ひビキのヒび
# 15
ロードバイクで出会う
予想外の景色と歴史
2021.10.1

制作の裏側や取材時の裏話など、編集部の日常をあれこれと綴っていく「ひビキのヒび」。今回はサイクリストである編集部・高岸が見た、岐阜の山々や自然を紹介します。

写真・文:高岸 昌平

普段と違う角度から
観光地を楽しむ

響 hibi-ki の本拠地は岐阜県にあります。これまで、特段訪れることのなかった岐阜に対する私のイメージは「飛騨高山」「白川郷」くらいなものでした。でも、趣味を通じて岐阜の山々に分け入ってみると、知らない岐阜の姿が見えてくるから面白いのです。今回は、岐阜に住み始めた新入社員の休日日記。「名古屋にはいくけど」「岐阜はいつも通り過ぎちゃうんだよね」という方も覗いてみてください。

馬瀬川第2ダムの湖面上流。この日は湖面に沈んだ段々畑の生け垣が顔を出していた。

ロードバイクで行ける1日の行動範囲は大体50㎞圏内です。大阪駅から京都駅までが40㎞、東京駅から成田空港が50㎞ということを考えると、50㎞圏内とはなかなか広いことがわかると思います。

岐阜に訪れた当初は、観光地としても有名な名所から訪れてみることにしました。「うだつが上がらない」という言葉でも知られる「うだつの上がる町並み」(美濃市)や国宝として指定されている「犬山城」(愛知県犬山市)も行動圏内です。なかでも強く印象に残っているのが「郡上八幡城」(郡上市)です。

岐阜に訪れた当初は、観光地としても有名な名所から訪れてみることにしました。「うだつが上がらない」という言葉でも知られる「うだつの上がる町並み」(美濃市)や国宝として指定されている「犬山城」(愛知県犬山市)も行動圏内です。なかでも強く印象に残っているのが「郡上八幡城」(郡上市)です。

左側の小高い山の頂に小さく見えるのが、郡上八幡城。山を下る直前、突然に視界が開けて、城が見えた。

城といえば、石垣から見上げるのが通常ですがこんなふうに城を見下ろせるスポットに思いがけず出会えるのも、ロードバイクツーリングの魅力です。郡上八幡城が「天空の城」と呼ばれるのも納得の風景。予期せぬ風景が眼前に現れる高揚感に、すっかりとりこになってしまいました。

遠出ライドをすると決まって立ち寄るポイントがあります。それは“湧き水”ポイント。特に郡上周辺では、庭先が湧き水スポットなんていうことも珍しくありません。灼熱の太陽の下ペダルをこぎ続けた私にとって、思いがけず見つける湧き水スポットはまさに天然のオアシスです。そんなオアシスの“命の水”でHPを全回復したら、帰路につきます。

遠出ライドをすると決まって立ち寄るポイントがあります。それは“湧き水”ポイント。特に郡上周辺では、庭先が湧き水スポットなんていうことも珍しくありません。灼熱の太陽の下ペダルをこぎ続けた私にとって、思いがけず見つける湧き水スポットはまさに天然のオアシスです。そんなオアシスの“命の水”でHPを全回復したら、帰路につきます。

人と森との距離
森を楽しむ岐阜の休日

まずは岐阜の郊外からの紹介でしたが、県庁所在地である岐阜市内やお隣の各務原市(かかみがはらし)も森が近く楽しめる環境が豊富です。仕事で疲れたときや短時間だけ外に出たい場合など、近場でツーリングを楽しみます。

岐阜のシンボルである金華山と長良川。その頂には岐阜城が見える。

まずは、金華山です。金華山はどうやら岐阜のランドマーク的なシンボルとなっているようで、山頂にそびえる岐阜城は織田信長ゆかりの城として有名です。岐阜市民はこの金華山を見つけると「帰ってきたな」と感じるのだといいます(自分は岐阜が織田信長のゆかりの地ということさえ初耳でした)。そんな金華山のお気に入りは「金華山ドライブウェイ」。休日はウォーキングや山登り、サイクリングで訪れる人が多く、思いのほかにぎわいます。

