今から聞きたい きほんの木
# 5
能力者たちと魔物
2022.3.28

森に関わりたくなったら、森で働きたくなったら、森について知りたくなりますよね。みなさんがはじめの一歩を踏み出すきっかけになるような、そんな“今さら聞きたい”話を少しずつお届けしていきます。第5回は、森にまつわる能力者たち、そして魔物の話を紹介します。

文:田中 菜月/イラスト制作:伊藤 実穂

森にあらわる
5人の能力者

森にどんな能力者がいるかって?

それは、森の中に何か・誰かがひそんでいるわけではありません。森そのものが能力者の集合体みたいなものなんです。その能力はさまざまですが、多くの人の命を支えてくれているであろう5つの能力者を見てみましょう。

① リンパンマン

森に生えている木を伐って運び出せば、いろんなものが生み出せる。たとえば、建物や家具がつくれるし、燃やせばエネルギーになる。細かく砕いて紙やトイレットペーパー、ティッシュにすることだってできる。木を伐ったあと、ちゃんと苗を植えて大切に育てれば、くりかえし木を使うことができるようになる。まるで、何度でもあんぱんを分け与えてくれるあのヒーローのよう。

② カントリーハンター

森には、木だけじゃなくて、山菜やきのこ、シカ、イノシシなど、食料になるものがあることはみんな知っているだろう。これらは勝手に増えて、それぞれ気ままに生きている。お金も手間もかかってないのに食料が生み出されるなんて、魔法使いみたいだ。
(もちろん、採りすぎてしまえばなくなってしまうから、そのときは人の手で育てるしかない)

③ ピクシーブルー

森の土に吸収された水はなぜかきれいになり、川へと流れ出て飲み水となっている。そして、森に土があるおかげで、時間をかけてゆっくり水がわき出してくる。だから、洪水なんかも起こりにくいらしい。そのへんをいい感じにコントロールしてくれる水の妖精がいるとかいないとか。

④ ゴーゴーファイバー

世界中にインターネットの光ファイバーや無線が広がっているように、土の下でも木の根がファイバー(せんい)のようにからまり合っている。そのすべてを誰も目にしたことはないはずだが、おそらくあみの目のような状態なのだろう。これにより、森の地面がくずれ落ちるのを防いでくれているという(すべてを防いでくれるわけではない)。どうかこのまま、あみの目を残し続けてくれ。

⑤ ガーディアンズ

「おれたち、地球防衛軍!」
こんな声が森から聞こえてきたのだが、気のせいだろうか。どうやら、CO2を吸収して地球温暖化を食い止めてくれているらしい。森があるだけで気候も安定しているそうだ。確かに地球を守っているといっても過言ではない。

…さて、5つのキャラクターの中で気になったキャラはいましたか?
まあ、どれも同じやつが演じているんですけどね。

森に行くなら
魔物に注意せよ!

ここまで読み進めると、なんだか森はいいものだと思うかもしれません。しかし、そうとも言い切れないのが現実。そう、森は魔物の一面も持っているからです。森に行くなら魔物たちの存在も知っておきましょう。

① ドラゴンフレーム

ドラゴンのように火をふくもの、“噴火”だ。日本は地震の多い国であることを身を持って知っているはず。そして活火山も多い。なぜか?は地学を勉強するといい。日本中に山はたくさんあるが、活火山はごく一部だ。活火山は過去の噴火の影響などで木々が生えず、森が広がらない、ゴツゴツした山のイメージが強い。まさにドラゴンの身体のようだ。怖いけどちょっと惹かれるのはなぜだろう。

② ジャイアントクラッシャー

能力者の4番目を記憶しているだろうか。木の根によって森の地面がくずれ落ちないようになっているゴーゴーファイバーだ。しかし、すべて防げるわけではない。地下の深いところからくずれはじめると、木の根だけで止めることはできないのだ。そのとき、ジャイアントクラッシャーが顔をのぞかせる。山肌がごっそりくずれて、山のふもとにある民家はほとんど下じきになってしまう。完全な防衛策はなさそうだが、ジャイアントクラッシャーがあらわれる可能性をまずは知っておきたい。

③ ファイヤーゾンビ

日本では少ないが、世界を見てみると“森林火災”はよく起きている。そもそも木は燃えやすく、乾燥した環境だとより燃えやすくなってしまう。発生原因は落雷やタバコのポイ捨て、焼き畑などさまざまだ。一度燃え広がってしまうとゾンビのように火炎がおそいかかってくる。筆者も小学生のとき、家の裏山(標高約400m)が火事になり身にせまる恐怖を感じた。頂上近くから下に向かってどんどん火が広がる光景が怖くてたまらなかった。今でも忘れられない魔物だ。

④ テングノカクレンボ

登山者がそう難した、というニュースを見聞きしたことはあるだろう。森や山に行けば、その危険性は常にあるといっても言い過ぎではないはずだ。かつてはテングや山の神によって“神かくし”にあったのだと言い伝えられてきた。それくらい急に人が消えてしまうことがある森には、魔物がいると信じてもおかしくはない。

以上の4体が森にひそむ魔物でした。今回はわかりやすい2つの側面を取り上げましたが、実際は他にもいろんな顔を森は持っています。あなたにはどんな顔が見えてきますか?

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。