森に関わりたくなったら、森で働きたくなったら、森について知りたくなりますよね。みなさんがはじめの一歩を踏み出すきっかけになるような、そんなお話しをちょっとずつお届けしていきます。第3回は“数字”をもとに今の森の世界をのぞいてみましょう。
日本と世界の森を
くらべてみると
まずは日本と世界の森がそれぞれどのくらいあるのか、“面積”をキーワードに見ていきます。
日本の森林率:約66%
世界の森林率:約31%
この数字は、日本の陸地面積の大きさを100としたときに、日本に広がる森林の土地面積の大きさが66になるということを表わしています。いっぽうで、世界の陸地面積の大きさを100とすると、世界に広がる森林の土地面積の大きさは31ということになります。日本は全体の半分以上が森ですが、世界の森は全体のうち3分の1しかありません。ただでさえ少ないのに、世界の森林面積は今でも減り続けているといわれています。
さて、ここで問題です!
Q:世界的に少なくなっている森林。ってことは、日本の森も減っている?
A:NO!!
森林面積については国がデータをとりはじめてからこの50年ほどは、ほとんど変化がありません。ちなみに世界の状況を見ると、アフリカと南米で森が少なくなっていて、アジア(主に中国)・ヨーロッパ・オセアニア(オーストラリアなど)ではちょっとずつ森が増えているようです。アフリカや南米で森の減っている量が他の地域の増加量よりも多いため、世界全体で見ると森林面積が減少しているということになります。
森が減っているところでは、人口が増えて食べものをもっとたくさん作るために、農業をする場所を増やさないといけなくなりました。だから森の木がどんどん切られているみたいなのです。
●世界の森林面積変化のグラフはこちら
https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/R2hakusyo/attach/pdf/zenbun-53.pdf
ここまでは、わかりやすい“面積”に注目してきましたが、この先は森の“量”について見ていきましょう。
面積は増えていないけど
量は増えている日本の森
さっきは森の平面ばかりを考えていましたが、つぎは上を見上げて日本の森をながめてみます。
森や木の“量”を考えるときに重要なのが“体積”です。小学校5年生の算数で習うあの立方体の大きさですね。ちなみに、体積を表す単位は「㎥(立方メートル)」といいますが、森林や林業の世界では「立米(りゅうべい)」と呼ぶ人が多いです。テストには出ないので忘れてもOKです。
さて、山に生えている木の1本分の体積はどれくらいでしょうか?
たとえば、家の柱のサイズ(105㎜×105㎜の柱材)に加工できる大きさの木はだいたいこれくらいです。
※「立木幹材積表(りゅうぼくかんざいせきひょう)」を使うと、地域・樹種・胸高直径・樹高の組み合わせごとに平均的な1本の木の体積(幹の部分だけ)がすぐにわかります。いちいち測って調べる手間を省くためにこうした早見表がつくられています
このスギの木が3~4本くらいあれば約1㎥になります。
つぎは、計算しやすいように丸太の場合で考えてみましょう。
木の“量”のイメージはつかめましたか?
つづいてはグラフをもとに、日本で森の木を切って使った量と、森が増えた量をくらべてみましょう。
森の量が増える=木の数が増えている、木が大きく成長している、ということです。森が増えた量が、森の木を使った量をかなり上回っているので、結果的に日本の森は増えているといえますね。それにしてもものすごい差です。増えすぎな気もしてきます。
日本の森が増えていることはわかりましたが、その理由はなんでしょうか?みなさんも少し考えてみてください。
日本の森が増えている理由ですが、これはきほんの木 #2でも出てきましたよね。
① エネルギー革命
② 木材の輸入自由化
③ 戦後たくさん植えられた木の成長
主な理由はこの3つですが、他にも関係していることがあります。それは雨のふる量と気温です。日本は1年をつうじて雨のふる量が多く温かい気温であるため、木をはじめとした植物が育ちやすく、種類も豊富になります。植物の生育には、“雨の量”と“気温”の2つがそろっていることが重要です。
下の表を見てください。
たとえばカイロは東京よりも気温が高いですが、雨がほとんどふらないために木が育たず、砂漠(さばく)が広がっています。また、シンガポールのように「熱帯性雨林(ねったいせいうりん)」とよばれる、年中雨が多くてずっと温かい地域は、日本よりも植物の種類はさらに多く、木もぐんと大きく育ちます。
いろんな角度から森をながめることで、日本の森が増えている理由がわかってきましたね。
森に住む生きものは
どれくらい?
森がたくさんあると、生きものもいっぱい住んでいる気がしませんか?森にはどんな生きものたちが暮らしているのでしょうか。シカやイノシシのように大きい動物以外にも、鳥や虫、きのこ、土の中の生物など、とにかくいたるところに生きものはいます。
上のイラスト中の数字をくらべると、小さいものは数が多く、大きいものは数が少ないということがわかりますね。こんど森へ行くことがあれば、森の中で生きものがいくつ見つけられるか探してみるのもいいでしょう。
森の中にはいろんな生きものたちが住んでいることがわかりましたが、それぞれの生きものにとってぴったりな住まいや食べものはちがいます。日本に生えている木の種類は約1200あるといわれているのですが、木の種類がたくさんあると、それだけ生きものにとって家となる場所がさまざまにあって、食べものになる実や花もいろいろと森の中にあるということです。木は生きものが暮らしていくために、なくてはならないものなのです。
さて、1200種類の木にからめて、ここでまた問題です!
Q:日本で一番多く生えている木の種類はなんでしょう?
まずは下の円グラフを見てください。
日本の森は大きく3つに分けることができます。「人が苗(なえ)を植えた森」(=人工林)は人が管理や手入れをしている森です。「人が苗を植えていない森」(=天然林)は、大きな木からタネが落ちて、自然に芽生えてきたものです。そのため、1つの種類がとびぬけて多くなるということが考えにくく、1200種のほとんどがこの天然林の中に当てはまると考えられます。
反対に、人が苗を植えた森は、田んぼのように広い面積で同じ品種の米をたくさんつくるのと近いことができます。だからこそ、1種類の木がとびぬけて多くなるということは可能になるのです。つぎの円グラフを見てください。
日本で一番多い木の種類はスギです。たくさんあるから花粉症になっちゃうのもしょうがないのかもしれませんね。ちなみに、どうしてスギとヒノキが多く植えられているかというと、
・まっすぐ育つので木材として使いやすい
・成長が早い
・日本の自然環境に合っている
この3つの理由から選ばれたといわれています。とくに、樹齢(じゅれい)が50年前後の木が日本の森には一番多くあります。
40代後半~50代の人と同じくらいに生まれた木が多いということがわかりますね。樹齢50年くらいの木は、家の柱などに使うサイズに加工するのにちょうどいい太さになります。建物をたてるための木材という視点で森を見ると、収穫(しゅうかく)時期の木がたくさんあるということです。もちろん、別の見方もできます。たとえば、薪(まき)や炭として使うなら、もっと若い時期の細い木のほうが使いやすいでしょう。
森は今も昔も、ただそこにあるだけです。私たちが森に何を期待し、希望するのか(もしくは期待しない、希望しない)によって見えてくるものが変わり、森との関わり方や使い方も変わっていきます。
あなたは森に何を望み、どのように関わりたいですか?
【参考文献】
菊沢喜八郎(1999)「森林の生態」共立出版株式会社
「森林インストラクター入門」社団法人 全国林業改良普及協会
「新詳高等地図」帝国書院