hibi-ki Hiker’s club
# 13
北欧のてっぺんへ
ノルウェーの山旅 vol.3
2023.10.13

山を、森を、ひたすら歩き続けたい。ただの山道じゃない、自然と融和できるような、そんな“トレイル”が世界各地にはあります。土地の成り立ちも、気候条件も、人の生活文化も異なれば、そこに立ち表れる自然の姿は多様です。世界各地のトレイルを走破している元地理教師でハイカーの玉置哲広さんを案内人に迎え、森の世界旅行へ一緒に出かけてみましょう。今回は、北欧・ノルウェーのスカンジナビア山脈を歩く旅の最終編です。

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写真・文:玉置 哲広

ノルウェー最高峰のシャンゼリゼ?

北欧の山旅のお話も3回目。いよいよ最高峰を目指します。前2回で紹介してきたスカンジナビアの山々は、おおらかで広大な大地を旅する感じでしたが、旅の最後に控えるノルウェー最高峰のガルホピッゲン(Galdhopiggen)2470mは、標高差1400mをしっかり歩く、日本の山のような急斜面の山登りです。

ガルホピッゲンの山容。

最高にラッキーなことに、入山期間中一番の快晴になりました。シュピターシュトゥレンの山小屋から、しばらくは森の中ですが、最初から氷河が作ったU字谷の谷壁の登りなので、なかなか息が切れます。それでも、じりじりと標高を上げると、森林限界を越えて展望が開けて、これまで見えなかった雪と氷の山々や氷河がいくつか見えてきました。北側は大きく切れ落ちて、カールには広大な氷河が広がっています。

別ルートを登る、アリの行列のような人々。
トナカイの群れ。

白い氷原を見渡すと、氷河を横断する別ルートから登って来る人たちがアリンコのように見えました。トナカイの群れも見えます。遠景には、スカンジナビア山地特有の高さが平らに揃った山嶺が360度に広がります。絶好の天気で、多くの人達がアタックをかけて来ているようで、私と同じルートも次から次へと人々がやってきては追い抜いていきます。

山頂へ向かう人々

相変わらず、ノルウェー人らしき巨人が多い感じで一歩一歩がとにかくでかい。彼らにはとてもかなわんなあ、という感じです。日本で富士山に老若男女が押しかけるのと同じように、やっぱりノルウェー人にとっても、最高峰というのは魅力なんでしょう、これまでの日々とは全く違う人の多さでした。

山頂の人々と小屋。

そして、5時間程かけて快晴のガルホピッゲン山頂に至りました。さすがに、最高峰山頂は大賑わいです。なんと売店小屋まであり、コーヒーまで飲めてしまうのでした。「シャンゼリゼで飲むより高いぜ!」と話す山旅の途中で知りあったフランス人も私も結局飲んじゃいました。

巨岩を登った先にあるもの

さて、5泊を費やしてのノルウェーの山旅、天候に恵まれ実に大満足でありましたが、ひとつだけ心にひっかかっていたのが、「ノルウェーに来たのだから、フィヨルドを登って、上から眺めたい!」という事。ヨーテュンヘイメンの山歩きで、すでにフィヨルドっぽい湖を見渡せたのだから、贅沢言ってんじゃねえって感じですが、山の中なのでフィヨルドではありません。

とりあえず、一旦オスロに戻って疲れをとった後、列車の旅でベルゲンへ向かいました。途中フロム鉄道に乗り換えてフィヨルド壁を下り、さらに船に乗り換え、ソグネフィヨルドをたどる船旅をはさむので、豪壮なフィヨルドの光景を楽しむ事はできました。でも、これはノルウェー観光のゴールデンコースで、多くの観光客と乗物から眺めるだけなので、なんか充実感がイマイチです。ベルゲンの町で、カラフルな木造住宅立ち並ぶ世界遺産のブリッゲン地区をそぞろ歩いたあと、船でノルウェー南部の都市スタバンゲルへ向かいました。

スタバンゲルの近くに、プレーケストーンと呼ばれる有名なスポットがあるのですが、約2時間の山登りをしてフィヨルドの上に立てる所なのです。プレーケストーンとは、キリスト教で牧師が説教する時に立つ説教壇の事だそうで、広大なフィヨルドを見下ろす場所に四角い岩場があり、そこにハイカー達が休んでいる写真がよく紹介されていました。それは、一目で行ってみたいと思わせる雄大な光景で、ぜひ登りたいと思っていたのです。

スタバンゲルからさらに船とバスを乗り継いで登山口へ。有名な場所なのにケーブルカーもロープウェーも作らず、山登りして行くしかないという状況にしてあるのは、さすがノルウェーのえらいところです。ここの登山道はけっこう変化に富んでいました。まずは森の中をしばらく上がっていきます。やがて、展望のきく岩場になり、さらに登るとちょっとした湿原に出ました。そこからは、巨岩累々とした疎林状態となり、最後に海が見えてきました。リーセフィヨルドです。短いながらも、楽しく登れるルートで、続々と多くの人達も登って行きます。そうして巨岩プレーケストーンに行きつきました。

フィヨルドから立ち上がる絶壁

見下ろす海は湖ではなく正真正銘のフィヨルド。海から1000mくらいは立ち上がっている感じの絶壁の、巨岩上面が広々とした岩畳になっています。ひゃあ、これが説教壇!多くの人々が岩の上で休んでいますが、その端に行って海を覗き込むというのは、お尻ムズムズ、相当怖いものがあります。立っていくのはメチャクチャ恐怖なので、這って行って覗き込みましたが、ものすごい高度感です。

プレーケストーンとリーセフィヨルド

ほとんどのハイカーはここで満足して引き返すようですが、私はさらにその背後に登って行き、ストーンを見下ろせる場所まで行ってみました。その先は誰も人がいなかったけど、このルートの頂上と思われる場所までも登ってフィヨルド上の山を満喫したのでした。

頂上付近からリーセフィヨルド

ノルウェーの旅は雄大な自然に圧倒されて、大感動の連続でした。そういえば、いっぱい自然の中を歩きましたが、「ノルウェーの森」って感じの所には行ってないかも。

●シュピターシュトゥレンからガルホピッゲンまでのルート例(片道)
距離:約6km
時間:約5時間
標高:約1000~2400m

●プレーケストーンヒュッテからプレーケストーンまでのルート例(片道)
距離:約4km
時間:約2時間
標高:約300~600m

●プレーケストーンヒュッテ(登山口)へのアクセス例
オスロ
↓ 鉄道or飛行機or船
スタバンゲル
↓ 船
タウ
↓ バス
プレーケストーンヒュッテ

玉置 哲広 (たまき・てつひろ)
広島県出身でカープファン。大学時代に登山を始め、板橋勤労者山岳会に所属して、広く内外の山に登っている。高校の地理教師をしていた。モノ好きで蒐集癖があり、様々な文化に首を突っ込むが、ヘタの横好き。愛読書は地図帳と山の歌本。