女性林業家の活動が少しずつ目に見えてきた昨今、「林業が気になる」と考える女性もにわかに増えているようです。しかし、まだまだ「男性仕様」の環境といわれる林業界。その実態を把握できず、飛び込むことをためらう人も少なくないのではないでしょうか。
では、実際に山に入り、林業に従事する女性たちはどんなことに直面し、どう向き合っているのでしょう。今回は体力面での力の差について現場で働く女性たちに話を聞いてみました。
女性が林業の現場で実感する
「力の差」
男性とともに仕事をする現場で、女性が直面するものの一つが身体的な「力の差」でしょう。林業の現場で働く女性たちも例外ではありません。この問題は、女性が現場で思うように作業ができず、ストレスや劣等感につながっていることもあります。
実際にはどのような状況が起きているのでしょうか。vol.3となる今回は、少しメンバーを替えて以下の方々に話を伺いました。
《今回話を聞いた方》
Aさん
・自営業(林業事業体勤務経験あり)
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設など)
・経験年数4年
・滋賀県
・40代
Bさん
・林業事業体勤務
・現場作業担当(伐木、造材、集材など)
・経験年数2年
・大分県
・20代
Cさん
・自営業
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設、特殊伐採など)
・経験年数2年
・福島県
・40代
Dさん
・自営業(林業事業体勤務経験あり)
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設など)
・経験年数2年
・岡山県
・40代
林業現場で力がなく困ったり、男性との力の差を感じたりするのはどんなときでしょうか。
Aさん:
伐倒の補助のためなどで木の上の方にロープをくくりつける時に力の差を感じます。もっともこれは、体格差もあるんだろうと思いますが、やはり男性の方がすいすいとロープを上げていくので、自分では力が足りないと実感させられます。
それから、重機の点検や修理の時に、ネジが錆びたりしていると全く回せません。重機のキャタピラが外れた時は、はめ込むために鉄のキャタピラを持ち上げなければいけないシーンがあり、その時はもっと自分に力があればと思いましたし、本当に大変な思いをしました。
また、脚力も男性より弱いと感じます。例えば伐倒の際、チェーンソーを持った状態で身体を支えるために脚を踏ん張るシーンはかなりきついです。また脚力以外に腹筋も使うぶり縄(※)はあきらめましたし、木登り器でも難しい。
集材作業中では、ワイヤーロープで材を引っ張っていて、ちょっとした枝や株にひっかかってしまい、ワイヤーロープにかかったテンションを緩めようと引っ張ってもびくともせず、作業がスムーズに行かないことも悩みです。
とはいえ、経験を重ねるごとに、力がなくても作業できる方法を思いついたり、知恵はついてきたと思います。
※「ぶり縄」:枝打ちなどで木に登るための、短い棒にロープを付けた簡易な道具。玄人はこれを自在に操って、ひょいひょいと木に登ることができる。
Bさん:
排気量の大きいチェーンソーはエンジンがかけられないことがあります。今は排気量50ccのチェーンソーを使っているんですが、これも排気量40㏄のものから使い始めて、徐々に慣らしていきました。でも、これ以上の大きさになると無理かなと思います。
また、集材の時にワイヤーを使うのですが、これが重くて、木を玉掛け(※)するときに扱いが難しいというのも悩ましい問題です。
※「玉掛け」:伐り倒した丸太を運び出すために、丸太に専用器具をくくりつける作業のこと
Cさん:
排気量の大きなチェーンソーはやはり、エンジンすらかけられなくて使うことができず、パワー不足を感じますね。どうしても使う必要があって、近くにかけられる人がいればエンジンだけかけてもらったりします。いない場合はひたすらかかるまでスターターロープを引き続けるのみ…。なので、普段は排気量43㏄のチェーンソーを使っています。
ワイヤーをくくりつけたい木に向けて、ひとまとまりのワイヤーを投げたりするんですが、重くてなかなか思った場所まで届かせることができません。そのため、何度も斜面を上がったり下りたりする必要があり、体力を消耗してしまうのは大きな悩みです。こちらも近くに誰かがいれば協力して作業しますが、一人の場合は届くまでひたすら自分で作業しなければいけません。
伐倒した木を必要な長さに切った後、その木を動かす必要がある場合は、基本的にリフティングトング(※)を使います。どうしても人力で動かさないといけないときは全身踏ん張って動かしますが、これがなかなか大変です。
※「リフティングトング」:丸太を挟んで楽に動かせるように持ち上げられる道具
Dさん:
まず、大きな排気量のチェーンソーはエンジンをかけることができません。排気量50㏄以上は難しく、エンジンをかけてもらったとしても、取り回しも難しいです。なので、今は排気量38㏄の、軽い力でエンジンをかけることができるシステム(エルゴスタート)がついているものを使っています。
伐倒の際に木をけん引するためのロープ上げも力がなくて悩む問題の一つ。力だけじゃなくてコツもあるんでしょうが、やはり振り上げる力があるとロープの上がり方が違うので、力がないと必要以上に時間も体力を使うなと思っています。
また、フェリングレバー(※)をうまく使えません。木を回すときに力がないとうまく回せず、かかり木を外すこともままならず、歯がゆい思いをすることもしばしば。
木を動かす必要がある時、例えば現場で集材の際に邪魔になる他の木を移動させたり、林内作業車に乗せた木を動かす時などは、力がなくてかなり苦労します。また、林内作業車で集材しやすいように、斜面の上から下へ木を落とす作業もあるのですが、これも男性よりずっと時間がかかってしまい、トビ※を使っても動かせない、ということもままあります。
※「フェリングレバー」:伐倒時に他の木に引っかかった場合、倒れかけの木を左右に回して伐倒する道具
※「トビ」:先のとがった部分を木にひっかけることで軽い力で木を動かせる道具
「林業は力がなくてもできる」
は事実か
現在の林業は「力の弱い女性でも参入できる」と謳われることがありますが、現実は働く状況によって違うようです。
例えば、高性能林業機械を導入しているような事業体であれば、ほとんどの作業を機械が担ってくれるため、確かに力がなくてもそれほど苦労せず作業できるでしょう。
しかし、今回お話を伺った方々の働く状況を見てみると、そういった機械を導入せず、人力で作業する必要に迫られる現場が多く、力がなくても作業ができる林業現場はまだまだ限られた一部であるようです。
最近でいえば、背中に荷物を載せることができる「犬型ロボット」が開発され、林業界の人材不足解消となるか(https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/news/18/13356/)といったニュースが流れました。
山の中では重い荷物をたくさん担いで急斜面を移動しなければなりません。それが解消されるだけでも、力や体力の消耗は随分と減らせるのではないかと思います。
高価な超高性能林業機械に頼らずとも、例えばチェーンソーなら軽い力でエンジンをかけられて(スチール社製ではすでにあります)、かつ軽量なものがあれば作業効率はぐっと上がりますし、ワイヤーなどもより丈夫で軽いものが開発・導入されれば、力が弱くても負担は減るでしょう。
力がないなりに、力を使う必要がある現場で作業していれば、ある程度は筋力も付いてきて少しは作業が楽になる部分もあります。ですが、どんな林業現場でも「力がなくてもできる」が本当に実現されれば、女性はもちろん、それ以外の林業参入者もより増えていくかもしれません。
林業に憧れているけれど、体力に自信がなくて勇気が出ない…といったような人にとっても、可能性を拓いてくれることのように思います。力がなくても働ける環境というのは、より門戸を開くきっかけとなるはずです。