森と共に暮らす人々の日常をフィルムカメラで切り取る「Forest Shutter」。連載第14回目は、岩手県遠野市附馬牛町で暮らし、NPO法人遠野エコネットで働く照井菜々さん。山や森が身近な幼少期を過ごし、今も自然に関わる仕事をする照井さんの想いを聞いた。
遠野 森のがっこうのはじまり
早池峰山の麓、遠野市附馬牛町で、空き家になっていた一軒家を借りて、夫と娘と家族3人で生活をしている。父が代表を務めている「NPO法人遠野エコネット」で仕事をしていて、来年3月に本オープン予定の〈遠野 森のがっこう〉の場づくりを日々行っている。
〈遠野 森のがっこう〉は、「誰もが日常の中で自然と共にある時を過ごせること」を目指している場所。今は本オープンに向けて、田んぼや畑などのフィールドを管理しながら、プレイベントを開催して、訪れてくれた人と一緒に森を歩いたり、川に入ったりしている。
学校のフィールドがあるのは、自分が育った場所で、今も両親が住んでいる実家がある場所。実家は、父が10年近くかけて、セルフビルドして建てた小さな家で、完成したのは、私が小学3年生の頃。それから高校に進学するまで、ずっとそこで生活していた。
実家があるのは、今住んでいる場所と同じ附馬牛町。早池峰山や薬師岳の存在がとても身近で、神楽を小さい頃からやっていたからか、このふたつの山の神様に見守られている感覚を持ちながら過ごしてきた。
実家で生活をしていた頃は、森の中にいる時間が多くて、周りが真っ暗になるまで、妹と裏山で遊んでいた。小学生の頃は、親からテレビや漫画、ゲームが禁止されていたから、友だちがしていても、自分たちは外で遊ぶことがほとんど。その当時は悔しい気持ちもあったが、今となってはそれもよかったなと思う。
お風呂を薪で沸かしたり、トイレがコンポストトイレだったり。実家に住んでいたころは、それが他の人とは違う暮らし方だと知らず、当たり前だと思っていた。
今後、近いうちに自分の家を建てようと思っていて、その家は給湯や暖房を薪ボイラーでまかなう予定。コンポストトイレも導入しようと思っている。やっぱり自分が理想とする暮らしは、子ども時代の経験がベースにあるんだなと改めて思う。いろいろ学んで考えていくうちに、それが理にかなった暮らしだったと思うようになった。
仕事で森に関わることを決めたのは、大学生の頃。教育学部に所属して、当時は教員になることを目指していたけど、学習指導要領に書かれていた「生きる力」を教室の中で、言葉を中心に伝えていくことに違和感を覚えたのがきっかけ。
父の手伝いで、遠野エコネットが開催する子ども向けの自然体験プログラムに関わったときに、大人が言葉で命の大切さや仲間と協力することなどの必要性を伝えなくても、子どもたちが森や山で過ごす中で、自然と、経験としてそれらを学んでいくことができると実感して、子どもたちがその体験ができる環境を用意したいと思い、自然の中での学びと遊びに興味を持つようになった。
山や森に入ることが暮らしとして日常的に行われていた時代は、人と自然が上手に関わっていたんだと思う。でも、今は人の暮らしと自然の距離が離れてしまったように感じる。
自分の暮らしを外部化して、自分でつくることが失われている中で、どうその感覚を取り戻していくか。これからオープンしようとしている〈遠野 森のがっこう〉では、子どもも大人も関係なく、自分たちが豊かに生きていけるように、自然との付き合い方や日々の暮らし方を考え、実践できる場にもしたいと思っている。
そもそもそういう暮らしは、私自身が望むものでもある。まずは自分も田んぼや畑を管理したり、山の資源をうまく暮らしに取り入れたり、森や川での遊びを実践したりしながら、集まる人たちとその体験を共有し、楽しみたい。個人ではなかなかできないことも、自然や他人との関わりの中で、動かしていける場所にできたらと思う。
やっぱり山や森は、子ども時代から過ごしてきた身近な存在で、自分のルーツだと思っている。山や森が身近にある暮らしが原風景になっているからこそ、すごく落ち着くんです。
自然の中に入ることで、今の時代にあるさまざまな困難を解決できる光が見えてくるんじゃないかと思う。まずは、いろんな人が気軽に身近な自然と関わってもらえるようにしていきたいです。