森に関わりたくなったら、森で働きたくなったら、森について知りたくなりますよね。みなさんがはじめの一歩を踏み出すきっかけになるような、そんな“今さら聞きたい”話しを少しずつお届けしていきます。第4回は、森の持ち主について、森っていったい誰のものだろう?を考えてみます。
森を持っている人を
知っていますか?
今、みなさんがいるところから山は見えますか?
見えない場合はこれまでに歩いた森やドライブした山々を思いうかべてみてください。
その山や森はだれのものだと思いますか?
地球に住むみんな?日本人?地元のえらい人?
まずはデータから答えを探ってみましょう!
上のグラフから、日本の森の約30%を国が所有していることがわかりますね。森に関する法律「森林法」では国が所有する森林を「国有林」、それ以外の森を「民有林」といいます。民有林はさらに2つのジャンルに分かれます。
- ① 県や市などの自治体が所有=公有林
- ② 会社や個人が所有=私有林
民有林のうち80%近くが私有林となっています。もしかするとみなさんの家族や親戚、近所の人、会社を経営する知り合いの方が森林を所有している可能性はけっこう高いかもしれません。
ところで、森や山を所有しているって、どういう状態なんでしょうか?
カンタンに言ってしまえば、所有エリアの森林空間すべてが自分のものということです。つまり、そこに生えている木や植物も所有者のものとなるため、よその山に入ったときに勝手に木の実をとったり、木を切ったりしてはいけないということです。
これは、みなさんの住んでいる家に置きかえて考えてみるとわかりやすいかもしれません。両親やおじいさんおばあさんが一軒家(いっけんや)に住んでいて、かつその家の所有者である場合は、その家が建っている土地も所有していることが多いでしょう。その空間の中にあるものは住んでいる人のものなので、他人の家や庭に置いてあるものを勝手に持って行ったりするのはダメですよね。それと同じことなのです。
自分の森、ほしくない?
森林を所有するということは、お金と森が交かんできるということでもあります。つまり、自分の森がほしければ、お金をはらって買うことができるということです!じゃあいくらで買えるものなんでしょうか?
「山林売買.net」というWEBサイトを見ると、日本各地のいろんな森の価格がわかります。数十万円から数千万円と、幅はかなり広いです。どうしてこんなに価格の差があるのでしょうか?
差が生まれる一番大きな理由は「面積」でしょう。広くまとまっているほど価格も高くなります。ですが、大きい面積でも安く、せまい面積でも高い、ということもあります。そこでキーポイントになるのが「立地」です。所有林がどんな環境なのかによって評価されます。例えば、人が多く暮らす街が近くて、森の中に道もあって、材木になりそうな木がたくさん生えていれば、木を切って街へ運んで売りに出すといった経済活動が期待できます。そのため土地の評価も上がることになりますし、その逆もしかりです。売られている土地の状態だけでなく、その周辺の環境も重要になります。
●森の買い方の記事はこちら
せっかくなので、森林と他の土地の価格もくらべてみましょう。岐阜県が発表している地価(土地の価格)の場合だと、住宅地と林地でこんなに差があります。
- ● 岐阜県の住宅地の平均価格:32,200円/㎡
- ● 岐阜県の林地:39~1,250円/㎡(8地点のうち)
- ※WEBサイト「ウチノカチ」によると、岐阜県の農地相場は1,400円/㎡
生活するのに便利な街中は、自分の家を建てたり仕事をするための土地を求める人が多くいます。その一方で、森林は暮らしていく上で必ずしも自分のものにする必要はありません。ほしい人が少ないと土地の価格も低くなるというわけです。
もちろん、飲み水を生み出したり、土砂災害を防いだり、森林は私たちが生きていく上で欠かせない存在です。しかしそれは、所有者それぞれの森がおたがいに作用し合ってはじめて機能するものでもあります。個人で小さな面積の森を持つ場合は、所有地の中で木を切って薪(まき)をつくったり、山菜をとったりするのが現実的な活用法になるでしょう。
パズルに見える
森の境界
森林はどのように所有者がわけられていると思いますか?
ひと山ごとに所有者が決まっているでしょうか?
実際は、パズルのようにかなり複雑になっています。
上の図のように、1つの区画ごとに所有者が1人決まっています。となり合う複数の区画を所有している人もいれば、飛び飛びで所有している人もいて、所有の仕方はバラバラです。ちなみに上の地図上で黄色にかこわれた左側のエリア(中央に「402」と表示されているところ)の中には約20名の所有者がいます。
こうした図を見るだけではわからないことなのですが、実はこの境界線、はっきりしていないところが多いのです。昔から代々受けつがれてきたところが多く、正確なデータとして形になっていることの方が少ないため、このあいまいな線を明確にするため、国を中心として現在でも境界線の確定作業が進められています。
実際に森の中を歩いてみると、昔の人がめじるしにしたのであろう境界線らしきものを見つけることができます。大きな石が飛び飛びで置いてあったり、木にテープが巻いてあったり、周りとは違う種類の木が植えてあったり、しっかり調査している場合は、杭が打ってあることもあります。
●境界線についてくわしくはこちら
森の中に入らなくても、遠くから山をながめていると所有林の境界線がなんとなくわかることがあります。
上の写真に写っている濃い緑はスギもしくはヒノキの針葉樹、うすい緑は新緑をむかえた広葉樹でしょう。春は木の種類によってはっきりした色の違いが見てとれるのでよくわかるのですが、写真中央に不自然なほどまっすぐに色が分かれた部分がありますよね。自然界では直線が発生しないといわれますが、それをふまえるとこの濃い緑の部分は人の意思で生まれたものであり、所有の境界線になっている可能性が高いといえます。
こんなぐあいに、見渡してみれば意外と身近なところで森の境界線と出会うことができます。長時間のドライブに飽きてきて、もし周りに森が見えれば、ひまつぶしに境界線を探すゲームをしてみるのもおすすめです。
街に住んでいる人からすると、森はかなり遠い存在に思えるでしょうか。でも将来、だれもいない森の中ににげたくなることもあるかもしれません。万が一のために、自分で森を買って所有できる、ということを覚えておくのも悪くないでしょう。
- 【参考資料】
- e-Govポータル
- https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326AC1000000249
- 岐阜県令和3年地価公示
- https://www.pref.gifu.lg.jp/page/140676.html
- 森林・林業白書
- https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/