Forest Shutter 森の暮らし
# 5
子どもたちと「生きる力」を学ぶ
佐藤香織利さんの場合
2020.8.7

森と共に暮らす人々の日常を伝える「Forest Shutter」の第5回は、佐藤香織利さん。アドベンチャーレースの選手を引退後、家族で居を構えたのは山梨県北杜市でした。プロレーサーとして国内外の過酷な自然環境を生きぬいてきた彼女が、今、子どもたちの未来に残したいものとは?

写真・文:佐藤香織利/編集:村松 亮

人間が学ぶべきことはすべて自然の中にある
“アドベンチャーレースが教えてくれたこと”

27歳の時、友人から誘われて静岡県で開催されたアドベンチャーレースに出場した。アドベンチャーレースとは、主催者が設定した自然の中のコースを男女混成のチームが地図を読みながら自分たちでナビゲーションし、トレッキング、マウンテンバイク、カヌー、クライミング、ラフティングなどをこなしながらゴールを目指す冒険レースだ。一緒に出場したチームメンバーも全員アドベンチャーレース初心者。「とにかく生きて帰る」ことを目標に挑んだ。

スタートからゴールまでチーム全員一緒に行動しないと失格になる。ゴムボートで激流の川を下り、土砂降りの雨の中マウンテンバイクを担いで山を登る。足にはマメができ、空腹と戦い、山の中で道に迷って途方に暮れたが、励まし合ってなんとか最下位でゴールした。最下位なのに物凄い達成感で、それからどっぷりとアドベンチャーレースにハマり、気がつけばプロチームに入って海外の総距離800㎞、期間は1週間〜10日といったちょっとクレイジーなレースに出場していた。レースの環境が過酷であるほど生きている実感があった。

毒蛇が生息しているタスマニア島のレースでは、万が一噛まれたときの対策を勉強してレースに挑んだ。実際レース中に蛇に遭遇したし、地元の人たちから「蛇に気をつけて!」と声をかけられた。

パタゴニアのレースでは、強風が吹くマゼラン海峡をシーカヤックで横断するために荒れた海で練習を積んだ。人間にとって都合の悪いものを避けたり、排除することでコントロールするのではなく、自然を知り学ぶことで乗り越えることはできる。過酷な自然環境の中でも人間同士が協力し合い、困難を乗り越えて前に進むアドベンチャーレース。これこそが人間がすべき生き方だと確信するようになった。

自然を知ることは、自分のいのちを守ること
子どもたちには「生きる力」を身につけてほしい

結婚して子どもが生まれ川崎市で4年間暮らしたのち、やっぱり自然の中に戻りたい、そして子どもたちにも自然に生かされていることを知り、生きる力を身につけてほしいと願うようになり、山梨県北杜市に移住を決めた。

自宅の前は近所の農家さんの広大な畑。最初は土しかないだだっ広い畑から、やがて芽が出て、野菜が育ち、食卓に並ぶ。家の庭にも小さな畑を作って子供たちと育て、収穫して食べている。上手く育たないこともよくある。ご近所さんが育てた野菜や果物をたくさん頂くので、子どもたちは「〇〇さんはお野菜育てるの上手だね」と。

子どもたちが通う自然保育の幼稚園では、毎年春に園庭の野草を摘んで天ぷらにして食べる日がある。食べられない野草もあるので、「これは食べられるよ、これは食べられないよ」と子どもたちと話しながら野草を摘む。

そうやって子どもたちは食べられる草と食べられない草を覚え、自然を知ることで自分たちの命を守りながら生きることを学んでいる。6月になると山でおいしい桑の実や木苺が実るので、子どもたちはとてもうれしそうに採って食べる。

おいしいものを見つけるとすっごくうれしそうに私や夫に食べさせてくれて、私が「美味しいね!」と言うと、もーーーっとうれしそうな顔をする。幸せ〜!

子を持つ親の気持ち、
人間も動物も皆同じ

私が5歳ぐらいだった頃、祖母が亡くなると親戚のおばさんは「おばあちゃんは眠っていてもう起きないのよ」と言った。「死んだのになんで眠っているって言うの?」と思ったことを今でも覚えている。5歳児でも死は知っていたし興味があったのに、真正面から向き合ってはいけない空気。人間は死んだ動物の肉を食べているはずなのに、生き物は皆死ぬのに。

自然の中で暮らしていると、死は日常だ。鳥が家の窓に激突して死んだり、野生動物が車に轢かれて死んだり、動物や虫が食べられて死んだりしている。車に轢かれて死ぬ動物はかなり酷い見た目になってしまい、大人は目を背けてしまいたくなるが、子どもはじっと観察していつでも目の前の死と向き合っているように思う。

今年の春、ハクセキレイが家のガレージに巣を作って産卵した。夫が巣の脇にカメラを設置して巣の様子を毎日リアルタイムで観察。蛇が来ないか冷や冷やしながら毎日子どもたちと見守った。産卵した卵5個のうち3個は孵化して巣立っていったが、2個は孵らなかった。先日2回目の産卵ではまた5個の卵を産み、5個全てが孵った。親鳥たちは毎日せっせとガレージの巣に餌を運んでいる。

毎日訪れるトレイルでは同じ場所でキツネをよく見るなと思ったらある日、すぐ近くで子ギツネ2匹が無邪気に遊んでいた。ちょっと離れた場所にいた親ギツネが私に気がつき「ケーンッ!!」と叫び、子ギツネたちは一目散に逃げていった。子を持つ親の気持ち、人間も動物も皆同じ。すぐ近くの狐や鳥の「ママ友」たちから勇気をもらい、今日も私は子育てに励むのであった。

村松 亮 (むらまつ・りょう)
株式会社シカク/プランナー、プロデューサー、編集者。中央アルプスと南アルプスに挟まれた広大な谷である伊那谷に家族と暮らす自宅をもち、オフィスは東京と2拠点生活を行っている。2020年春、noruプロジェクトをローンチ。移動を題材にしたwebメディア『noru journal』と、ガレージスタジオ「noru studio」(2020年6月OPEN)を運用している。