!という企画側からの取組には、150周年を迎えた老舗地方紙の新たなメッセージを感じます。

そして、社会課題をカードゲームとして制作し広めてきた株式会社プロジェクトデザインとの連携が始まります。“ゲームを作るプロ”と“取材のプロ”が互いの強みを活かして、森林・林業のことをリサーチし、ゲームづくりは着々と進行していきました。そうして完成したゲームがカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」です。

森林の正しいループ=循環
に必要なこととは?

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」では10チームそれぞれに“山主”や“商工会”や“木材商社”のような役割が与えられています。各チームにはそれぞれ異なるゴール条件が設定されていて、現実社会さながらの利害関係。そのジレンマの中で毎ターン仕事カードと生活カードをアクションすることで、まさに森と未来を作っていくゲームになっています。

●ゲームの概要
対象:小学校高学年~大人
1ゲームにかかる時間:1時間30分~3時間
1セットで対応できる人数:10~40人

「森林への愛着(関心)」「手入れ・管理」「整備森林(資源量)」「林業の経営力」(上から)が、毎ターンのアクションによって変化し、森の未来が決定づけられていきます。

このゲームの肝はプレイして作られる社会が正のループに入るのか、負のループに入るのかというところにあります。そのヒントはホワイトボードにあるのですが、そのカギが何であるかは体験してのお楽しみ。どちらのループに入るかで、アクションするカードの効果が大きく変わります。実際の社会でも、社会の協力を得られないと良い取り組みでもなかなか広がらないですよね。それと同じで、他チームといかに協力・コミュニケーションをとるかが大事になります。

ゲームを開発したプロジェクトデザインの長瀬さんは、このゲームのテーマの一つとして山との心的距離を挙げています。

「山梨日日新聞社さんのある山梨も、プロジェクトデザインのある富山も飛騨五木さんのある岐阜も、人が暮らすまちと山との物理的距離は近いですが、わたしたちが日頃山を身近に感じ、山と関わりながら生活をしているかというとそうではないなと感じています。現代に生きるわたしたちの山と心の距離はとても遠いのではないでしょうか。だからこそ、未来を担う子どもたちがゲームを終えた後に『自分には何ができるかな』と考え、行動することを大事なテーマの一つにしています」

実際ゲームを体験してみると、普段は目に見えない社会のつながりがゲームによって可視化されていることがわかります。そうした相互関係が見えてくるので、ゲームが終わったときにどんな立場でどんな仕事をしていても、自分にもアクションできることがありそうだと感じられます。

ゲームから探究へ

現在も山梨県内を中心に全国各地で体験会を開催しているカードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」。ただ、長瀬さんはゲームはきっかけに過ぎないといいます。本来はゲームのあとに子どもが自分で学び始めること(=探究)が大事です。その筋力をつけるために、探究ワークブックという教材も作りました。

最後に、これまでも海洋プラスチック問題やSDGsをカードゲームの題材として取り上げてきた株式会社プロジェクトデザインがゲームに込める想いを聞きました。

「プロジェクトデザインのゲームで大事にしてることの一つに他者との協働があります。森林に限らずあらゆる社会問題は、単体組織だけでは解決できないフェーズにきています。だからこそゲームの中では、コミュニケーションをしっかり取ること・自分の目標や目的を開示するからこそ相手と協働が生まれること・異なる組織が連携する大切さが学べるような工夫が散りばめられています」

世の中で課題になることの多くは得てして、コミュニケーションに問題があることが原因となっているように感じられます。コミュニケーションを閉ざして、価値観を対立させてしまったり、会話をしないことで立場の違いを理解できなかったりと、社会問題を見ていると思い当たる節がいくつもありそうです。

カードゲーム「moritomirai(モリトミライ)」をプレイすれば、実は森林も同じコミュニケーション不足なんだということが分かります。では、森林とどうコミュニケーションするのがいいのでしょうか。こうしたテーマで小学生たちの探究も深まっていくに違いありません。

●imformation
・やまなしSDGsプロジェクト「moritomirai」
※ゲームに関するお問い合わせはHPのお問合せフォームからお願いいたします
https://www.moritomirai.com/

・山梨日日新聞社
https://www2.sannichi.co.jp/

・株式会社プロジェクトデザイン
https://www.projectdesign.co.jp/

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高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。
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