ひビキのヒび
# 18
響hibi-ki 2022
林業教育革命は起こせるのか?
2022.1.3

2022年1月で響hibi-kiは3年目となりました。新年を迎えたということで、去年ぼんやりと考えていたやりたいことや今後の方向性を綴ってみることにしました。今年の響hibi-kiはどこへ向かっていくのか?その行方を見届けてください。

写真:西山 勲/文:田中 菜月

高校側の声から
初めて気付いたこと

新年明けましておめでとうございます。

皆さんはどんな年末年始を過ごされましたか?私は今年もずっと家にこもって空想の世界を漂う、かなり気の抜けたお正月でした。

さて、そうは言っても仕事のことはそれなりにちゃんと考えてますよ…!これからの響hibi-kiはどこへ向かっていくのか、今まで制作をしながらあれこれ考えていたことをちょっとずつ言葉にして、読者の皆さんをはじめ、関係各所やこれから関わるであろう方々にしっかりお伝えできるようにしたいと思っています。

響hibi-kiは“見えない森の存在”に気付いてもらおうと、2019年12月末からWEBサイトが立ち上がったわけですが、林業や自然エネルギー、木造建築を本業としている私たちですら、見えていないことがまだまだたくさんあるように感じていました(今もですが)。

仕事に関連することならある程度は把握していると思うのですが、例えば、“教育”の面に関しては全然わかっていません。というのも、地元の高校の先生から声をかけてもらって初めて気づいたことがあるからです。

数年前、飛騨高山高校・環境科学科の先生から、「山で伐採された木がどのように使われていくのか生徒たちに見せたい」と相談があり、「演習林活用プロジェクト」として連携がはじまりました。

学校の演習林で一緒に伐採し、その木を製材する様子を見学してもらったり、乾燥後の木材の変化を観察してもらったり、そして建築現場で部材として取り付ける作業まで共同で体験してもらいました。他にも自分たちで木工品に加工して販売するなど、1年を通して木材流通の川上から川下までを直に経験してもらう内容になっています。

photo by Sun Peiyu

こうした体験は学校だけで完結させることは難しい、というのが一つの発見でした。木材流通が複雑になりすぎて、その全体像を想像することすら困難になっているため、授業だけで理解することは容易ではないようです。

このプロジェクトがはじまって具体的なイメージが掴めるようになったからか、林業や木材関連業に就職・進学する生徒数が以前より数名程度増えたそうです。早いうちからリアルな世界に触れれば興味を持ってくれる子どもたちが少なからずいるんだと、肌で感じた出来事でした。

私自身、林業の世界に足を踏み入れた25歳頃から、「なんで小中学校で日本の林業のことを教えてくれなかったんだろう」と、ずっとそれが気がかりになっていました。むしろ世界的に森は減っているから「森林伐採は良くないよね」程度のことを教わった記憶があります。日本の森の現状はまったく逆にも関わらずです。岐阜県立森林文化アカデミーという学校で、大人になってから日本の森や林業の世界を知って、「こんな面白いこともっと早く教えてくれよ!」と率直に思いました。

こうした経緯もあり、響hibi-kiとして大人向けに情報を届けるだけではなく、子どもたちにも伝える機会をつくりたいと最近は考えています。そこで打ち立てたのが「林業教育革命」という目標です。“教育革命”なんていうと仰々しいですし、簡単じゃないことは重々承知ですが、自分たちが目指していることを端的に表してみたらそうなってしまいました。

「学校教育で当たり前のように森や林業のことを学ぶ社会にしたい」

これを一つの道標にして、2022年はそのための足固めを行っていきたいと思っています。また、その先には運営元・飛騨五木グループの目標である「2035年までに木材が当たり前にある社会」につながると信じています。

と、壮大な話になってしまったのですが、もちろんそこにエゴがあることも自覚しています。「めっちゃおもろいから一緒にやろうぜ!」というのが本音です。良ければ、そこのあなたもぜひ。

林業を歌うアイドルと
山を思う街での暮らし

話はだいぶ変わりますが、皆さんは“林業を歌っている曲”ってあると思いますか?

ふと気になって先日ネットで調べてみました。歌詞サイトで検索してみたところ、2曲だけヒット!

一つは男性ボーカルグループ・春夏秋冬の楽曲「春夏秋冬のテーマ」、もう一つが女性アイドルグループ・MAPA(まっぱ)の「四天王」という楽曲でした。実はこのアイドル、私が敬愛している超歌手・大森靖子さんがプロデュースするグループなのですが、昨年11月にデビューアルバムをリリースしたばかりで、そのアルバムの中に収録されている曲なのです。「四天王」はおじいちゃんおばあちゃんのことが歌われていて、その中で「〇〇業」の羅列の一つに林業が並んでいます。

大好きなミュージシャンが歌詞に林業を入れてくれてめちゃくちゃ嬉しかった、という個人的な2021年の大ニュースでした。教育だけでなく、こういうカルチャーにも何かしら取り入れられるくらい、林業の存在感が増していってくれー!と個人的に願うばかりです。

そして最後にもう一つ、考えておきたいことがあります。

これまで、響hibi-kiを通じていろんな森での働き方や暮らし方を取材させてもらいました。取材させてもらったからには、自らもいずれ山で暮らし、持続可能な生活を送るべし、と勝手に思い込んでいた節があったのですが、そこに息苦しさをどこかで感じてもいました。もちろんそんな必要はありません。自分の好きな距離感で付き合えばいいわけです。

自然は好きですし、山暮らしに憧れてはいるものの、今の地方都市(岐阜市)の暮らしも好きです。中心地には低山があるし、市街地から20~30分で山しかないエリアにすぐ行けてしまいます。それでいて、街中にはお気に入りの喫茶店や食堂、古着屋、古本屋もいろいろあるし、煩悩まみれの私には今の距離感がちょうどいいくらいだと感じています。

ですが、やはり少しずつ自分の意識が変わっているとも実感しています。例えば、利根川の水源地・みなかみ町を取材したあとは、自宅で水を使うたびに「もったいない精神」が発動するようになりました。他にも、昔に比べてめちゃくちゃこまめに電気を消す習慣が身に付きました。大学時代はそこらじゅうの電気をつけっぱなしにして親に怒られていたというのに。それに、自給自足に憧れて味噌や梅干しなんかを手づくりするようにもなりました。あれ、自分も同じだ!と思った方もいるんじゃないでしょうか。

取材を重ねるごとに、その人のエッセンスを少しでも取り込みたいと、自分の生活や意識の何かがわずかにですが確実に変化していっています。向上心さえ生きていれば、その変化はこれからも止まることはなさそうです。

読者の中には、将来的に山で自給自足の生活をしていきたいと思い描いている方も多くいらっしゃるでしょう。響hibi-kiで取材した人の生き方をぜひ参考にしてもらいながら、実現に向けて歩んでほしいと思っています。逆に、もし私と同じように感じている方がいれば、非を感じなくても大丈夫だと胸を張って言いたいです。今の暮らしを大きく変えずとも、自分なりに山を思う暮らしが送れていればそれでOK!そんな感じで気楽にいきましょう。

いや、こんなことを言っておきながら20年後くらいの私は、森の湖畔で思索と自給自足に励むヘンリー・ソローのような“森の生活”を送っているかもしれません。その可能性も残しておきつつ、自由気ままに生きたいものです。

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。