hibi-ki Hiker’s club
# 2
自粛明けの
都民の森に行ってみた
2020.8.8

山を、森を、ひたすら歩き続けたい。ただの山道じゃない、自然と融和できるような、そんな“トレイル”が世界各地にはあります。土地の成り立ちも、気候条件も、人の生活文化も異なれば、そこに立ち表れる自然の姿は多様です。世界各地のトレイルを走破している元地理教師でハイカーの玉置哲広さんを案内人に迎え、森の世界旅行へ一緒に出かけてみましょう。今回はコロナ禍の状況もあり、近場である「都民の森」(東京都檜原村)を訪れた様子をレポートしてもらいました。

写真・文:玉置 哲広

世界を旅するハイカー
東京の山へ行く

世界の人が思いもしなかったこの度のコロナ禍です。私は東京都に住んでいるので、山岳団体の自粛勧告が出されていた緊急事態宣言中は、県境移動を我慢して、町田市のフットパスなどを歩いておりました。東京都は人口がバカでかいのに面積は狭いので、都府県内幽閉状態におかれたら、はなはだ形勢不利、ロビンソン・クルーソーのように与えられた範囲の中でできることを探すしかありません。

しかし、細長い魚のような形の東京都、その魚の頭部分は、奥多摩と呼ばれる山岳地帯なのです。このあたり、明治の中期までは神奈川県だったそうで、よくぞ東京都であってくれたぞという感じです。宣言解除後、すぐの越境は遠慮して、妻と奥多摩に向かいました。夏の奥多摩は、暑苦しいイメージがあるのですが、明るかった記憶がある三頭山(みとうさん)を選びました。

ちょうど都知事選挙の真っ最中で、宣言中に都境や都民であることを意識させられたこともあり、「都民の森」を歩いて回るルートを選びました。都民の森は他県にもあるような“県民の森”と一緒で、ファミリーでも森と親しむ体験ができる場所らしいので、気軽に歩くのにぴったりです。森林館なる施設では、ミニ木工体験でキーホルダーが作ることができるらしく、妻も期待していました。

車で武蔵五日市を過ぎると、島嶼部(とうしょぶ)を除く東京都で唯一の村、檜原村です。景色は山村の雰囲気に変わり、秋川源流の深い谷あい斜面に民家と農地が点在しています。人里(へんぼり)、笛吹(うずしき)などの土俗的地名の集落の響きがいい感じです。昔から林業中心の場所なので、針葉樹林が多く見られます。暑苦しいイメージを持ったのは、このようなスギなどの森が多いからなのですが、生活のための産業林とは、こういうものです。

立派なブナの木が迎えてくれます。

“都民の森”を歩く
ブナの道は気持ちがいい

かなり標高の高いところまで上がって都民の森に着きました。たくさんのトレックコースの中で、メインの「ブナの路」を歩きます。三頭山は、ブナの山として知られていますが、本州の雪国に多いブナの森、はたして東京の山でどの程度のものか観察しようと思いました。

樹木の見分け方って難しいので詳しくない私ですが、ブナならわかります。今までブナ林を歩いた時、実に気持ちがよかったからです。白っぽい木肌で、苔などがついてヤマメのようなパーマーク模様になっている事が多く、葉はthis is 葉っぱという形。新緑から夏の緑、黄葉もきれいで、雪のブナ森をスキーで辿るのも最高なのです。

最初はスギ林でしたが、すぐに稜線部の鞘口峠(さいぐちとうげ)に出て見上げると、緑の葉っぱの広葉樹も多くなり、梅雨の晴れ間の日差しに緑が煌めいています。ひぐらしの声とピーチクパーチク小鳥のさえずりが賑やかで、「都民の森なかなかいいぞ」という感じです。妻が「あそこ!」と鳥を見つけて指さしますが、すぐにどこかへ飛んで行き「ココヨー、ココヨー」と言います。

ブナは少しずつ目につくようになり、頂上近くでは、ちょっとした大木も目立つようになりました。最初、ショボイんじゃないかと見くびっていたのですが、立派なブナ森です。よくブナの幹に耳をあてて水の流れる音を聞くシーンを番組などで見かけるのですが、私は耳をあてても聞こえた事はありません。ですが、ブナは水をたっぷり含んだ木なので、水の豊かな山の象徴でもあります。ここらは都の水源涵養の森なのでもありました。

今だからこそ、機転をきかせ
自分だけのトレイルをゆくのです

ところで、今は山でもマスクが推奨されています。でも、それでは息苦しくなります。なので、道の先に人の姿が見えたら、その時だけネックゲイターかアゴのマスクを引き上げるという具合に、多くの人達もそうやっていました。たまたまあった野鳥観察小屋では、さえずっていたのは小鳥じゃなくて昼食中のオバチャンたちだったので、三密を避けて近づきません。

マカロン岩を発見。

山頂を回って戻ったあと、豊かな水のもうひとつの象徴、「三頭大滝」を見に行きました。ここへは都民の森で最もポピュラーな「大滝の路」があり、森林セラピーロードとも書かれています。なるほど、ウッドチップが敷かれたバリアフリーの広い道で、かぐわしい木の香りが漂っているので、「よくわからんけど、森林セラピーなんだー」と思いました。

都民の森をじっくり回れば、30mのモミの大木や、炭焼窯もあり、自然や森の仕事が学べるようにできている充実した場所だなという感じです。でも、妻が楽しみにしていた、ミニ木工体験の方は、コロナ対策のため休止中とか。残念デシタ。

●トレイルルート
距離:約6km
時間:約3~4時間
標高:1,000m~1,500m(ブナの路コース)

●都民の森へのアクセス例
新宿
↓ JR中央線30分
立川
↓ JR青梅線15分
拝島
↓ JR五日市線20分
武蔵五日市
↓ 西東京バス1時間
数馬
↓ 連絡バス15分
都民の森

玉置 哲広 (たまき・てつひろ)
広島県出身でカープファン。大学時代に登山を始め、板橋勤労者山岳会に所属して、広く内外の山に登っている。高校の地理教師をしていた。モノ好きで蒐集癖があり、様々な文化に首を突っ込むが、ヘタの横好き。愛読書は地図帳と山の歌本。