林業NOW
# 11
女性林業家たちの心奥 vol.1
悩ましきトイレ問題
2022.4.1

女性林業家の活動が少しずつ目に見えてきた昨今、「林業が気になる」と考える女性もにわかに増えているようです。しかし、まだまだ「男性仕様」の環境といわれる林業界。その実態を把握できず、飛び込むことをためらう人も少なくないのではないでしょうか。

では、実際に山に入り、林業に従事する女性たちはどんなことに直面し、どう向き合っているのでしょう。今回はトイレ問題について現場で働く女性たちに話を聞いてみました。

写真:西山 勲/文:松岡 真由美

山での作業中……
トイレに行きたくなったら?

女性が林業に従事する際、ひときわ気になる問題としてよく取り上げられるのは「トイレ問題」です。私自身、女性林業家として現場で働いていて、もっとも気を遣います。どのような環境で、どういった仲間と働いているかにもよりますが、多くの現場では男性の仲間と一緒。仲間の目もあり、トイレをどこでどう済ませるかは、大きな問題なのです。

実際、周りの女性たちはトイレ問題をどう捉え、対処しているのか知りたいと思い、林業現場で働く身近な女性に声をかけ、それぞれ話を聞いてみることにしました。

《今回話を聞いた方》
Aさん
・自営業(林業事業体勤務経験あり)
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設など)
・経験年数2年
・岡山県
・40代

Bさん
・自営業(林業事業体勤務経験あり)
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設など)
・経験年数4年
・滋賀県
・30代

Cさん
・林業事業体勤務
・現場作業担当(伐木、造材、集材、作業道開設など)
・経験年数3年
・鳥取県
・20代 

ーー 林業現場でのトイレ問題について、皆さんどう対処されていますか?

Aさん:
トイレへ行くタイミングに気を遣っていますね。タイミングを見計らう必要があるし、行きたいタイミングで済ませられるとは限りません。早めに対処することを心掛けています。

休憩中にさりげなく済ませられるといいですが、山での作業中などにどうしても行きたくなったら堂々と「トイレ行ってきます!」と言える度胸も必要です。用を足す場所は、仲間の目につかない藪の陰などを選び、手早く済ませます。

Bさん:
いきなり真横で用を足す男性がいるので目のやり場に困ることもありますけど、逆に気を遣われるよりはいいと思っています。トイレをあまり我慢しない男性が多くて、頻度が高い印象がありますね。

Cさん:
基本的にはトイレがある公園の近くが現場なので、休憩中にそこのトイレを使っています。あとは、山での作業中に仲間がさりげなく持ち場から離れたり、休憩中にうろうろし始めたら、用を足すタイミングの可能性があるため、安易についていかないようにしています。

夏場の水分補給や、冬場の寒さでトイレの頻度が多くなるのでそのあたりは気を遣いますね。それと、トイレ頻度が増えないように水分を控えめにしてしまうこともあって、夏場は熱中症の危険と隣り合わせでもあります。

作業の進捗などによって我慢する必要も出てくるので、トイレへ行くタイミングを見計らう必要があります。女性にとって、男性の仲間に目につくところで用を足されることは、現代ではコンプライアンス違反とも思える行動ですけど、林業界ではまだまだそういった光景が当たり前ですね。

ーー 生理中の現場作業はどうしていますか?

Aさん:
自営業なので、生理痛がきつい日は無理をせず休みます。ただし作業が詰まっている場合は、痛み止めを飲んだり、カイロでお腹や背中を温めて生理痛を和らげたり、経血量が多ければ吸収量の多い生理用品を使って対処します。

そういった対処をしても、「思ったより経血量が多い」「経血が漏れてしまった」などのトラブルでトイレに行く回数が増えがちですが、我慢することもありますね。痛みは抑えられても「体がとにかくだるい」といった貧血症状が出て、動きや判断が鈍ることもあります。

