森で働く
# 35
ジビエから広がる
非日常のわくわく
2026.5.30

狩猟や猟師と聞くと、どんなハンターの姿を思い浮かべるでしょうか? ガタイのいいワイルドな人や熟達した老境の師、といったイメージをもつことが多いかもしれません。

しかし、今回出会った<株式会社けものみち>の東川陽平さんは、そのどれでもなく、ハンターの域すら飛び越えていました。一体森でどんな働き方をしているのでしょうか。解体加工処理施設がある岐阜県八百津町を訪ねました。

写真:阿田 朱莉那/聞き手:葛西希美/文:田中 菜月

地方と都市をつなぐ存在に

【冷凍】猪 生ソーセージ(120g) 税込1,026円。響hibi-ki STORE実店舗でも販売中!
【冷凍】猪 生ソーセージ(120g) 税込1,026円。響hibi-ki STORE実店舗でも販売中!

「普段は食べる機会の少ないお肉を食べる楽しさを届けたい」

そう話すのは、株式会社けものみち代表・東川さんです。東京都出身の彼が、岐阜での暮らしで出会ったジビエの美味しさ。その感動体験が今の活動につながっています。

自らくくり罠で狩猟を行い、捕獲した個体の解体、加工、パック詰めを経て、猪のスライス肉やソーセージ、ベーコンなどを販売しています。各地のイベント出店の際にキッチンカーで提供している、どて煮やカレーといったジビエ料理も大好評です。

けものみちの解体処理施設(写真左)と事務所(写真右)。毎週土曜日には工房直売も実施(イベント出店等でお休みの場合もあり)。タイミングが合えば解体作業の様子も見れるかも?
けものみちの解体処理施設(写真右)と事務所(写真左)。毎週土曜日には工房直売も実施(イベント出店等でお休みの場合もあり)。タイミングが合えば解体作業の様子も見れるかも?

現在は東川さんを含めたスタッフ4名で、各工程を手分けしながら工房を運営しています。また、近隣地域の猟師さんが捕獲した個体も引き取って加工することで、本来なら廃棄物として処分されていた個体をジビエとして利活用しています。

八百津町の地域おこし協力隊でもある東川さんは、今年度(2026年度)で3年目を迎え、最後の任期となります。これまでに隊員としての活動を通じて、地域との関わりも深めてきました。

そこには、猪や鹿の捕獲から消費までの一体的な流通環境を整えていきたいという思いが背景にあります。けものみちでは自治体や猟師さんと連携を深めながら、ジビエの市場が持続的に循環していく仕組みづくりも進めています。

「ジビエに限らず、岐阜のいいものを東京に発信していきたいですね」

岐阜が好きだという東川さん。今後は名古屋や東京にも販路を広げ、都市と地方をつなぐ存在になりたいと語ります。

「非日常のわくわく感を提供できる会社にしたいなっていう思いで、会社をつくりました。その一つが今取り組んでいるジビエなんです」

だからこそ、今後は商品づくりや販売だけでなく、狩猟や解体の体験イベント、ジビエの革製品開発など、やりたいアイデアは尽きません。

家族4人の岐阜ライフ

「僕は田舎暮らしに憧れてきたわけではなく、縁があって八百津町に移住することになったんです」

キャンプや車が好きだった東川さんは、キャンピングカーを販売する<株式会社トイファクトリー>への入社をきっかけに、本社がある岐阜と東京を行き来するようになりました。2016年のことです。

休日には、トレイルランニングで岐阜の山を走っていたと言います。そんなときに道の駅で遭遇したのがジビエでした。興味を持ち始めてから、猟師さんとの縁が生まれ、教わる機会を得て、自身も狩猟をするようになります。

そんな休日を楽しみながら、トイファクトリーでは営業職としての日々を楽しく過ごしていました。同社での仕事を通じて、営業やマーケティングの面白さを感じるようになったと言います。

“100人乗っても大丈夫”な物置をリノベーションした解体処理施設。2025年6月完成。
“100人乗っても大丈夫”な物置をリノベーションした解体処理施設。2025年6月完成。

キャリアを積んでいく中で、自分で事業をやっていきたいと考えるようになり、会社員を辞めて、2023年に株式会社けものみちを創業します。

業務委託という形でトイファクトリーの仕事も継続し、防災車両「マルモビ」の自治体への提案を進めながら、ジビエの事業を新たに立ち上げたのでした。

東川さんは現在、妻のゆうさん、2歳と4歳のお子さんの4人で暮らしています。ですが、最初は単身での移住でした。

というのも、すでに東京にマイホームがあったこと、ゆうさんは東京での仕事を続けたい気持ちがあったこともあり、すぐには決められなかったのだと言います。半年ほど経ったころに八百津町で家族そろっての暮らしが始まりました。

当初は名古屋で働くつもりだったというゆうさんですが、「ちょっと仕事を手伝い始めたら、一緒に解体までするようになりました(笑)」と、想定外の経緯であることを率直に語ってくださいました。

「このあいだの話なんですけど、すぐに解体しないといけない個体が夕方に3頭まとめて入ってきたことがあって。解体できる社員の方がちょうどお休みで、僕らは18時に保育園に子どもを迎えに行かなきゃいけない状況だったんです。時間との戦いでした(笑)」

そう話す東川さんは、仕事の面白さと同時に経営者としての苦悩や生活の忙しさを感じながらも、常に前向きな印象です。岐阜での暮らしももっと楽しみたいと話します。

「岐阜っていいカフェとか、いっぱいあったりするじゃないですか。僕も妻もカフェが好きなんですよ。岐阜ライフを家族でもっと満喫したいですね」

人生は、けものみち

まだまだこれから変化を重ねていきそうな東川さんに、最終的にどこを目指しているのか尋ねてみました。

「分かんないですね。目指すとそこに収まってしまうので、明確には考えてないです」

偶然の出会いの中で、自分の心が赴く方に動く。その積み重ねの上に今の東川さんがあるように感じました。そこには、ご両親の影響も大いにありそうです。

「実家が酒屋さんなんです。僕も小さい頃に配達に付いて行ったりしてました。楽しみながら仕事をしている両親の姿をずっと見てきたからか、自分も楽しいこと、やりたいことをしていきたいなといつも思っています」

けものが通ることによって自然にできあがった山の中の道を、“獣道”と呼びます。

東川さんの働き方や人生もまさに、獣道のような道が形づくられていることを感じます。そんな豊かな獣道を筆者自身もつくっていきたいと思わされた取材でした。

▼ けものみちさんのソーセージ&ベーコンでジビエ料理をつくってみました!
https://hibi-ki-store-gifu.com/news/etgQEX6m

●Information
株式会社けものみち
〒505-0303 岐阜県加茂郡八百津町伊岐津志2839-2
HP https://kemono-michi.net/
Instagram https://www.instagram.com/kemonomichi_gibier

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。