ひビキのヒび
# 33
初めて4校がそろった!
ぎふ林業甲子園2024
2024.11.15

岐阜県内の農林高校生たちが集う競技型就業体験イベント「ぎふ林業甲子園」が、9月14日(土)に岐阜県立森林文化アカデミーで開催されました。昨年から会場が新たに変わったこともあり、今年は競技内容がボリュームアップし、参加者もほぼ倍増です。最後に大番狂わせが巻き起こった当日のレポートをぜひご覧ください!

写真:編集部、森のジョブステーションぎふ/文:田中 菜月

体力だけじゃない
知性を要する林業競技

今年6~9月にかけて響hibi-ki編集部が行った岐阜県内の農林高校での出張授業を経て、各校から参加希望者を募って開催した「ぎふ林業甲子園」。参加校は昨年から1校増えて、加茂農林高校・岐阜農林高校・郡上高校・飛騨高山高校の4校です。昨年は参加人数が8名でしたが、今年は15名が参加してくれました。

企画運営を担当した私たち響hibi-ki編集部以外に、主催である森のジョブステーションぎふ(公益社団法人岐阜県森林公社)の方々をはじめ、岐阜県立森林文化アカデミー、郡上森林マネジメント協議会、株式会社岐阜緑地、WOOD ACの皆さんの協力のもと、アカデミーの演習林や建物を会場にさまざまな競技を行いました。

▼昨年の記事はこちら
https://hibi-ki.co.jp/hibikinohibi029/

開会式のひとコマ。

開会式で優勝木返還や選手宣誓、アイスブレイクを行ったあとに演習林へ移動し、早速競技の時間です。競技は大きく二つに分かれていて、午前に行う「林業競技」と午後の「木材競技」があります。林業競技は3種目です。

林業競技①:獣害対策競争

競技用として道沿いに植えられたヒノキの苗木にツリーシェルターを設置。

この競技では、苗木を鹿の食害から保護する「ツリーシェルター」の設置スピードを競います。今年初めて加わった競技です。農林高校ではツリーシェルターを設置するような機会はないため、生徒たちにとっては初めての設置体験となります。

手先の器用さが求められるこの競技。「Tubex」と呼ばれるイギリス製の取り付けやすい資材を使ったこともあってか、2分前後で設置を終えた高校がほとんどです。そんな中、ぶっちぎりで1位に輝いたのは1分7秒の郡上高校でした!

獣害対策競争を通じて、植林の際には苗木を植えることに加えてツリーシェルターを設置するような獣害対策が欠かせないこと、そしてその作業の大変さを身をもって感じてもらえたのかなと思います。

林業競技②:選木競技

こちらは3年前の初回から続く、高校生にも好評の競技です。選木とは、林業の現場で行われている作業の一つで、競技形式で選木を実体験しながらその奥深さにふれられる内容になっています。

与えられたテーマに対して自分たちが選木した木と、正解の木を実際に見比べながら、どういった視点でその木を正解として選んだのか講師が解説をします。このフィードバックの時間があることで、林業がただ木を伐る仕事ではなく、育てた木をどう活用していきたいか、どんな森にしていきたいか、想像力を働かせながら取り組む仕事であることが理解できます。

林業競技③:伐採木判定競技

選木後は伐採見学する木の樹高などを予想し、伐採後に答え合わせを行うことで、リアルな木の規模感を間近で体感する機会となりました。この日初めて伐採を見ることができたという子もいるなど、学校の授業だけでは体験できない貴重な時間になったはずです。

午前中はこれにて終了。下山してランチ会場へ向かいます。

午後の競技を経て
優勝に輝いたのは…?

