林業NOW 番外編 #1
Special Issue 1
林業に隠れるバランスの正体とは?
「FOREST BALANCE GAME‐幻の山林王‐」
2023.4.29
ボードゲームやカードゲームを中心としたアナログゲームが人気を博しているこの頃。実は森林・林業界にも、ゲーム教材が増えてきているのをご存じでしょうか?ただ、一口に「林業教材」といっても様々なジャンルがあります。今回は多々ある教材の中から編集部が選んだ4つのゲーム教材を紹介したいと思います。楽しみながら理解する新しい“林業教育”の世界へようこそ。

はじめに紹介するのは、「FOREST BALANCE GAME‐幻の山林王‐」です。このゲーム教材は、我々響hibi-ki 編集部が独自にテストプレイを重ねて制作したもので、編集部の掲げる目標「林業教育革命」の第一歩となります。その開発の経緯やゲームを選んだ理由をお伝えします。

写真:編集部/文:高岸 昌平

学校教育に林業を取り戻せるか?

響hibi-ki 編集部は主に筆者の高岸と田中の2人で運営しているWEBメディアです(5月からメンバーが増えます!)。お互いに森林・林業の情報発信について課題を感じる中で、メディア活動に取り組んでいます。昨年には岐阜県内の農林高校で出前授業をする機会があり、ここからゲームづくりが始まりました。

私は自分の学生時代の出前授業を思い返しながら、ただスライドを見せながら話してもつまらないし、その知識は結局忘れられてしまうと感じていました。せっかく授業をするなら、生徒が自分で手を動かして欲しいという気持ちから「林業をゲームにする」ということを思いつきます。

そこでゲームのテーマにしたのが「林業を正しく理解すること」です。とはいえ、正しい林業とはなんでしょうか?シンプルな質問でありながら、最も難しい質問であるようにも感じられます。

当然、地域が異なれば野菜の育て方が変わるように、林業だって場所や地形が変わればベストな施業が変わります。その意味では、この林業の形が最も良い!という方程式のようなものはないのですが、山づくりを仕事と考えるときに必ず抱えるジレンマが「経済と環境」なのではないかと思います。

災害リスクを最小にして小さく確実に進める林業もあれば、効率と経済性を求めて機械で伐り進める林業もあるでしょう。どちらの考え方も行き過ぎれば、持続性のない林業になるはずです。そのポイントを探るようなゲームにすれば、自然とそのバランス感覚を知ってもらえるのではと考えたのです。

あなたはどんな戦略で
林業経営しますか?

そうして社内でテストプレイを進め、「FOREST BALANCE GAME」と名付けられたプロトタイプを実際に高校で実施してみました。生徒からの反応は上々で「林業はただ木を伐って売る仕事だと思っていたが、持続可能な社会にしていくために目の見えないところで大事な仕事をしていることを学んだ」「ゲームの後の解説でナゾが解けた感じがして面白かったです!」というアンケートをいただきました。

FOREST BALANCE GAMEの盤面。

・1ゲームのプレイ時間:15~20分
・1つのゲームセットで実施できる人数:2人

ルールは主に4つのフェーズで構成されています。

1.購入フェーズ:手持ちのコインで林業機械・資材を購入します。
2.施業フェーズ:購入したアイテムに合わせて施業をします。
3.成長フェーズ:施業ごとに得られる効果を受け取ります。効果の種類は2種類で森林の質(盤上の☆)が増えるものと手持ちのコインが増える効果があります。
4.運命フェーズ:運命カードの山から好きなカードを1枚ひき、その効果を受けます。

このゲームの肝となるのが4つ目のフェーズである赤い運命カード。山の中で様々な物を見つけたり、自然災害が発生したり、プレイヤーを一喜一憂させます。このカードに林業機械と災害の関係や獣害被害と対策の関係がちりばめられているのです。勝敗は5ターン終了時に☆とコインの合計枚数が多いプレイヤーの勝利となります。

聞いたことは忘れる
やったことはわかる

ここまでは普通のゲームなのですが、FOREST BALANCE GAMEがその効果を発揮するのは、2ゲーム目・3ゲーム目とゲーム数を重ねたときにあります。その効果とはゲームの戦略に表れてくるのです。

というのも大体のプレイヤーが1ゲーム目に、大きなマイナスの災害や獣害に遭遇します。ただ、その経験をもとに2ゲーム目からは獣害対策を手厚く施したり、活用する林業機械を変更したりと戦略を変化させ始めるのです。

おそらく私が口頭で獣害被害が深刻なんです!災害って恐いんです!と伝えただけでは、起こらないこと。聞いただけでは忘れやすいことが、ゲームの中で被害を疑似体験したことで、自分事としてどうするべきか戦略を考えてくれたということです。

FOREST BALANCE GAMEはその使い方にも特徴があります。カードがベースとなっているので、企業版や地域版のゲーム作成が可能なのです。鹿による被害よりも熊の被害が大きい地域では新しいカード「熊はぎ」を入れてみても良いかもしれません。企業の写真を活用したオリジナル版も良さそうです。

生徒オリジナルのイノベーションカード。

そうした拡張性としてイノベーションカードを組み込んだ仕掛けも行いました。起業に関心ある高校生をターゲットに通常のゲームに取り組んでもらった後、白紙の運命カードに考え着いたイノベーションを記入してもらいます。そして、そのイノベーションを運命カードの代わりとしてアクションすることで、ゲーム上でイノベーションを起こしたのです。普段は全く林業について考えないという生徒に向けて、全く新しい林業の切り口だったのではないでしょうか?

さて、プロトタイプとして制作したFOREST BALANCE GAMEですが、現在製品化に向けたプロジェクトを進めています。読者の皆さんの力を借りつつ、林業教育革命に向けた一歩を踏み出したいです。ぜひ下記サイトをチェックしてください!

●クラウドファンディングサイトはこちら
https://www.oco-s.jp/project/hidagoboku

●ゲームのお問い合わせ先
飛騨五木株式会社 響hibi-ki編集部
info@goboc.jp

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高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。
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