Forest Shutter 森の暮らし
# 16
自然と生きものが構成する
景色の美しさを感じて
瀬川然の場合
2024.3.1

森と共に暮らす人々の日常をフィルムカメラで切り取る「Forest Shutter」。連載第16回目は、岩手県西和賀町で暮らし、ネイチャーツアーガイドやカフェの運営を行っている瀬川然さん。雪深い西和賀町で生まれ育った瀬川さんの、家族と過ごす日常と自然、地域への想い。

写真・文:瀬川 然

ずっと西和賀生まれ、西和賀育ち。今は、ネイチャーツアーガイドを本業としながら、妻と一緒に錦秋湖の湖畔で〈ネビラキカフェ〉という小さなカフェを運営している。

西和賀は、とても美しい場所。雪深い地域なので、冬は最大で2、3m近くまで雪が積もる。だから、この時期は毎日除雪作業を欠かさない。朝は4時に起きて雪かきをして、夕方は家の屋根など細かいところの雪をおろす。気づいたら一日中除雪して過ごしているなんてこともよくある。雪かきをしながら外で過ごしていると、晴れ間がのぞくときがあって、「この瞬間のために雪かきをしていた」と思えるくらい、きれいな景色が見られる。

そのうちに子どものときは嫌いだった除雪が、大人になったら好きになった。冬は自然に立ち向かっている感じがして、昔の開拓者たちはこういう感じだったのかなと擬似的な体験もできる。別に自然に立ち向かいたいと思っているわけではないけど、そうした遊びにも似たような感覚がとても好きだ。

季節の移ろい、
その美しさから受け取るもの

写真家をしながら、自然保護活動も行っている父の影響で、幼い頃はよく、両親に町内のいろいろな場所に連れていってもらった。写真家として、それぞれの場所の一番美しい瞬間を知っている父と一緒に行く場所は、どれもとても印象に残っている。特に好きなのは2月後半、堅雪ができる時期の錦秋湖から見る朝日。とても感動的な景色で、僕がここに住み続けている理由のひとつでもある。

ずっとここで暮らしていると、なんでわざわざこの雪深い地域に、縄文時代から人が住んでいたのか、過去について考えることがある。その理由は、この地域に僕よりもっと長く住み続けている地域の人達から話を聞くと、よく見えてくる。

今感じているのは、きっとみんな地縁や血縁だけが理由ではなく、この場所の季節の移ろいやその美しさから受け取るものがあって、ここに住み続けているんだと思う。まだうまく言葉にすることができないけど、ここで暮らす人が感じている西和賀のよさ、住み続ける理由をもっと紐解いていきたい。それを考えながら生活するのが、とても楽しい。

西和賀には森林も多くあって、木や植物の種類が豊富。それだけ豊かな自然には、動物や微生物、昆虫、爬虫類も多くいて、まだまだ知らない生きものがたくさん存在している。僕が美しいと思っているこのまちの景色は、そうした自然や生き物たちによって構成されているので、その一つひとつを理解できるように学んでいきたいと思っている。

きれいなものを当たり前に
きれいと言えるように

家では、妻と3歳の長男、1歳の次男と過ごしている。僕が幼い頃そうされていたように、子どもたちとはよく一緒に外に出て遊ぶ。

今は動画配信サービスなどが充実して、画面一つで楽しむことができるけど、こんなに目の前の自然が日々変化しているのに、その環境や空気を味わえないのはすごくもったいないなと思う。子どもに対してもそうだし、それ以外の人たちにも、自然のそばで暮らす僕たちだからこそ感じる、この美しさや楽しさをもっと伝えていきたいなと思う。

僕はこの土地の美しさを両親の影響もあって、よく理解している。これからは子どもたちにもこの自然のありのままの美しさを感じてもらえるようにしたい。そのためには、きれいなものを当たり前にきれいと言えるような感覚も必要だし、この美しい場所を残し続けていくことが大切。目の前の自然を愛する暮らしを続けながら、それらを実現していきたいなと思っています。

宮本 拓海 (みやもと・たくみ)
1994年生まれ。岩手県奥州市出身。2019年4月から企画・執筆・編集を行うフリーランスとして活動。その他、Next Commons Lab遠野ディレクター、日本仕事百貨ローカルライター、インターネットメディア協会事務局などを務める。将来の夢は、奥田民生のように生きること。