hibi-ki的 がんばらなくていい移住 # 4
Special Issue 2
クラブ活動的
林業のすすめ
2021.8.23
群馬県最北部、首都圏の水源である利根川の源流地にあたるみなかみ町。谷川岳や大水上山などの約2,000m級の山々に囲まれた地に、人口約1万8,000人が暮らしています。温泉やアウトドアスポーツの拠点が充実した観光地であり、ユネスコエコパーク・SDGs未来都市に選定されるなど多彩な面を持った地域です。近年、ライトな形で林業に携わる移住者が増えているというその現況を探るべく、3日間におよぶ濃密な取材を敢行しました。

みなかみ町を取材することになったきっかけの一つが、町内で稼働しているという9つの自伐型林業チーム(以下自伐チーム)の存在でした。一つの地域の中で、多数のグループが同時多発的に林業を進めているのは珍しいと感じ、その活動現場を見学させてもらうことにしました。9つあるチームの中から、若い移住者が多く所属しているという自伐チーム〈木木木林(きききりん)〉を訪れ、どんな人たちが、どのように活動しているのか、そのリアルな姿や声を集めてきました。

写真:西山 勲、取材先/文:田中 菜月

介護士、公務員、エンジニア
異業種が集う週末林業

自伐型林業チーム・木木木林
(一番手前から時計まわり)
本多 孝志さん
石飛 誠さん
村山 英樹さん
本多 康臣さん
長壁 総一郎さん
田宮 幸子さん

現在、10人が所属する木木木林には、介護士や役場職員、エンジニア、コンサルタントなどさまざまな本業を持ったメンバーが在籍しています。10人中6人が移住者で、さらにそのうちの2人が女性と、参加者も次第に増えてきました。天気のいい週末になると、その日参加できる人が集まり、間伐作業や竹の伐採などの活動を行っています。

チームの代表を務める本多孝志さん。

チームとしての活動がはじまったのは2019年のことでした。みなかみ町で自伐型林業(※)を先駆的にはじめた役場職員の大川さんと同級生だった本多孝志さんが当時を振り返ります。

※自伐型林業では、森林経営計画を自ら行い、長い目で見て森林を管理し、持続可能な形で収入を得ていく、自立型の林業を目指す。

「彼と一緒に飲んだときに『お前も自伐型林業をやってみないか?』って声をかけてもらったんです。地元に住んでるなら何か貢献できることをした方がいいなと思ってはじめることにしました」

幹にロープをくくりつけて重機で引っ張り出している様子。伐採した木を造材(丸太を必要な長さに切って材木にする)しやすいように開けた場所に移動中。

立ち上げ時のメンバーは孝志さん・康臣さん・村山さんの、みなかみ町で生まれ育った地元組でした。「田舎に住んでいれば山に携わることなんていくらでもあるんですけど、山を管理したり手入れしようとはそれまで考えたこともなかったです」と話す孝志さんですが、町が主催する自伐型林業の技術研修に参加後、3人それぞれの持ち山を拠点にして週末林業をはじめました。実践してみると、思わぬ変化があったと言います。

「普段の仕事は精神力をすごく使うけど、林業は楽しいが上まわるので息抜きになりますね。やって良かったなって思います」と話すのは、本業が介護士の孝志さん。村山さんも頷きながら自身の発見を話してくれました。

村山さんは孝志さんの職場の上司でもある。

「木木木林は部活っぽいのかな。自然を守っていくことにもなるし、自分の身体も使うし、人との交流も増えるし、色んな側面があります。趣味って色々あると思うんですけど、木木木林の場合はカミさん公認の趣味みたいな感じなんですよ。バイクとか釣りだと気を遣うけど、木木木林に関しては何にも言われないから気兼ねなく参加できる。こんなありがたいことはないです」

普段はみなかみ町役場に勤める康臣さん。書類の申請や手続きなどの事務作業も得意とする、チームに欠かせない存在。

同じく康臣さんも体力づくりを挙げてくれました。「めちゃくちゃ身体が鍛えられて、肉体改造できましたね。それと、ビジネスが大好きなので、林業をビジネスにしている人たちの活動が目に入るようになってきました」と、意識の変化も実感しているようです。

