新年明けましておめでとうございます。2023年から響hibi-kiは4年目を迎えます。新年1発目の記事ということで、昨年の活動を振り返るとともに、今年の予想図をここに書き残しておきます。
林業教育革命
覚えてますか?
去年の最初に更新した記事で、「林業教育革命」を目標に掲げ、「学校教育で当たり前のように森林や林業のことを学ぶ社会にしたい」といった内容を書きました。
https://hibi-ki.co.jp/hibikinohibi018/
この記事を書いたときはまだ、何も行動に移してはおらず、絵空事のような状態でした。しかし、自分たちに何ができるか、年明けから模索をはじめ、2月には岐阜県内5つの農林高校へ赴き、森林関連学科の先生や生徒にヒアリングを行いました。
その結果、森林・林業のことを専門的に学ぶ時間が減っていること、コロナ禍も相まって林業現場などを見学・体験する機会がかなり減ってきていることがわかってきました。学校教育の中で、もっとも林業に近いであろう農林高校ですら林業から遠ざかっているのであれば、小学校・中学校・普通科高校では尚更、林業のことに触れる機会は少なくなっていることが容易に想像できます。
実際、小学校社会科の学習指導要領では、産業の項目に農業・水産業・工業が登場するにも関わらず、林業の記述が出てくることはありません。1968年の学習指導要領には、産業としての林業が記載されていたことを考慮すると、林業の存在感は確かに薄れてきています。どおりで私も、子ども時代に林業を知る機会がなかったわけです。
「これはもう、自ら学校に乗り込んで林業のことを伝えに行かねば!」と、勝手に意気込んでしまったのでした。
別のしかたで
林業を伝える
編集部の田中と高岸で各高校を回る道中、響hibi-kiならどういう形で林業を伝えられるだろうかと議論を重ねました。学校の先生にはできない別のアプローチで、林業を学べて、かつ「なんか面白そう!」と生徒たちに感じてもらえる形はなんだろうか。その中で、手段としてのゲームが候補に挙がりました。そして、学生時代から林業のボードゲームのアイデアを温めていた高岸くんに開発を託すことになったのです。
これは絶対に形にしたほうがいい!ということで、他の業務を止めてでもゲーム制作に専念してもらいました。そして、高岸くんが4ヶ月ほどかけて練った素案を実際に試作し、社内でゲームプレイを繰り返します。社内だけでなく、社外で林業に関わる人や農林高校の先生などからもアドバイスをもらい、試行錯誤を深めて内容をブラッシュアップしていきました。
5月頃には、ゲームの内容がある程度固まってきます。それまではPowerPointでつくったカードを印刷して使っていたのですが、もう少し本格的なゲームへと仕上げるため、響hibi-kiのデザイン面を担当している社内のデザイナー・伊藤さんに協力を依頼し、各種ゲームアイテムをデザインしてもらいました。
そして、完成したのが林業ボードゲーム「山林王〜5つの山を制する者~」(仮)です。
ゲームは2人対戦形式で、各プレイヤーが5つの山とコイン10枚を持っているところからスタートします。各ターンごとに、コインで道具を買って仕事をし、山を育てていきます。仕事内容は、チェーンソーで切り捨て間伐をしたり、作業道をつくったり、ハーベスタと呼ばれる大型機械で効率的に木材生産をしたり、獣害ネットを張ったりと、所有している道具に合わせて選ぶことができます。そして5ターン目の終了後、それぞれが所有する山の成長量とコインの合計数が多いプレイヤーの勝ちとなります。
2ターン目からは、プレイヤーの先行きを決める「運命カード」を引くアクションもあります。このカードの中には、コインが増えるなどのラッキーカードもあるのですが、土砂災害や獣害など、現実で起こりうるリスクカードも含まれています。この運命カードにより、不確定要素の多い自然を相手にしている林業のリアルな側面を、ゲーム上でも体感することができます。突発的な自然環境の変化にも耐えうる山を育てながら、その一方で、産業として木材を生産する活動も重要です。
