林業NOW 番外編 #1
Special Issue 2
売れる木を見極めろ!
「セ―ザイゲーム」
2023.4.29
ボードゲームやカードゲームを中心としたアナログゲームが人気を博しているこの頃。実は森林・林業界にも、ゲーム教材が増えてきているのをご存じでしょうか?ただ、一口に「林業教材」といっても様々なジャンルがあります。今回は多々ある教材の中から編集部が選んだ4つのゲーム教材を紹介したいと思います。楽しみながら理解する新しい“林業教育”の世界へようこそ。

紀伊半島の先端に位置する三重県熊野市で活動する熊野林星会と三重大学が開発した「セ―ザイゲーム」。林業よりもさらにニッチで人目に触れにくい製材の世界をどのようにゲーム教材にしたのでしょうか?熊野林星会の会長であり、株式会社nojimokuで代表取締役社長を務める野地伸卓さんに話を聞きました。

写真:編集部/文:高岸 昌平

開発のヒントは
製材にのめりこむ大人たち!?

山から伐り出された丸太をカットして、建築に使える木材へ加工する製材業。木材産業の中で欠かせない役割を担いますが、私たちの生活からは遠い存在で認知度もいまひとつ。野地さんはそんな製材業をなんとかアピールできないかと考えていたといいます。そのヒントとなったのが、定年を過ぎても工場で製材をして働き続けているおじいちゃんでした。

熊野林星会の会長であり、株式会社nojimokuで代表取締役社長を務める野地伸卓さん。

「製材は丸太の仕入れとそれをカットした時に思い通りの木材(節がでない、きれいな木目など)がでるか答え合わせをするっていう博打的な要素があって、上手くいったときの快感がすごいんですよ。それでおじいちゃんになっても辞められないと聞いて。これ面白いなということで、ゲームにして小学生にもやらせてみたら良いんじゃないか?と思ってやってみたら、めちゃくちゃ盛り上がったんです!」

製材所の仕事は大きく分けて「仕入れ」「製材」「販売」の3つ。このうち丸太の仕入れと製材で商品の品質、つまり価格が決まります。自分で仕入れた木材が3倍の価値になるのか、10倍の価値になるのか?そうした競馬さながらの快感が小学生にも伝わったのです。そしてゲームで体験した学びは、実際に市場や製材所を見たときにも反応となって現れていました。

株式会社井上工務店の製材の様子。photo by Isao Nishiyama

「ゲームの後、子どもたちを原木市場に連れてったら『元玉(※1)やん』って言うし、製材所行って無地(※2)が取れたら『おー!』って歓声が上がったんですよ!もう座学で木育するより、こうやってゲームでワイワイしたら言葉がなくても伝えられるんや、ということがわかりましたね」

そこから本格的な教材制作へむけて三重大学と協力しながら制作が始まり、5年の開発期間を経て商品化されたのが「セ―ザイゲーム」です。

※1:元玉とは木の根元に一番近い丸太のこと。節が少なく、大きくなりやすいことから良質な木材となりやすい。
※2:無地とは丸太をカットしたときに節が1つもないまっさらな状態のこと。和室の内装に好んで使われ価値が高いとされている。

丸太はいくらに化けるのか?
セ―ザイゲームスタート!

セ―ザイゲームでは、各チームが製材会社を経営し、より多くのお金を稼ぐことを目指します。品質の良い丸太を見極めて落札し、どれだけ高価な材木を作り出せるかが勝負の分かれ目。つまり製材所のおじいちゃんが病みつきになった「仕入れ」と「製材(木取り)」がゲームになったのです。

●ゲームの概要
・プレイ時間:1時間半~2時間
・人数:10人~40人
・チーム戦

ゲームに勝利するためにはより良い丸太を仕入れる必要があります。ということでまずは良い丸太の条件をレクチャーするところからゲームスタート。元玉(※1)の木材はどう見分けるのか?無地(※2)をとりやすい節が少ない木材にはどんな特徴があるのか?など参加者全員で丸太の目利き力を高めます。

そうして、お待ちかねの競り(丸太の仕入れ)が始まります!

良い丸太を仕入れて高く販売するのか?節のある丸太でも多く仕入れて、本数を稼ぐのか?チームごとに異なる思惑が交錯し、値段が上がっていきます。

そうして仕入れた丸太を限られた時間の中で製材していきます。実際には3次元の丸太ですが、セ―ザイゲームでは2次元の平面に、それぞれ値段のかかれた部材をパズルのようにはめ込んでいきます。

製材された部材を換金所でお金に変えることでチームのポイントへとつながります。中には、丸太を高く買いすぎて赤字を出してしまうチームやお金をあまり出せずに競り負けて丸太をなかなか仕入れられないチームもいました。そうした中、見事1位を獲得し製材王となったのは良質な丸太から無地板をとることに集中していたチームでした。ゲーム終了後もどうすれば、もっと無駄なく製材できたのか各チームで話し合っている様子が印象的で、参加者がゲームにのめり込んでいた様子がよくわかります。

ゲームがもたらした
思わぬ効果

このセ―ザイゲームは大人だけでなく、小学生から楽しめるように設計されているといいます。中でも思わぬ効果があったと教えてくれたのは、とある地元の高校での授業でした。

「高校生に木育として座学をすることが一番難しくて、みんな寝てしまう。そもそもやる気ないみたいな子たちが多いんですけど、セ―ザイゲームをやると起きてきて『俺にもやらせろ!俺が競りいく!』みたいにすごく盛り上がって、その後30分の座学も集中して聞いてくれて、アンケートにはまた来年もやりたいって書いてくれたんです。それは今までになかった効果ですね」

高校での出前授業の様子。写真提供:熊野林星会

ゲームから学んでほしいメッセージは、良質な木材の価値と製材所の仕事を知ってもらうこと。ゲームでその糸口をつかんで、その後の座学で学びへつなげることでメッセージを伝えているのでした。

ゲームがつなぐ
業界の共通言語

日本各地にある製材所や木材産業に関わる企業にも、自社の価値を伝えるツールとしてセ―ザイゲームを活用してほしいと話す野地さん。ゲームが広がった先に描いていたのは、製材業界の言葉を共通言語としてお施主さんや設計士の方と会話できる未来でした。

「セ―ザイゲームを建築家とか設計事務所にやってもらうだけで元玉や歩留まりっていう話ができるんです。“歩留まり”って設計事務所に言っても、さっぱり分からない方も多いんです。だからたまに無茶なオーダーをいただくこともありますけど、セ―ザイゲームをやればそれがなぜ無茶なのかわかるはずです」

これまで一般の私たちはおろか、建築家・設計士にも良く知られていなかった製材所の仕事。お互いを知らないことで発生するコミュニケーションエラーの影響は計り知れないほどあるはずです。そうした互いの間にある小さくない溝をセ―ザイゲームであれば、楽しく乗り越えていけるのではないでしょうか。

●imformation
熊野林星会
三重県熊野市井戸町4185-18
https://rinseikai.net/
※セ―ザイゲームに関する質問等は、サイト内のお問合せフォームからお願いいたします。

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高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。
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