取材日の活動場所は孝志さんの家の裏山。

補い、刺激し合う
地元組と移住者

今回の取材時に参加していた移住者メンバーは3人。それぞれに移住や参加の経緯を聞かせてもらいました。

千葉県から家族で引っ越してきた石飛さんは、移住してきて7年目。「宿泊業をやろうってことでみなかみ町へ来たんですけど、2年半で辞めたんですね。それで千葉へ戻ろうかって話になったんですけど、子どもたちがみなかみ町を気に入っちゃって、家族全員『ここにいよう』ってことになり、それからずっと住んでます」

子ども同士が同級生だったことから、孝志さんや村山さんとはもともと知り合いでした。石飛さんがかつて造園業をやっていたと知った孝志さんが「石飛さんなら林業できるんじゃね?」と電話で誘ったところ、二つ返事で加入が決まったと言います。

「子どもの親同士でのつながりはあったけど、それ以外が薄かったので、木木木林に参加して地域のつながりが増えたのは大きかったですね。3人が自伐型林業の研修を受ける1年前に自分も研修を受けてたんですけど、自分だけではじめようと思ってもなかなかスタートできるタイミングときっかけがないんですよね。道具もそうですし、自分の山も持ってないし。本多さんたちに誘ってもらって、そこからガラッと状況が変わりました」

そう話す石飛さんがチェーンソーで木を伐る姿は誰よりもベテラン技術者に見えるのでした。

2020年の春に移住してきた長壁さんは、アロマオイルづくりがしたいとみなかみ町へやってきました。アロマの原料となる木材を調達できる方法はないかと役場の人に相談したところ、紹介してもらったのが同じく役場の職員であり木木木林メンバーである康臣さんでした。そこからスムーズに話が進み、活動に加わるようになります。

「山の資源をもらって仕事をしているので、山を知りたいという思いもあって木木木林で活動することになりました。アロマオイルの仕事は全部自宅でできるので、木木木林に入ったことで普段は関わる機会のない人、職種の違う人と話ができるコミュニティ的なところがありがたいです」

昨年は町が開く自伐型林業研修に参加できなかったため、今年こそは参加してさらにノウハウを身につけたいと意気込みます。

●アロマオイル生産の取材記事はこちら

ITエンジニアとして働く田宮さんは、3~4年ほど前からテレワーク勤務となり、家を持たないアドレスホッパーなスタイルで生活してきたと言います。そんな中、コロナの影響で海外へ行けなくなり、国内を転々とするうちに移住を考えるようになったそうです。各地を回る中で住民の人柄とオープンな地域性に惹かれて、2020年12月にみなかみ町へ引っ越してきました。

「土地を買って自分で開拓してみたくて、木も伐れるようになりたいと思い、木木木林に参加しました。普段はデスクワークなので、動きまわって体力を使うのは結構楽しいです。チェーンソーを使うのが特に楽しいですね」と話す田宮さんに、メンバーから「まだ木を倒したことないもんね?倒そう。倒そう」と、伐採の提案が投げかけられる一幕も。

チェーンソーのエンジンをかけるためのスターターロープを引く田宮さん。一気に引き上げる瞬発力を要する。

「チームの皆さんすごいやさしいですし、フラットに接してくださっていい雰囲気をつくってくれてるので、すごく居心地がいいなあと思います」

チェーンソーの練習場兼休憩所。

こうした面々が加わったことで、チーム全体の空気感が変わってきていると村山さんは感じているようです。
「移住者の人ってなんかエネルギーがあるんですよね。地元の人とちょっと違って、一緒にわーってノって動ける感じがあるんですよ。特に長壁さんが入って以降はチームとしての活動が広がり出してると思います。だから、移住者の人のバイタリティのすごさっていうか、それが原動力になって、僕らも引っ張られてるのかなと感じてます」

康臣さんも、「木木木林に入ってきた人には好きに使ってもらいたいですよね。むしろ『関わってもらってありがとうございます』くらいの気持ちです」とウェルカムな姿勢が印象的です。こうして今のチームの形になっていったことが見えてきました。

