Forest Shutter 森の暮らし
# 9
“山に抱かれる”という感覚を
通じて今思うこと
渡邉桂志の場合
2021.3.19

森と共に暮らす人々の日常をフィルムカメラで切り取る「Forest Shutter」。連載第9回目は、キャンピングカーのリビルドやクルマと自然の楽しみ方を提案するイベントの企画・運営などを行なうON GO Inc.の渡邉桂志さん。昨年から、都市と森を行き来する2拠点生活を始めたそうだ。

写真・文:渡邉 桂志/編集:村松 亮

長年勤めた会社を辞めて、
山に家を持った

コロナ禍真っただ中の2020年11月に約20年勤めた会社の役員及び、自ら立ち上げて12年が経った会社の代表を辞めた。

そして、それとほぼ同時に富士箱根国立公園に含まれる山梨県山中湖村の山の上に、さほど大きくはないけれど快適に過ごすことができる家を購入し、東京と山梨の2拠点生活をスタートさせることになった。僕が自らの生活に変革を起こしたのは、パンデミックによる影響ではなく、今までずっと考えていたことを今回の退職を良いきっかけにして形にしただけのことだった。

自然の中での「遊び」から
「暮らし」へ

そもそもは5年ほど前に家族で四国を巡るロードトリップで訪れた四国、徳島の風土と人の良さに心惹かれ、移住してもいいんじゃないかとまで思ったことがきっかけだった。僕は東京、妻は千葉の出身で地方に田舎を持たないものの、小さい頃からキャンプや川遊びに慣れ親しんでいたこともあって、自然の中で暮らすことにはずっと強い憧れを持っていた。妻とはよく二人でキャンプに出かけ、子どもが出来てからも友人たちとのキャンプが趣味となっていた。

結局、徳島への移住は仕事や子どもの都合で諦めることになったけど、その後はアクティビティとしてのキャンプに加え、まさに暮らすように旅をすることができるキャンピングカーでの旅に興味が湧いて、あちこちに出かけていた。

街で暮らすことと、自然の中で過ごすことでは、流れる時間のペースが格段に違う。街を抜け出して、自然の中に身を置く経験を重ねるほどに「自分には自然の中でのペースがあっているんだな」という思いが強くなっていった。そうして、“自然の中に遊びに行く”から“自然の中で暮らす”という方向にシフトしていったのだ。

移住?別荘?
はたまた多拠点か

その頃から考えていたのは、自然の中で暮らす比重をどこに置くかということ。

移住か、別荘か、多拠点か?
移住であれば東京から離れたどこか遠くへ。
別荘であれば東京から3、4時間圏内。
多拠点であれば東京から2時間圏内。

いろいろなところを見に行って考えている最中にコロナによる変革が起こり、また仕事も変わったため、まずは多拠点生活に踏み出そうと決意。兼ねてから知り合いが住んでいて、よく遊びにきていた山中湖エリアで築40年以上経ってはいるけど、状態が良く、特に大きな改修もなく住み始められる物件を見つけ、すぐに購入した。

海抜1100メートルの高地で山の中腹にあり、土地は斜面ではなくほぼフラットな200坪。家屋は76平米の平屋で大きめのリビングスペースと6畳の和室、ベッドが4台設置されたゲストルームで構成されている。

今は月の3分の1ほどを山の家で過ごす。週末は家族で、平日であれば犬だけを連れて、後から妻と子どもたちが合流することもある。

大きな修繕は要らないと言っても、やはり築年数は経っているので、外壁やデッキの塗装や、キッチンやお風呂など水回りの補修、庭にドッグランを作ったり、デッキを延長させたり…。雪がおさまる春先から順次やりたいことは山積み。

山に抱かれるという感覚を知った

山にいるときは、大抵6時前に起きて犬の散歩がてら、家から歩いて3分ほどの富士山と山中湖を望む場所でその日の富士の様子を伺い、家に戻って各部屋のストーブを点けて家を暖めることから始まる。(石油ストーブを暖炉に変えることもやりたいことの一つ)

ありのままの自然の中で過ごすことで、装飾的、作為的な意識が薄れ、無意識に纏っていた余計なものがなくなっていく。そして結果的に生活のすべてが洗練されていき、心と体が解放されていくのを感じる。山に抱かれる、とはこういうことなのかなと。

ゆくゆくは点在する森をつないでいきたい

2拠点生活の相棒でもある、山用の車としてのジムニー。街の車兼中距離移動用の車中泊仕様のハイエース。長距離ロードトリップ用の会社で保有するキャンピングカーの3台の車を駆使して、さまざまな場所に赴き、仕事をしながら過ごし、また移動する。また、仕事としてキャンピングカーの立ち寄り地としてのマイクロリゾートの開発を最近になって始めた。

ゆくゆくは公私の垣根なく、日本全国の様々な森の中へ分けいって、その中で快適に過ごすことができるソリューションをつくり、国内に点在する素晴らしい森を繋いでいくようなことができれば良いなと思っている。

村松 亮 (むらまつ・りょう)
株式会社シカク/プランナー、プロデューサー、編集者。中央アルプスと南アルプスに挟まれた広大な谷である伊那谷に家族と暮らす自宅をもち、オフィスは東京と2拠点生活を行っている。2020年春、noruプロジェクトをローンチ。移動を題材にしたwebメディア『noru journal』と、ガレージスタジオ「noru studio」(2020年6月OPEN)を運用している。