Bさん:
基本的には休むか半休にすることが多いですが、作業が詰まっているときは出勤します。生理中の現場ではトイレを我慢することが多いですね。現場に入る前にしっかり用を足しておきます。

厚めのナプキンを使えば、昼休みに1度取り替えるだけで済みます。作業パンツは毎日洗濯するので、多少漏れても気にしません。

Cさん:
生理中はとにかくムレが気になります。特に夏場は辛いですね。できるだけ通気性の良いショーツやパンツを選んだり、夏場はチェーンソーパンツではなくチャップス(※)にして不快感を和らげるようにしています。

※チャップスとは、チェーンソーによる足のケガを防ぐための防護服。ズボンの上から装着できるタイプで、足の前側だけに防護する布がある。国の労働安全衛生規則により着用が義務付けられている。詳細は以下リンク先へ
https://www.mhlw.go.jp/content/000524013.pdf

女性林業家同士でも
共有しづらいこと

生理については男性に理解してもらいづらい、相談しづらいからこそ悩ましい問題です(女性同士でも難しい場合はあります)。自営業ならきついときは休むこともできますが、事業体に所属している場合はなかなかそうもいかないことが多いです。そのため、皆さん各自で様々な工夫をして作業にあたっています。

最近はフェムテック商品(女性ならではの健康上の課題をテクノロジーで解決する商品)もさまざまなものがあり、長時間取り換え不要なものや、経血の不快感を減らしてくれるものなどが販売されています。また、チェーンソーパンツも、夏用やファン付きのものが登場しているので、ムレを防ぎたいときはこれらを活用してみるのもいいでしょう。

ところで、林業界における女性就業者の比率はどれくらいかご存知でしょうか?

全産業の就業者のうち、女性は約45%を占めていますが、林業においては女性の割合が約6%と言われています(2015年時点)。ちなみに、1980年には林業における女性の割合は16%だったようです。女性就業者が少ないとされる建設業やインフラ産業でも女性の割合が10%を超えています。過去や他産業と比べても、今の林業界は圧倒的に女性が少ないと言えます。

数が少ないからこそ、女性林業家たちの声は周囲により届きづらくなっているでしょう。そうした少数派のためにわざわざ社会や事業体の制度が変わるというのも現実的には起こりにくいだろうと思います。ですが、実際に林業に従事している身としては、“トイレ問題に困っている”という大きな現実があります。もう少し快適な作業環境になったらなあ、というのが本音です。であるならば、自分に何ができるのか?

女性林業家の間では、「女性ならではの課題」についてはあまり話し合われていない印象があります。今回取り上げたトイレや生理の問題に関しては、特に話しづらく、あまり共有されていません。そのため、他の女性林業家は実際にどう対処しているかといった情報も、ほとんどキャッチすることができない状況です。

WEBに情報を載せて現状を可視化したら、誰かが現状を改善するいいヒントを教えてくれるかもしれません。すでに素敵な知恵を持っている女性林業家と出会い、もっとオープンに話し合うことができれば、その知恵を周りの女性たちに共有できる可能性もあります。

そんなわけで、女性でも働きやすい林業について自分なりに考え、ちょっとでも快適な作業環境をつくっていくべく、今後も他のテーマをいろいろと取り上げてみたいと思います。

▼vol.2の記事はこちら
https://hibi-ki.co.jp/ringyonow012/

【参考資料】
農林水産省「農林水産業における男女共同参画の推進について」
https://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/5th/sidai/pdf/chiiki/02/01-1.pdf
経済産業省産ヘルスケア産業課「健康経営における女性の健康の取り組みについて」
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/downloadfiles/josei-kenkou.pdf

松岡 真由美 (まつおか・まゆみ)
大阪市出身。都会の人口密度に辟易し、岡山県の山奥へ移住。現在は夫と2人で林業を営みつつ、リモートワークでライターや事務の仕事をしている。林業の現場作業をしているくせに、運動神経が悪い。森や林業の現状をひろく知ってもらい、よりよい状況に進歩させたいと考える。