hibi-ki Hiker’s club
# 21
カオスな香港で
山を歩いてみた
2026.10.5

山を、森を、ひたすら歩き続けたい。ただの山道じゃない、自然と融和できるような、そんな“トレイル”が世界各地にはあります。土地の成り立ちも、気候条件も、人の生活文化も異なれば、そこに立ち表れる自然の姿は多様です。

世界各地のトレイルを走破している元地理教師でハイカーの玉置哲広さんを案内人に迎え、森の世界旅行へ一緒に出かけてみましょう。今回は、一風変わった香港のトレイル旅をお届けします。

写真・文:玉置 哲広

エネルギー渦巻く
観光拠点でハイキング

香港と言えば、手近な外国の観光地であると同時に、混沌と猥雑が入り混じったカオスのイメージがあるかもしれません。バックパッカーのバイブルと言われた沢木耕太郎著『深夜特急』に描かれた時代は、まさにそんな感じで、チョンキンマンションなる安宿ビルの描写では、当時の魔窟的雰囲気を魅力的に感じたものです。

その後の中国への返還を経て、近年は中国の影響力が強くなりました。むしろ中国の各都市の方が、巨大ビルが林立して、香港も顔負けの感じです。それでもまだまだ訪れやすく、エネルギー渦巻く観光拠点ではありますね。

そんな香港にハイキングに行くと言うのは、かなりのモノズキ行為かもですが、山があれば歩いてみたい性分なので、『香港低山散歩』と言う本を手に入れ、歩いてみたときのことを書いてみます。

山頂で遭遇した
怪しい声

早速、現在もあるウワサのチョンキンマンションに泊まってみましたが、「安いけど火事になったら助からんな」という感じだったので、2泊目からは、香港島のもう少しましなホテルに移り、それからハイキングを開始しました。

まずは香港最高峰、「大帽山」(タイモウシャン)を目指します。

香港地下鉄MTRの終点「荃湾」(ツェンワン)駅まで行き、バスに乗り換えるのですが、さすがカオスな香港、目的のバス停がなかなか見つかりません。英語で尋ねてもなかなか要領を得ず、 1時間ぐらい彷徨ってやっとたどり着きました。バスでは「郊野公園」という場所を見逃さないよう緊張して乗っていました。

「麥理浩徑」(マクリホース トレイル)の道標。
「麥理浩徑」(マクリホース トレイル)の道標。

「マクリホーストレイル」の道標に従って歩き始めます。するとまず現れたのが、大きな石造りのお墓でした。沖縄で見た亀甲墓にそっくりで、共通の文化があるのかもしれません。

亀甲墓。
亀甲墓。

さらにビジターセンターも現れて、自然歩きも盛んなんだなと意外に思いました。そこからやっと山道らしくなり、ついに香港の森歩きが始まりました。しかし、オリーブのような、耐乾性ありそうな木が生えてはいるものの、森というには木が少ない感じです。そのうち、岩と草の世界になり、視界が開けると早くも電波施設がある大帽山頂が見えてきました。同時に展望も開けて、高層ビルが立ち並ぶ街も見えます。

香港らしい眺めが見えてきた。
香港らしい眺めが見えてきた。

尾根の反対側には深圳の街も見えて、もうそこは中国本国です。トレイルは車道と並行するようになり、ということはそこまで車でも来られるというわけで、どうりで人がけっこういました。まもなく駐車場があって車はそこまでとなりましたが、結局あとは通行止めの車道を歩いて頂上へ行く感じです。

山頂が見える駐車場に出た。
山頂が見える駐車場に出た。

これでは「ハイキングとしてあまりにもつまらん!」と思いましたが、そもそも香港まで来てハイキングする方がアホなのかもしれません。でも、よく見たら車道を通らず頂上へ草原の中を直上する細道が見えます。侵入することにしました。

草原は大半がススキで、そんな急坂をえっちらおっちら登っていると、何やら怪しい声がします。何だと思ったら牛でした!

野良牛現る。
野良牛現る。

しかし、何でこんな所に牛がいるのだろう?香港に牧畜業のイメージはありません。あとから調べたら、かつては農家で飼われていたのが、都市化で飼われなくなり野生化したのだとか。つまり、野生動物で野良牛というわけです。思わぬところで自然?と出会いました。

そして頂上へ抜けましたが、電波施設がぐるりとフェンスに囲まれて建っていて、なんだかパッとしない最高峰なのでありました。

フェンスに囲まれた大帽山の頂上部。
フェンスに囲まれた大帽山の頂上部。

香港の象徴的な山
ライオンロックへ

せっかくなので、翌日もうひとピーク、「ライオンロック」(獅子山)を目指しました。かつて啓徳空港(過密な街中にあり世界一デンジャラスな空港といわれた)が玄関口だった時代に、ライオンのような岩がよく見えて香港の象徴的な山だったそうです。

さて、MTRの駅「黄大仙」(ウォンタイシン)で降りると、ここは有名なお寺らしく、線香を持った人々の大群が行き交っています。あれれと思う間にその群れに流されて、お寺に導かれてしまい、結局私もお参りして、それから山へと向かいました。

黄大仙から見えるライオンロック。
黄大仙から見えるライオンロック。

でも、ビルの谷間からライオンロックが見えるのに、なかなか登山道らしき入口にたどり着きません。何やら至る所が工事中です。工事のおじさんに尋ねても、「癇嗹虆勜鵝!」みたいな謎の文字化け的言葉(に思えた)で「?」です。結局この日もトレイルにたどり着くのに1時間程さまよいました。

やっとトレイルに入ると、整備された道で、ハイカーもけっこういて順調に歩けましたが、突然怪しい雰囲気が!すると現れたのは猿の軍団でした。大都会の中でまたしても野生動物です。猿を刺激せぬようやり過ごしましたが、前日の牛といい、意外すぎます。

サルが現れた。
サルが現れた。

岩場の頂上は眺めがよく、巨大ビルが林立する市街を見下ろせますが、ピークの標高が500mほどなので、背の高い巨大ビル群のてっぺんはすぐ近くに見えます。

巨大ビルが林立。
巨大ビルが林立。

これだけのコンクリを一体どこから持ってきたんだろうと思いました。香港の山には森らしい森はありませんが、代わりに摩天楼の森を展望することができたのでした。

ライオンロック頂上から眺め。
ライオンロック頂上から眺め。
玉置 哲広 (たまき・てつひろ)
広島県出身でカープファン。大学時代に登山を始め、板橋勤労者山岳会に所属して、広く内外の山に登っている。高校の地理教師をしていた。モノ好きで蒐集癖があり、様々な文化に首を突っ込むが、ヘタの横好き。愛読書は地図帳と山の歌本。