Forest Shutter 森の暮らし
# 6
ここは街の外れ、山の入り口
MTBライダー 檀拓磨の場合
2020.11.18

森と共に暮らす人々の日常をフィルムカメラで切り取る「Forest Shutter」。連載第6回は長野で暮らす拓磨さん。カリスマMTBライダーの秘密基地は、街でもなく山の中でもなくその中間地点にありました。自然を楽しみ、伝導してきた先に見えた未来とは?

写真:檀 千早/文:檀 拓磨/編集:村松 亮

田舎で暮らしていると、里と山の間には柵で囲われたような隔たりがあるのを感じる。あっちの世界とこっちの世界というような。人は鹿やイノシシを害獣と呼んで、畏敬というよりは畏怖の念、そういった感情を動物たちに抱いている。そうじゃなくて自然と本当に共生した暮らしをしたくて、ボクたち夫婦は16年前に都会から茅野へ移ってきた。それであっちの世界とこっちの世界の架け橋を作ろうと、実際に橋をかけた。街の外れ、山の入り口。ここがボクたちの暮らす場所だ。

この地に暮らすようになって、ボクたちは「クラブ3719」というアウトドアクラブを開いた。マウンテンバイク、ハイキング、釣り、焚き火、山菜狩りなど、自然と向き合いながら、さまざまなアクティビティを楽しむクラブ。たとえば、山にゲストを連れていって拾ってきた木の実でリースを作るとか、山椒の枝をすりこぎにしてゴマをすって香りが立つのを感じたりとか。そんな身の回りにあるものでできる豊かな暮らしを、来てくれる人みんなに提供したいと思っていた。

共存共栄なんてない
森から学んだ自然のリアル

そしてクラブも15年目を迎えたころ、この先は違うフェーズにいくべきだと感じた。それで昨年、ぱたりとクラブを閉めてしまった。

ボクは毎朝マウンテンバイクで森の中を駆けずり回ったり、生活の中で絶えず自然と接していて。森と深くコネクトしていく中で「森って誰にでも紹介できるものではない」という気持ちが強くなっていった。

たとえば、鹿って目がパッチリしていてかわいい顔をしているんだけれど、誰彼かまわず愛想振りまいていたら猟師に打たれちゃうでしょう。脇道それると罠がしかけてあったりさ。鹿も「この世は幸せだ、みんなでシェアだ」ってのほほんと歩いていたら、ガバッと罠にはまってやられちゃう。森の中で共存共栄っていうのはなくて、弱肉強食、食物連鎖、言葉はいろいろあるけれど、人間社会におきかえると競争社会。強いものが生き残っていく。これが自然のリアルだなと。みんなで生き延びるっていう世界じゃないんだと森から学んだんだ。

ボク自身も年齢を重ねて仲間の死を体験したりして、自分に残された時間っていうのをすごく意識するようになったのも大きかった。時間の使い方をもっと納得いくものにしていきたい。だから、「みんなでアウトドア楽しもう」っていう時間はすっぱりやめてしまった。これからは誰にでも開くんじゃなくて、本当に必要としてくれる人に対してボクの16年の知識と経験を惜しむことなくシェアしようと、そういうスタンスになった。

変化のときを迎えて
秘密の小屋から始まる新たなスタート

16年間の中でやりたいことがどんどん淘汰されてきて、今は火に向き合うことに一番興味がある。人間が原始人の頃に、知能を得て社会性を得て、人類になっていく進化の中で、火はとても重要な要素だった。だから、直火でいろんなことをやるのが究極なんじゃないかなって思って。だんだんアウトドア料理にも特化してきて、ずっと外のかまどで料理していたんだけれど、どうしても天候に左右されちゃうんだよね。それで室内で焚き火ができたらいいなと思って、小屋を作ることにした。

あっちの世界とこっちの世界の架け橋として作った橋が朽ちてしまって、それを取り壊したら五角形の空き地ができたから、ここに“ペンタゴン”っていう名前の小屋を建てることに決めた。それからは1年ぐらい仕事もせず小屋作りに没頭した。設計して、デザインして、基礎打って、煙突たてて、屋根をかけて。それがこの春ついに完成した。

ペンタゴンは秘密の小屋。だから誰にでもオープンにするわけじゃなくて、気持ちも人生もシェアできるような、人生死ぬまでつきあうという仲間とか、強く反応してくれる人たちとシェアしていこうと思ってて。そう、ペンタゴンは女人禁制なんだ。だから実は奥さんだって入ったことない(笑)。 夫婦だって、それぞれの世界観に浸れる場所があったほうがいいじゃない。だからここは男の城。

ここで遺言サービスも始めることにした。ペンタゴンの中で語られる遺言を映像として残すシークレットサービス。それから冒険のガイドも始めた。これまでトレイルガイドとかいろんなガイドやってきたけれど、この先は自分の中で違うステージにいきたい。ヘリにのってクマに追いかけられながら魚釣りいこうか、どこかのレースにでてみよう、真冬のアラスカでスキーしよう、みたいな飲みの席で冗談みたいに言う話を実現させる。その手助けをするスーパーガイド。誰かがあれがしたい、これがしたいっていう夢物語のように聞こえる願望に対して、「あなたの夢、全然余裕だよ」って一緒に叶えていく。そういうガイドをやっていこうと決めた。ずっとそこを目指してきたけれど、そこには到達してこなかったから。

ぼくの夢は、少年キャンプから総理大臣を輩出すること
言霊ってあるから

クラブ3719の前から主催している少年キャンプは、これからも変わらずに続けていくつもり。21年間も続けていたら、その卒業生が結婚して子どもがいたりして。この少年キャンプはぼくらが生きた証のようなものだとも感じてるし、ボクら夫婦が死んだあとも引き継いでいってほしいと思う。コロナ禍に反するけど、ずっと濃厚濃密に接していたいよね。

ボクの夢はここの卒業生から総理大臣を輩出すること。こんなこと話すと笑われたりするんだけれど、言霊ってあると思っているから。有言実行、やりたいことはやる。そうして日々の暮らしから後悔の数を減らすと、その分楽しいことが増える気がしている。これまでもそうしてきた、そしてこれからも。

村松 亮 (むらまつ・りょう)
株式会社シカク/プランナー、プロデューサー、編集者。中央アルプスと南アルプスに挟まれた広大な谷である伊那谷に家族と暮らす自宅をもち、オフィスは東京と2拠点生活を行っている。2020年春、noruプロジェクトをローンチ。移動を題材にしたwebメディア『noru journal』と、ガレージスタジオ「noru studio」(2020年6月OPEN)を運用している。