経済面・環境面のどちらも大事な林業だからこそ、どちらかに偏るのではなく、両者の絶妙なバランスの中で林業が成り立っていることをボードゲームを通じて知ってもらいたいと考え、この内容に落ち着いたのでした。
ボードゲームから
リアルな現場へ
6~7月にかけて、加茂農林高校・郡上高校・飛騨高山高校・恵那農業高校・岐阜農林高校を訪れ、森林関連学科の2年生を対象に、林業ボードゲームを使った出前授業を行いました。計画から半年で学校への乗り込みが実現してしまい、あまりのスピード感に自分たちが一番びっくりです。
授業の最初は、ゲームルールを理解してもらうのに時間がかかりました。ですが、丁寧に説明して実践を繰り返すと、夢中になってゲームに興じてくれるようになり、それはどの高校も同じでした。とはいえ、高校ごとにカラーがあって、静かで真面目な雰囲気のクラスもあれば、終始にぎやかなクラスもあって、講師側としてはその違いを面白くも感じていました。
生徒たちの反応を見ていると、何度も獣害に遭って頭を抱えている子がいたり、土砂災害でせっかく育てた山の成長量がゼロになって嘆いていたり、ラッキーが続いて成長量もコインも倍増して歓喜している子がいたりと、悲喜こもごもな様子。おぼろげにでも林業の全体像をつかんでもらえたんじゃないかという実感を得ることができ、ボードゲームをつくって良かったと感じた瞬間でもありました。
ゲームとしての楽しさはもちろんですが、それだけでは学びとして生徒に残るものが少ないだろうということで、ゲーム後には振り返りの時間も設けています。勝ったプレイヤーはどんな戦略で山を育てたのか、といった質問を投げかけ、私たちの制作意図も伝えるようにしました。
さらに、このゲームの延長として、林業現場を実際に見学・体験するイベント「現地視察交流会」も企画して開催しました。講師役を担ってくれたのは、岐阜県東白川村の〈株式会社山共〉と〈株式会社山共フォレスト〉です。参加者は各校から8名が参加してくれました。
ただ見学するだけでは面白くないので、間伐する木を選ぶ「選木」という作業を生徒自身に体験してもらいました。そして、伐採されたあとの木の行方も知ってもらいたいという思いから、製材の体験ワークも実施。1本の丸太からどんなサイズの木材がいくつ取れるのか。この「木取り」と呼ばれる作業をプロの製材マンとともに考えてもらったのでした。
林業を肌で感じて、さらにその先の流れを考えるきっかけをつくることができたんじゃないかと思えるイベントでした。この取り組みは毎年継続していきたいと考えているので、関係各所にフィードバックをもらいながら中身をもっと磨いていきます。
また、ボードゲームについては農林高校以外にも、岐阜県立岐阜商業高校や岐阜市立女子短期大学の学生向けに授業を行っています。この経験から、普段は森林と関わる機会がなくても、ゲームを通じて林業への興味関心をそれなりに持ってもらえることがわかってきました。
こうして振り返ってみると、1年間で総勢200名ほどの学生に向けて、林業と触れる機会をつくることができました。WEBメディアを主宰していながら言うのもなんですが、ネットで同じ数だけ伝えるよりも価値のあることだと感じています。2022年は、年初に掲げた林業教育革命の狼煙を上げることができた1年だったと言えそうです。この活動を諦めずにどこまで続けられるか。それが本当の革命を引き寄せる力になるんじゃないかと思っています。
そして2023年は、林業ボードゲームの普及版としてより本格的なゲームセットを製作・販売できないかと検討中です。色んなジャンルの学校で使ってもらいたいですし、岐阜県以外の地域でも林業ボードゲームを広めていけるように、さらなる種まきをしていこうと企んでいます。「うちの地域でもやってみたい!」という方がいらっしゃいましたら、響hibi-ki編集部までご連絡ください!
