今から聞きたい きほんの木
# 2
タイムマシンで
昔の森へ行ってみよう
2021.5.21

森に関わりたくなったら、森で働きたくなったら、森について知りたくなりますよね。皆さんがはじめの一歩を踏み出すきっかけになるような、そんなお話しをちょっとずつお届けしていきます。第2回は「森の歴史」です。縄文時代から振り返ってみます。

文:田中 菜月/イラスト制作:伊藤 実穂

森のすがたは
今も昔も同じ?

今、私たちが目にしている日本の森は、昔からずっと同じすがただったのでしょうか?

過去にさかのぼるほど深い森林におおわれていたイメージがなんとなくありますが、本当にそうなのか、ヒビキくんと確かめてみたいと思います。

お~い、ヒビキく~ん!タイムマシンで昔の森へ連れて行って!

わあ!チェーンソー型のタイムマシンなんだね。よーし、まずは人類がくらしはじめたといわれる縄文時代から行ってみよう!

―― バビューン!

お、村らしきものが見えてきた!

まわりは深い森が広がっているね~。森のなかで山菜や木の実をあつめて食料にしている人もいるみたいだよ。木で家を建てたり、火をおこしたり、くらしに必要なうつわをつくったり、人間は自然のなかにあるものをうまく使って生活していたんだね。

さあ、つぎは古代に行ってみようか。

―― バビューン!

りっぱな建てものが見えてきた。

村が大きいから人口もふえたのかもしれないね。本をしらべると、飛鳥時代(592年~645年ごろ)のころから都をつくるために木材がたくさん必要になったと書かれているよ。木がばっさいされて草地やはげ山になっているところもいくつか見えるね。木が少なくなったからか、川がはんらんして水害がおきるようになったんだって。

鎌倉時代(1185年~1333年ごろ)には、村のまわりの木が切りつくされてしまって、遠い地にある、高くて深い山からも木をはこんでくるようになったそうだよ。

さらに室町時代(1336年~1573年ごろ)になると、塩や鉄をつくる仕事がふえたみたいだけど、それらをつくるために木材をもやす必要があったから、もっとたくさんの木が使われたんだって。「もののけ姫」に出てくる“たたらば”みたいに、火をたくさん使っていたのかな。え、ヒビキくん、もののけ姫見たことないの?帰ったらぜったい見よう!

それにしても、縄文時代とくらべるとずいぶん森がへってしまったね…。この先どうなっちゃうのやら。もう少し時代を進めてたしかめてみよう…!

―― バビューン!

あれれ、木がぜんぜんない…!はげ山ばっかりだ…。

どれどれ、また本を見てみると…、戦国時代から江戸時代(1467年~1867年ごろ)にかけては、農業のぎじゅつもレベルアップして食料がいっぱいになったから、さらに人口もふえたみたい。この400年ほどのあいだに1000万人から3000万人くらいに人口がふえたらしいよ。人がふえたことで生活に必要な木がどんどん切られて、はげ山が多くなってしまったのかな。

縄文時代のころとくべると、日本の面積の半分くらいまで森がへったそうだよ。はげ山がふえてしまうと、雨が山から川へすぐに流されてしまって、どしゃくずれや水害がさらにおきるようになったみたい。あまりにもたいへんだったから、江戸幕府が草木の根っこをほってとることを禁止したり、山を焼いて畑にすることを禁じたり、森を守る動きが出てきたんだよ。さらに、山に入ることや木を切ることが禁じられるところも出てくるようになったんだって。

それにね、このころから“林業”がはじまったんだ。ヒビキくんは林業の仕事を見たことあるかな?人が木を植えて育てたら、その大きくなった木を切って、木材として売っているんだよ。西川(にしかわ・埼玉県)、天竜(てんりゅう・静岡県)、尾鷲(おわせ・三重県)、吉野(よしの・奈良県)、飫肥(おび・宮崎県)などは今もつづく林業地なんだ。

森を守って木を植えるようになったし、ひと安心だね。つぎは、明治時代から戦後にかけての時代(1868年~1950年ごろ)へ行ってみよう!

―― バビューン!

なんと…江戸時代よりもさらに木がないよ…!

ええっと…、この時代は“産業革命”などでエネルギーをもっとたくさんつかうようになったみたいだね。人口もさらに多くなって人間の活動もふえるから、森のすみずみまで木が切られてしまったっぽい…。そうした人間のぼうそうを止めるために、「治水三法(ちすいさんぽう)」とよばれる法もこのころにできたんだってさ。

大正、昭和時代には、第二次世界大戦などの大きな戦争がおきたことは知ってる?そのときに木材がもっと必要になって、またしても木を切りすぎてしまったみたい…。それと同じくらいのタイミングで、どんどん木が植えられるようになったみたいだけどね。木が育つには50年、100年と時間がかかるけれど、しょうらいも木が必要だろうと思って植えられたんだろうね。

ここからどうやって今の緑ゆたかな日本にもどったのかな。ちょっと考えてみよう。ヒビキくん、ひとまずときをもどして!

―― バビューン!

今の日本は森がゆたかだけど、あのはげ山からどうやってもどったと思う?理由はね、大きく3つあるみたい。

① エネルギー革命
② 木材の輸入自由化
③ 戦後たくさん植えられた木の成長

昔のくらしでは木(まきや炭)がねん料になっていたけれど、“エネルギー革命”がおきて木が必要じゃなくなってしまったんだよ。今のぼくたちのくらしでも、車はガソリン(石油)で動いているし、電気は石炭や天然ガスをもやしてエネルギーにかえているもんね。

さらに、1964年に木材の輸入が自由になって、外国から安くていい木材が入ってくるようになったんだ。日本の林業も元気がなくなってしまって、木を植えて育てて使うというサイクルがへってしまったみたい。ほったらかしの木はどんどん大きくなって、ふえていくばかり。草むしりしなければ庭が雑草だらけになっちゃうのと同じだね。

それから、昭和の時代にたくさん植えられた木が50年以上たって、木材として使える大きさに育ったんだけど、エネルギー革命のえいきょうもあって今はそれほど木が求められていないから、木がたくさん残ってゆたかな森に見えているってわけなんだ。今の木材のニーズは戦後の半分くらい少ないんだよ。

こうして今の日本は、国土の70%くらいが森林におおわれている国になっていったんだね。さいごに、森の面積の変化をあらわしたグラフを見つけてきたから、ヒビキくんにも見てほしいんだ。

日本の森林面積の変化

ぜんたいの森林面積は少しずつへっていて、そのかわりに森林以外の土地(人が畑や村をつくるために木を切ってしまったところ)がふえているのがわかるでしょ。人が手をつけていない天然林は1500年ごろから大きくへっていて、それとはぎゃくに林業など木材を生産するための人が手入れする森林はいきなりふえているよね。

こうやって森の歴史を知ると、森のすがたは人間社会をうつす鏡に思えてこない?今日の旅はかけあしタイムマシンだったから、家に帰ったらもうちょっと自分でしらべてみようかな。またヒビキくんにおしえてあげるね。今日はありがとう!

―― またねー!

さて、今回はこれでおしまい。つぎは“森の今”について、色んな視点からさらにくわしく見てみたいと思います。持ちものは“(心の)虫めがね”ですよ。お忘れなく!

【参考文献】
コンラッド・タットマン(1998)『日本人はどのように森をつくってきたのか』築地書館
太田猛彦(2012)『森林飽和 国土の変貌を考える』NHK出版
田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。