にっぽん 民藝 journey
# 3
旅するように使いたい
暮らしにフィットする家具①
2020.6.2

日本各地には、土地の気候や地理、歴史文化、地域情勢などと密接な関係を持った木の民藝が点在する。それは伝統的なものから新しいものまで実に多彩だ。木を中心とした自然素材と向き合う手仕事には、大量生産型の工業製品にはない、見えない背景がプロダクトの数だけある。

今回はありそうでなかった家具づくりに挑み続ける、長野県伊那市の株式会社やまとわの取り組みを前編・後編に分けてお届けします。

写真:西山 勲、取材先/文:田中 菜月

軽やかな折りたたみ家具で
どんな暮らしをつくりたい?

春になり、新生活が始まった人も多いはず。引っ越しはもちろん、気分転換に部屋の模様替えをする人もいるだろう。家具を新調するかどうかを考えることは楽しくもあり、悩ましい時間でもある。

家具には何を求めるだろうか。どっしりと重厚感があって使い心地の良いイスやテーブル、あるいは、安くて手軽に使えるものもいい。どちらも共通しているのは、基本的に家の中で使うということ。

こうした流れに対して、新たな楽しみ方を提案し始めたのが、家具ブランド『pioneer plants(パイオニア プランツ)』。暮らし方を含め新たな家具の使用シーンを提案している。長野県伊那市で森と暮らしをつなぐ『株式会社やまとわ』が製造販売を担う。

pioneer plantsのコンセプトは、「家の中でも、森の中でも」
軽やかな家具たちはどこへでも持ち運びやすく、使い場所を選ばない、柔軟性の高いポータブルファニチャーなのだ。

クマのオーウェンさんのイス ¥31,500(税抜)

例えば、同ブランドの代表的アイテムである「クマのオーウェンさんのイス」を、折りたたんで片手で持ち上げてみると、あまりの軽さに驚かされる。家の中で使っていても、動かしたいときは折りたたんですぐに別の場所へ移動させることができるし、週末は自宅の庭やキャンプに持って行くのもいいだろう。

フクロウのアイビーさんのトレイ & レッグ ¥21,000(税抜)

このイスとセットで使いたいのが「フクロウのアイビーさんのトレイ&レッグ」。こちらも折りたためるテーブルだが、天板と脚を切り離すこともできるため、天板をトレーとして使うことができる。テーブルとして活用する場合は脚の高さを調節できるため、サイドテーブルとしてや、意外にもPC用テーブルとしてもぴったりなのである。家の中でじっとその場に置いておくだけではなく、自分の暮らしにフィットした使い方ができるところが、このブランドアイテムの特徴だ。

材料は“アカマツ”だけ
その思いとは?

pioneer plantsの拡張性の高さに加えて、構造や素材においても他にはない要素がつまっている。

構造を支えているのは脚元のロープ。

実はこれ、林業やツリークライミングなどで実際に使用されているロープ。同社では林業も行っていることから、このロープを取り入れる着想を得たという。使用している木材が針葉樹であるため、通常の家具で使われる広葉樹よりもやわらかい材質になる。そこで、ロープを使った構造によって強度を保つのが重要なのだ。

使われている針葉樹というのが“アカマツ”である。家具といえば、ウォールナットやオークなどの木の名前を聞いたことはあるだろう。身の回りでアカマツが使われたものを見かけることもあまりない。なぜアカマツを選んだのだろうか。同社代表取締役の中村博さんに聞いてみた。

「信州はカラマツという木が一番多いのですが、最近は建築材などに使われることが増えて、市場価格としてもこの辺で一番高く取引されるようになりました。ヒノキよりも高く売れるんですよ。その次に多いのがアカマツなんですね。この地域の森林は約3割がアカマツです。それなりに資源はあるものの、くねくね曲がって育つ木なので、伐採や運搬、製材をするときにどうしても無駄が多くなってしまうから、カラマツと違って利用されない木。この状況をなんとかしたい、と思うようになったことがアカマツで家具をつくるようになったきっかけですね」

使いづらい木をあえて使うのはなぜ、と疑問が湧いてくる。さらに話を聞いてみると、アカマツの森には色々と問題が起きていたのだった。

「マツ枯れという病気が全国的にあって、この辺でもどんどんアカマツが枯れているんです。今、この辺の森林に生えているアカマツは70歳くらいですけど、70年かかって大木になったと思ったら、最後はマツ枯れになって、病原菌を殺す薬剤を投与されて捨てられてしまう。薬剤投与には税金が使われているので、市民の血税が捨てられているようなものです。アカマツだって森にある大事な資源ですから、枯れる前に早く収穫して使っていきたいと思いました。健全な山づくりをすることで、新しいアカマツも生まれてきます。人が苗を植えなくても、種から芽生えて自分で成長できる木なので頼もしいですよ。新しい強い力で生えてきたものはなかなか枯れないですから、そういう森林の更新をしていく必要があるなあと思っています。だから、pioneer plantsではアカマツを使っていこう、ということになりました」

木材としてのアカマツはねじれやすいため、加工する側からは嫌われるという。ただ、家具であれば建築材と違って短い材で良いため、それほどねじれは気にならないそうだ。

「実際はヒノキみたいな木なんですよ。油分もちょうど良くあって、硬すぎずやわらかすぎず。ヒノキみたいにスッと真っ直ぐ育たず、くねくねな木になっちゃうってだけなんだよね。見た目もほんとにきれいな木ですよ。経年変化で色が濃くなることはありますけどね。それも味かなと思います」

中村さんの話を聞いていると、地域の木材を使うことに強い意志を持っているように感じる。その志に至るようになるまで、どのような道のりがあったのだろうか。後編では中村さんのこれまでや、相棒である企画室長の奥田悠史さんとの出会いなどについて伺います。

▼後編はこちら
https://hibi-ki.co.jp/nipponmingeijourney004/

●Information
株式会社やまとわ
長野県伊那市荒井3672-1
0265-78-2121
meguru@yamatowa.co.jp
https://ssl.yamatowa.co.jp/

▼pioneer plantsのアイテムはこちらから購入可能です
https://pioneerplants.jp/product/

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。