仕入れたネタを
どう調理する?
ボードゲームとは別で、中学生を対象にした授業の講師も担当させてもらう機会がありました。訪ねたのは高山市立清見中学校。1年生が対象だったので、林業へのハードルをより低く、かつ楽しく学べるように〇×クイズ形式の内容で実施しました。
実は、このときのクイズ内容は、響hibi-kiの連載「今から聞きたい きほんの木」で取り上げているものをベースに考えました。クイズの答えを解説するスライドでは、記事で登場するイラストやグラフも使っています。
「WEB記事はネット空間に漂うだけか…」と思っていた節もあり、まさかこんな形で響hibi-kiの記事を応用させることができるとは思ってもみませんでした。特にイラストは子どもたちの反応も良く、制作してくれたデザイナーの伊藤さんには感謝しかないです。
この他にも、林業の仕事や森に関わる生業を紹介する場面では、響hibi-kiの取材で撮影した写真も大いに活躍してくれました。清見中学校での授業に限らず、前述のボードゲームや、去年3回開催した焚火ナイトなど、さまざまなシーンで自分たちの経験が活かせているという感触が確かにありました。
メディア活動でインプットした情報や経験が、記事というオーソドックスな形だけでなく、別の表現方法、アウトプットの仕方で昇華させることができるのだと、大きな気付きも得られました。取材等で仕入れたネタを、どう調理して、どのような料理に仕上げるのか。その幅をもっと増やしていきたいと今は思っています。
WEBサイトのアクセス数やSNSのフォロワー数など、数字で評価せざるを得ないのがメディアです。その点では、響hibi-kiは影響力の小さい弱小メディアと言えます。しかし、表現方法を多彩にしていくことで、他にはない力を秘めたメディアになれると信じています。そして、世の中に一石を投じるという点では、自分たちの活動に可能性も感じられるようになってきました。諦めずにどこまで伸びていけるのか、今年も挑戦は続きます。
表象としての林業
仕事とは別で、ずっと考えていることがありました。
「なぜ自分が森林や林業に惹かれているのか」
惹かれている何かがあるからこそ、林業教育革命を推し進める原動力にもなっている実感があります。
ただ、惹かれているにも関わらず、今は山暮らしをしたいと思っているわけでもないですし、山の中で働こうとも思っていません。どちらも検討した時期はありましたが、どうやら心底望んでいるわけではないことがわかってきたのです。
こうしてモヤモヤ考えているときに出会ったのが、「表象」という言葉でした。表象とは、そこにはない何かを別のもので代理して表すことを意味しています。この言葉に出会ったとき、私はまさに森林を表象として見ていると直観的に思いました。
例えば、私が林業の世界へ飛び込もうと考えていた頃、何十年、何百年と時間をかけて森を手入れし、木材を収穫する、ゆったりとした林業の生産サイクルがいいなと感じていました。今思えばこれは、加速度的に効率化・スピード化を求められる資本主義的なるものへの抵抗を表していたのかなと読み取ることができそうです。
抽象的な話になりますが、森には何か大事なものを隠したり、危険から身を守るために逃げ込んだりするイメージもあります。アニメなどでも隠れ場所として森がよく登場するのと同じかもしれません。林業の世界に入る前は、新卒で入った会社で働きながら人並みに社会生活を送っていくことに疲れていたこともあり、そうした状況から逃げたい一心で、「アジール」(避難所、自由領域)としての理想を森林や林業の世界に投影していたのかなとも思います。
数ある産業の中でも、世間から目を向けられていないであろう林業に、なんだか自分の姿を重ねて愛おしく感じてしまうときもありますし、興味を持っている人が少ないからこそ、自分がやるしかないという使命感も湧き上がってくるものです。自分の性質と林業が置かれている状況の、相性の良さもあるのかもしれません。
社会人になってから、偶然出会ってしまった林業。今年は、いつものWEB記事とは別の形で、表象としての森林や林業を表現できたらいいなあ、なんてことを考えています。