裏山から見える集落。「『景色がいいですね』って言われると移住してきた人にほめられてる気分になりますね。『でしょ?だよね』みたいな感じでうれしくなります(笑)」と話すのは村山さん。

それぞれが考える
木木木林の今後

スタートから3年経った現在は、地域内でも木木木林の存在が知られるようになり、地元の人から間伐や竹藪の処理など仕事の依頼が増えるようになりました。

整備前の一例。木木木林写真提供
整備後の一例。木木木林写真提供

昨年は、年間で20日前後の実働日数だったと言います。間伐の補助金申請にあたっては、トータルで約4haの管理する山(立ち上げメンバーが所有している山林と管理を任されている山は6:4くらいの割合)を、3年かけてひと通り整備する計画を進めてきました。

林業用ヘルメットの相場は1万円前後、チェーンソーは10万円前後、チェーンソー防護ズボンは2万円前後。林業に必要な道具はなにかと高価。

収入面では、チェーンソーや防護ズボンなどの道具代に収益を還元できるくらいになってきたと言います。加入したメンバーには道具類をすべて現物支給しているそうです。いずれは法人化も視野に入れているという木木木林。最後に、それぞれの今後に関する胸の内を少しだけ聞かせてもらいました。

孝志さん「荒れた山が多いので、それを管理しながら収益にもつなげて、地元に貢献したいですね。ゆくゆくは林業で生活できればいいなって思ってます」

村山さん「退職してもお金になるような仕事ができるのかなって少し思ってるんです。定年になってどうしようってなったときに、『木木木林あるし、自分の老後は安泰なんじゃない?』って若干は思ってます。動けるうちは働けるかなと思っていて、本多くんが法人化してくれれば、パート扱いで使ってもらえたらいいんじゃないかなって考えもありますけど、あとはあんまり考えないようにしてます」

康臣さん「あんまり先のことを考えたことはないかもしれないです。ただ、自分が出資者になって、事業を大きくしていくのはありかもしれない」

長壁さん「法人化の話は結構面白いなと思っていて、このメンバーだったら木材販売の収入以外にも、山っていうフィールドを使ってお金を稼ぐ方法が考えられるんじゃないかなと思います。ITに強い移住者とか、町に根差してる地元の方とかもいて、かなりバランスがいいなと思うので、そういった面を活かして、林業プラスアルファの部分で団体として収益が上がっていくようなものが、最終的に法人化という形になれば一つの自伐型林業のモデルとして面白いなと。そこに対して自分も何かできたらいいなと思ってはいます」

石飛さん「この地域をまるごと楽しんで、地域を活かしていきたい。他にも資源を活かせる方法を、木木木林を通じて探していきたいです。楽しみ尽くしたいという活動のベースに木木木林がなっていくのかなと思います」

田宮さん「今度、湯原地区でゲストハウスの運営をはじめるんですけど、林業自体がコンテンツとして面白いので、ゲストハウスを通じて外から来る人をつなげて体験してもらったらいいかなと。あと、木材を手に入れるって普通に考えると結構大変なんですけど、それが自分で伐って手に入るってすごい楽しい体験だと思うので、そこを収益につなげていけたらいいなって思いますね」

自らの活動の幅を広げたり、そうじゃなかったり、思いはそれぞれに交差する中で、個人としての楽しみも、収益化の活動も、それぞれ並存させながら昇華していけたら、それこそ新たな林業のモデルケースになっていきそうだなと感じました。みなかみ町ならではの自伐型林業ここにあり!

●Information
木木木林(自伐型林業チーム)
群馬県利根郡みなかみ町東峰
kikikirin.forestry@gmail.com
HP https://kikikirin.com/
Instagram https://www.instagram.com/kikikirin_public_relations/

1
みなかみ町ってどんなところ?
3
WOOD JOB!な田舎暮らし
4
林業もこなすアウトドアガイド
5
起業したり、テレワークしたり、温泉入ったり
6
移住者と地元住民のご近所関係
7
編集部の取材レポート
8
移住したらこんな特典が!
田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。
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