特に気に入っているのは、平日の仕事帰りに登る金華山。滋賀方面の伊吹山に沈む夕日を一望できるお気に入りスポットです。通勤用のロードバイクで、薄暗く誰もいないドライブウェイを汗をかきつつ登った先で、西に沈む夕日と少し早い名古屋の夜景を見渡して一息。こんなふうに仕事終わりを過ごしていると、地元・さいたまと比べて、人と山の距離が近いのだなとしみじみ感じるのです。

地元の方々にありがとう
おかげさまで楽しく過ごしています

ロードバイクでのツーリングは楽しいばかりではなく、トラブルがつきものです。特に山が多い岐阜県では突然雨が降り出すこともしばしば。山県市の伊自良湖では、しっかり雨に降られました。

湖面にはボートが浮かび、ゆったりとした時間が流れる。

その日の目的地は「伊自良湖」。小さな湖ですが、物静かで自然にあふれています。到着してから散策していると、湖畔のステージからなにやらロックな音楽が聞こえてきます。
どうやらこのステージは近隣の大学サークルが練習場所として使っているよう。ステージの周りでも、同じサークルのメンバーが思い思いに練習をしています。最初は場違いに感じたロックもなかなか上手な演奏で、聞いていると自然と身体が動きだすような感覚になります。散歩中のおじいさんも席について耳を傾け始めました。

その場の人がなんとなくロックに耳を傾けたころ、あたりが暗くなりザッと雨が降り始めました。三々五々、雨宿りに向かう学生を尻目に私は昼ご飯。お昼は気になっていたこれ。

ビーツとマグロのたたきが入ったピンクラーメン。温かいビーツスープの中でマグロの触感が少しずつ変わっていく新食感のラーメン。

雨が降りやんだ湖畔のステージには、山の中特有のもやが立ち込めます。川の上流からもやが湖面に漂い、通り雨が上がった空から陽の光が差し込んでくると、そこには映画のワンシーンのような情景が広がっていました。その風景はひと夏のboy meets girlな物語が始まりそうな雰囲気です。そんな私の妄想はさておき、いろんな人が無意識に森の中で活動しているその光景が心地よく映ったのでした。

冬から春先にかけては、通行止めに泣くことも。

天候の変化であれば、過ぎ去るのを待てばよいのですが、自転車のトラブルは厄介です。誰もいない山の中で動けなくなってしまったら目も当てられません。でも、その時は訪れてしまいました。それは、岐阜でも猛暑日を記録したある日のことです。いつものように山奥のダムへツーリング。行き止まりの細い1本道は決まって、石や砂利が多くパンクに気をつけなければなりません。石を踏まないようハンドルを操り、バイクの加重にも気をつけながら進みます。しかし…。「バシュ~~‼」

やっちまったな~と思いながらタイヤを確認してみると、転がる石を踏んでしまったのかタイヤがカットしてパンク。山の中で身動きが取れなくなってしまいました。パンク修理キットでは、直らないレベルに呆然と立ち尽くす私。家までの距離は4㎞程度、とりあえず人のいるところまで歩くしかありません。昼ごはんもろくに食べずに1時間ほど歩いたところでキャンプ場を見つけ、施設の人に助けを求めることにしました。

やっちまったな~と思いながらタイヤを確認してみると、転がる石を踏んでしまったのかタイヤがカットしてパンク。山の中で身動きが取れなくなってしまいました。パンク修理キットでは、直らないレベルに呆然と立ち尽くす私。家までの距離は4㎞程度、とりあえず人のいるところまで歩くしかありません。昼ごはんもろくに食べずに1時間ほど歩いたところでキャンプ場を見つけ、施設の人に助けを求めることにしました。

人のいる場所で休憩するときは、このかっこう。

私「空気入れとかないっすかね…?」
管理人さん「あったかな~?」

社会人にもなってこんな醜態をさらしていることを反省しつつも、キャンプ場管理人の優しさに頼るしかありません。恐縮しつつも呆然と待つ私の上にハチが舞い始めます。しばらく待って、管理人さんが持ってきてくれたのは、コンプレッサーとガムテープ。

社会人にもなってこんな醜態をさらしていることを反省しつつも、キャンプ場管理人の優しさに頼るしかありません。恐縮しつつも呆然と待つ私の上にハチが舞い始めます。しばらく待って、管理人さんが持ってきてくれたのは、コンプレッサーとガムテープ。

