ひビキのヒび
# 1
はじめまして、
hibi-ki編集部です
2019.12.26
見えない森の存在に気づくためのメディア「響 hibi-ki」が始動しました。暮らしから遠く離れてしまった森とのつながりを再確認するため、「日々、木のこと」を発信していきます。この連載では、制作の裏側や取材時の裏話など、編集部の日常をあれこれと綴っていきます。今回は初取材の様子をお届けします!
写真:西山 勲、編集部/文:田中菜月

森での撮影の日々がスタート
新鮮な出会いを重ねた3日間

こんにちは、「響 hibi-ki編集部」の田中です。普段は企画から取材調整、インタビュー、執筆などhibi-ki全体の制作を担当しています。何となく面白そうだなと思って、4年ほど前に林業や森林文化を学ぶ専修学校に通ってからというもの、奥深い林業のラビリンスにはまり込んで、森をもっと知りたいと思うようになり、今に至る、という感じです。取材先では、個人的趣味で見てみたかったもの、聞いてみたかったことを、仕事という名目で(笑)体験できたことは本当にラッキーでした。そんな私目線での取材日記をここに書き留めてみたいと思います。

本格的な冬の気配が漂う11月下旬。私は松本に向かって車を走らせていました。飛騨高山からのルートでは、標高1790メートルの安房峠を越えないといけません。細く曲がりくねった道は曲者で、うっかりハンドル操作を間違えば谷底へ落ちてしまいそうなワインディングロードです。途中で上高地を通り過ぎ、2時間近く運転した頃、松本の市街地にようやく到着しました。こうしてはじまった、長野の松本から岐阜の飛騨高山にかけて、3日間にわたる取材の旅。森で働く人々やジビエなどの山の幸、飛騨の職人たちによって生み出された民藝など、取材内容は盛りだくさんです。

私たちのミッションは、インタビューを中心に、出会った人や風景の写真・動画撮影、「森の音」の採集など、色んな視点で森の魅力をかき集めること。取材チーム4人で協力して取材を進めました。

動画撮影の一コマ。常にアンテナを張って、これはいいぞ…!と思う映像や音を集めてきました。

松本の林業会社さんの牧場を訪れました。そこで印象深い出来事がありました。馬搬のトレーニングを眺めながら、社長さんに色々と話を伺っていたときのこと。

突然私の視界に飛び込んできたのは、暴れ狂うようにこちらに向かって突進してくるポニー……!あんなかわいい小さなポニーの全力疾走を私は初めて見ました。直前で方向転換してくれたので良かったものの、仕事を忘れ、その場で固まってしまうくらい。どうやらポニーは、自分もトレーニングしたいと興奮していたようです。めちゃくちゃ楽しそうに走り回る姿も微笑ましいものでした。ポニー、かわいいやつです。

馬搬のトレーニング中。馬がタイヤに乗るトレーナーを引く。
ポニー(子馬)と少年。小学校を辞めた、と焚き火を手伝うこの謎の少年も、かなり気になる存在。

そんな動物との出会いから一転。飛騨市にある山之村地区では、青年とおばあちゃんたちの温かいもてなしに心打たれました。

90歳のツヤ子おばあちゃん。氷点下近い気温の中、せっせと栃の実を洗います。

目的のわらび粉生産は時期が過ぎていたため、話だけでもと栃の実の加工場での取材に。集落支援員の前原さんとおばあちゃんたちが作業するなか、山之村のわらび粉について話を聞きました。

驚くべきはその元気さ。若い人でもバテてしまうだろうなという上げ下ろしの作業を、黙々とこなしていきます。取材中、自分たちの背中がスッと伸びる気持ちがしたのでした。

こんな大切な時間を見ることができるのが、取材班の一番の特権かもしれません。

取材が一段落した頃。休憩でも、と部屋の奥から出てきたのは「とち餅のぜんざい」でした。心の中で大歓声。もちの中に入った栃の実の渋みと、ぜんざいの甘みが絶妙にマッチした味わい。またしても仕事を忘れ、そのおいしさに浸ってしまいました……。

とち餅のぜんざい。この地域の家庭ではよく作られる。

栃の実がよく採れるこの地域では、冬における大切な収入源になるのだとか。飛騨では栃の実せんべいなどのお菓子が土産物としても有名です。森林組合を通じて和菓子屋などに実を販売していると言います。

昼ごはんの鍋。「野菜はもらいものがほとんど」と前原さん。

そのあと、前原さんがお昼ごはんの鍋も振る舞ってくれました。「冬になるとこのあたりは店が閉まるから」と、気を利かせてくれたのでした。いかんせん、市街地まで片道約1時間はかかってしまう僻地なのです。帰り際には大根のお土産もたんまりと。そんなこんなで、食べてばかりのような気もしないでもない取材チーム一行。身も心もホクホクになって山を下りたのでした。

登った先に見えたのは
白銀の世界と働く人々

飛騨市の山奥にある林業現場へ向かう道中では、雪に遭遇。林道を登るにつれて景色がどんどん白くなっていき、到着するころにはあたり一面が白銀の世界に。標高は1000メートル近い場所。そりゃあ11月でも雪が積もるわけです。とても寒いですが凜とした空気に「冬が来た」と心が躍ります。

現場リーダーに取材中。熱いトークのおかげで寒さも忘れてしまいました。

今シーズン初の雪との邂逅に興奮を覚えつつ、それよりも衝撃だったのは、この積雪の中で機械を動かし、丸太を運び出す林業従事者の働く姿でした。こんな寒い中、ずっと外で作業しているなんて……。

雪が積もっていようがなんのその、いいカットを常に狙うカメラマン。

それに、取材クルーの大半は初の林業現場。すべての光景が新鮮でした。巨大な林業機械から張り巡らされたワイヤーを動かし、人よりもはるかに大きい木を運び出す。子どもたちが見たら憧れちゃうだろうなあと思うほどかっこいい現場でした。もっと身近で働く姿が見られる存在だったらいいのに、なんて身勝手なことを思ってしまいます。

木材の生産現場は、私たちの生活圏から遠い場所にあることが多いです。ましてや山の中。街中で暮らしていたら縁のない光景でしょう。

取材を通じて現場の方のリアルな声も聞いて、なるほど、そんなことを思いながら働いているのだなあと、この世界の輪郭が少しずつ鮮明になってきた気がします。ぼやけた視界の解像度がちょっと上がったような、そんな感覚です。

どんな声が聞けたのか、それぞれの取材内容については、他の連載で詳しくお伝えしていきます。更新までしばしお待ちください。

3日間は、どの取材先も新たな発見や驚きの連続でした。きっと世間のほとんどの人が足を踏み入れたことのない、未知の世界だと感じています。そして森を通じた人との出会い。今後大切に伝えていこうと決意した次第です。想像以上に多様な暮らし方・生き方が森にはありそうです。自分たちもまだまだ知らないことばかりだし、もっともっと知りたいなと感じる機会になりました。次の取材先ではどんな出会いが待っているのでしょうか。お楽しみに!

田中 菜月 (たなか・なつき)
取材・記事執筆担当。印刷会社で働いていた数年前、ふと森に関わる仕事がしたいと思い立ち林業の学校へ。それ以来どっぷり森の沼にハマる。もう抜け出せない。伐木作業者特別教育修了/狩猟免許の更新忘れた…/休日はアイドル、キャンプ、純喫茶巡り、読書。
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