ひビキのヒび
# 13
編集部、海へ行く
2021.8.11

制作の裏側や取材時の裏話など、編集部の日常をあれこれと綴っていく「ひビキのヒび」。今回は、いつもの森を飛び出し、海へ。編集部のとある週末の模様をお送りします。

写真:編集部/文:田中 菜月

経理担当は貝の元研究者

森のメディアだから、編集部スタッフは休みの日でも森のことを考えて、森の中で過ごしていると思われているでしょうか。私の週末はその真逆です。家にこもってマンガを読んだり、哲学書や人類学の本を読んだり、アイドルやアングラ系の配信を見たり、森とはかけ離れた時間を過ごしていることのほうが多く、たまにキャンプへ行ったり、近くの山を眺めたりするくらいです。山の中でクマに遭遇してから、足を踏み入れるのがちょっと怖くなったというのもあります。

そんなここ最近の週末ですが、先日、会社で経理を担当している平松さんが「干潟の生き物観察会」なるものに誘ってくれたので参加してみることにしました。

平松さんは入社3年目で、響hibi-kiを運営する飛騨五木株式会社の全事業の経理を担当しています。

入社前は大学院で二枚貝の研究をしていたこともあり、水辺の生き物についてかなり詳しく、今回誘ってくれたイベントも大学時代から手伝っているそうなのです。

平松さんが研究していた、淡水に住む二枚貝「カワシンジュガイ」。平松さん写真提供

最初は“干潟”と聞いてもピンと来なかったのですが、“潮干狩りをするようなところ”と聞いてすぐにイメージが湧いてきました。とりあえず、暑さと日焼け対策をしっかり準備して当日を迎えます。

アナジャコ、ゲットだぜ

観察会の場所は愛知県名古屋市にある「藤前干潟」でした。名古屋港の近くに位置し、周辺は物流の拠点に囲まれています。集合場所の「藤前干潟活動センター」に近づくと、いろいろな企業の物流センターが現れ、大きなトラックもたくさん走っていて、「こんなところにラムサール条約に登録された干潟があるのか?」と不思議な気持ちになってきます。

正午を過ぎてイベントの時間になると、潮が引いて干潟が見えてきました。ウミネコやダイサギなどの鳥も集まってきているのが観察できます。干潟には鳥のエサ(貝やカニ、ゴカイなどの底生生物)が豊富で、食事と休憩のために世界各国から渡り鳥が訪れているのだそうです。越冬地であるオーストラリアや東アジアからやってきて、シベリアやアラスカなどの繁殖地へ向かう中継地点になっています。

さらに、藤前干潟では鳥類が172種類、底生生物は174種類が確認されているそうなんですが、この前情報を持って干潟を目の前にしても、そんなに生きものが生息しているようには見えません。いぶかしがりながら干潟へと歩を進めます。

ラムサール条約に登録されているので本来生きものの採取は禁止されていますが、このイベントは“学び”の目的があるため、特別な許可を得て生き物を採取しています。

干潟にたどり着いて、早速スコップを使って探索開始。干潟の表面にポツポツと穴があるので、そこを目印に掘っていきます。一番の目当ては穴を掘って海底で暮らすという甲殻類「アナジャコ」でした。逃げ足が早いのでスコップで一気に深く掘るのがキーポイントになります。さて、何が採れるのか?

潮干狩りの要領で掘った箇所をかき分けて生き物を探す。掘ったあとは必ず泥を元にもどす。

響hibi-kiチームはシジミやソトオリガイなどの貝類やゴカイが採れました。アナジャコは掘っても掘っても見つかりません。と、他のチームから歓声が上がりました。どうやらアナジャコゲットのようです。……なんでしょうこの悔しさ。照りつける直射日光を浴びながら、アナジャコを探し求めましたが、結局採取できませんでした。

各チームが採取した生き物をみんなで観察。
アナジャコはこれ!

干潟に来て森を思う

藤前干潟活動センターにもどって、採取した干潟の生き物たちをじっくり観察しました。

私たちが捕まえた貝やゴカイ以外にも、エビやカニ、ヤドカリが採取されていました。

講師の先生に麻酔をかけてもらってそれぞれの生き物の形を細部まで観察します。例えば、エビやカニは脚が10本あることから、分類学上は同じ「十脚甲殻類」の仲間ということになるのですが(ちなみにエビが進化したものがカニらしい!)、ヤドカリの脚もよーく観察すると10本あることがわかり、エビやカニの仲間ということがわかってきます。「そもそも分類する意味ってあるのかな?」と素朴な疑問も抱いたのですが、独立しているように見えてもなんだかんだ影響し合って生きてきた事実は面白いよなあとしみじみ思うのでした。

それに、形から種を分類するというのは樹木でも同じことです。樹木の種類を見分けるときも、葉っぱの輪郭や周りのギザギザ、葉脈、葉の生え方などの形がポイントになります。

センターには干潟に関する掲示物がたくさん飾られていたのですが、やはり目に留まったのは森に関する情報です。例えばこんなことが書いてありました。森で降った雨が土に吸収され、地中の養分を含んだ水は時間をかけて再び地上にしみ出し、川となり海へと流れていきます。水の中に含まれている養分は干潟のプランクトンのエサとなり、そのプランクトンは他の生きもののエサとなっていきます。こうして食物連鎖を重ねた先で、私たち人間が魚を食べることができています。「森は海の恋人」とはよく言われますが、干潟はまさに森と海をつなぐ結び目のような場所なのです。

森と海はつながっている。頭ではわかっていたことですが、裸足で干潟を踏みしめ、そこに住む生き物に触れて、ようやく納得できた気がします。そして、藤前干潟に注ぎ込む庄内川の源流域は岐阜県恵那市の「夕立山」。自分が行ったことのある場所なので、この現実は何にも代えがたい説得力がありました。日頃から森や自然に関する情報に触れている私たちですら、やはり生の体験がないと本当に理解することはできません。私も家に引きこもっているばかりじゃなく、海や川や空、いろんな自然に触れに行きたいなーと思いました。ただ、暑いのはしんどすぎたので、夏はやっぱり日陰のある森がいいや、とも思ったのでした。

●藤前干潟HP
http://chubu.env.go.jp/wildlife/fujimae/index.html

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。