お昼休憩では、農林高校の生徒と森林文化アカデミーの学生をシャッフルしてグループ分けし、ランチ交流会を行いました。高校生にとってはめったにない機会で緊張した様子でしたが、それぞれどんな進路を考えているのか、他の学校との授業や校風の違いなど、さまざまな会話を通じて交流を楽しみました。

ランチ交流会を経て、午後は木材にまつわる5種類の競技を実施しています。

木材競技①:樹種判別競技

用意された15種類の葉っぱと板材の樹種を判別。

木材競技②:木材重量予想競技

ヒノキの角材の重量を予想。

木材競技③:空間・価格予想競技

部屋の広さとフローリング材の価格を予想。

木材競技④:木材強度予想競技

スギ・ヒノキ・ベイマツのたわみ量の大小を予想。

樹種判別競技や木材重量予想競技はその名のとおりの競技内容です。空間・価格予想競技は、部屋の広さを予想して、そこにフローリング材を敷き詰めたときの材料の価格を考えてもらいます。広さについては自分の歩幅や身長を参考にして答えに近づいていましたが、フローリングの価格予想は大苦戦。正解から一桁少ない回答の学校がほとんどでした。木材強度予想競技では、木材のたわみを測る装置を使ってたわみ量を予想しました。

木材の価格や強度は学校の授業で習う内容ではないので、高校生にとっては難しすぎたかもしれません。ですが、木材の価格がどう決まっていくのか、建築などに木材を使う際にどのような配慮が必要なのかといったことを考えるきっかけにつながっています。

木材競技⑤:薪割り競技

そして、最後の薪割り競技がこの日一番盛り上がったといっても過言ではありません。クサビを打ってハンマーで叩いて、何回で四つ割りにできるかを競う内容です。体力勝負かと思いきや、割れやすい丸太を選べているか、割れやすい位置にクサビが打てているかどうかなど、案外頭も使います。

序盤は郡上高校が順調にクサビを打ちこんでいき、15回目を迎えたところで一番最初に半分に割ることに成功しました。しかし、丸太が半分になったことでクサビが打ちにくくなったのか、郡上高校チームが苦戦し始めます。

そうこうしているうちに、飛騨高山高校と岐阜農林高校が追い上げ、あと一つ割れば終わりというところまで3校が並びました。遅れをとっていた加茂農林高校も土壇場で追いつき、どこが1位になってもおかしくない状況に。ついに20回目を迎えたところで歓声が上がったのは………女子3人の岐阜農林高校チームでした!

こうして、すべての競技を終えた最終結果は…、

岐阜農林高校 57点
加茂農林高校、郡上高校 56点
飛騨高山高校 52点

と、最後の薪割り競技で見事逆転を果たした「岐阜農林高校」が優勝となりました!

林業甲子園オリジナル
優勝木とプラカード

今年から岐阜県立森林文化アカデミーでの開催になったこともあり、さまざまな形でアカデミーとの連携が生まれました。競技の企画段階からアカデミーの林業専攻を担当する杉本和也先生や学生の後藤里花さんに加わってもらったり、当日も講師やサポートとして協力してもらったり。さらには、木工専攻の方々にご尽力いただいたおかげで林業甲子園を彩るアイテムも新たに増えています。

左から岐阜県立森林文化アカデミー准教授の前野健先生、木工専攻1年の浅野由佳梨さん、響hibi-ki編集部の田中。

実際の甲子園では“プラカード”と呼ばれる学校名が書かれた木製ボード。そして、優勝旗ならぬ“優勝木”を木工専攻1年の浅野由佳梨さんを中心に製作してもらいました。ただでさえ授業で忙しい中、授業以外の時間や休みの日を使ってまでつくっていただけて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

また、木工担当の前野先生の協力のもと、授業の一環として板を加工してもらい、学生さんが所有しているという加工機械を使わせてもらって文字の彫り込み作業を行うなど、いろんな方々のサポートのおかげで林業甲子園ならではの優勝木と木製ボードが出来上がっていきました。

今回製作してもらった優勝木と木製ボードは、来年以降も大切に使い続けていきます。林業甲子園が続いていけば、味わい深い色艶に変化していくことでしょう。

今回の林業甲子園では初めての試みもいくつかありました。そのため、一部競技のルールが不明確であったり、生徒間の交流の要素が少なかったり、改善が必要な点もまだまだあります。関わっていただいた方々の声を聞きながら、来年に向けてどう改善していけるか考え始めているところです。次の林業甲子園がどうなるのか。乞うご期待ください!

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。