管理人さん「これで入らんかな~?」

それじゃ空気入らんわ!と心の中で叫びつつも、お礼を言いトライしてみます。コンプレッサーの原動機がブロロッと動き始め、空気が圧縮されます。自転車のバルブとコンプレッサーのノズルをガムテープでぐるぐる巻きにしたら、コンプレッサーのトリガーを引きます。

それじゃ空気入らんわ!と心の中で叫びつつも、お礼を言いトライしてみます。コンプレッサーの原動機がブロロッと動き始め、空気が圧縮されます。自転車のバルブとコンプレッサーのノズルをガムテープでぐるぐる巻きにしたら、コンプレッサーのトリガーを引きます。

「ジュッボーッ~!!」

いくら大袈裟な音をたてても、自転車の小さなバルブから充分に入るわけもありません。(意外と入ったのでビックリしましたが、走れる程度にはなりません)途方に暮れていると管理人さんが一言。

「2時間くらい待ってもらえたら、岐阜まで送っていけるけどどうする?」

予想外のお言葉でした。軽トラの荷台に自転車を積み込み、マニュアル車に揺られてなんとか無事家まで帰ることができたのでした。「岐阜の方は優しいな~」と思わずにはいられません。そして、このときばかりは車窓から見える金華山と岐阜城に「帰ってきた」と安堵を覚えたのでした。こうしてだんだんと岐阜に染まっていくのかもしれません。いつかはそのキャンプ場に、友人と泊まりに行きたいと思います。

まちの面白さは
歴史の裏付けがあってこそ

さて、こんなふうに突然現れる風景や自然の湧き水の冷たさ、地元の人の暖かさを感じることで、仕事へのエネルギーをチャージする私の休日。改めて記事にまとめてみると、感動するポイントが見えてきました。それは「人の生活や歴史の積み重ね」があるかどうか?普段何気なく目に入る景色も、これまでの人の生活があって成り立っています。そんな景色に「美しさ」「人間らしさ」「感動」を覚えるのです。そして、それはお城や歴史的名所に限りません。私が出会ったのは、「お墓の休憩所」でした。

さて、こんなふうに突然現れる風景や自然の湧き水の冷たさ、地元の人の暖かさを感じることで、仕事へのエネルギーをチャージする私の休日。改めて記事にまとめてみると、感動するポイントが見えてきました。それは「人の生活や歴史の積み重ね」があるかどうか?普段何気なく目に入る景色も、これまでの人の生活があって成り立っています。そんな景色に「美しさ」「人間らしさ」「感動」を覚えるのです。そして、それはお城や歴史的名所に限りません。私が出会ったのは、「お墓の休憩所」でした。

太くて立派な木材というわけでもなく、目立つものでもない。しかし、構造がしっかりと見え、曲がった材をうまく使っている様子はまさに“適材適所”という言葉がぴったりです。お墓ですので、立ち入りは遠慮しつつもしばらく眺めながら、建てられたころに想いを馳せていました。

―― いったい誰が建てたのだろうか?この樹種は何?そこらへんに生えていたのかな?このヤカンのような水汲みは誰が持ってきたのだろう?いろんな人が関わってそうだな。四隅を支える鉄骨はいつ補強されたのだろう?とりあえず補強したのかな?強度大丈夫かな? ――

―― いったい誰が建てたのだろうか?この樹種は何?そこらへんに生えていたのかな?このヤカンのような水汲みは誰が持ってきたのだろう?いろんな人が関わってそうだな。四隅を支える鉄骨はいつ補強されたのだろう?とりあえず補強したのかな?強度大丈夫かな? ――

とても人間らしさを感じました。すべて私の妄想なので、違う可能性も十分にありますが当時をイメージできる余白がある。その建物には、名前はないし記録も特にないのかもしれません。しかし、昔はこうだったという文字情報でなく、風景・空間としてメッセージを持つように感じられることは奥深いです。

なんとかして「日本の○○」になりたいのでしょうか。その思惑も人間らしく、ツッコミを入れるのもひそかな楽しみ。

こうして、自転車でまちを眺めているとさまざまなものに出会えるのです。車での移動は速過ぎて流れていってしまうし、歩くには遅すぎる。やっぱり自転車くらいがちょうどいい。みなさんも自分の身の回りをつぶさに観察してみると、面白い出会いが潜んでいるはずです。運動がてらサドルにまたがってみませんか?

高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。