世界や日本の森にまつわるニュース情報から、編集部が気になることを掘り下げる、WORLD FOREST NEWS。“森林文化”について幅広く学ぶことができる全国でも稀有な教育機関「岐阜県立森林文化アカデミー」の先生を講師に迎え、わかりやすく解説してもらいます。今回は国内のニュースで一時期話題になった“ウッドショック”を取り上げます。ウッドショックで儲かるのは誰なのか。そして、日本の林業界にとってこのウッドショックはどう捉えられるのか。林業専攻担当の杉本先生に聞いてみましょう。
今、林業を
生業にしている人は?
“ウッドショック”というキーワードが巷に広がり、「日本の林業を変えるきっかけになるのでは!?」という見方をされることがよくあります。それについて今回は考えていきたいと思います。
今回のウッドショックですが、2020年の夏ころからアメリカで住宅着工件数が上昇したことをきっかけに木材需給がひっ迫し、木材価格が急上昇しました。日本の建築に用いる製材品や合板などは半分近くが輸入材であることから、国内の木材需給もひっ迫し、国産材の原木(丸太)価格も上昇しました。筆者が勤める岐阜県立森林文化アカデミーの演習林から出材された原木も前年同時期から比較すると、3割程度高くなっている印象です。
「ウッドショックが日本の林業を変えるのか!?」について話す前に、まず考えないといけないのは、「誰が誰に付加価値を提供する活動が林業なのか?」ということ。大まかな林業に関わる人たちを整理すると以下の2つです。
① 森林所有者(森林に投資をしてきた事業者あるいは個人)
過去に森林にお金や人手をかけてきた人すなわち森林の所有者です。日本全体としては、50~60年前に植えた木が多く、十分建築用として使えるサイズの木に育っています。しかし、森林の所有規模が小さい林家(森林所有者)が多く、50ha未満の森林所有者が所有している森林面積の割合が71%となっています。1~5haの小規模森林所有者も25%を占めています。
② 森林サービス提供事業者(植林や伐採など森の手入れを代行する人)
森林所有者の山に対して、間伐など手入れをする人たちです。森林組合や林業事業体などが担っています。多くの森林が50~60年生であることから、ただ山の手入れをするだけではなく、手入れで伐った木を搬出して販売する事業体が増えています。
①の森林所有者は、昭和の後半から平成にかけて木材価格が下がり続けたおかげで、山への関心を失い自ら所有山林に入って仕事をする人はほとんどいません。むしろ自分の山がどこにあるのかもわからない方々もたくさんいます。木を植えたのは60年前です。山を相続している場合は、なおさら山への関心は薄れています。自らの山林から木を伐り出して、川下(製材所や材木屋など)に木材を供給することを生業にしている方、いわゆる「専業林家」と言われる方は、一部の大規模森林所有者のみです。
では、この時代に林業を生業にしている人たちとはだれか?
では、この時代に林業を生業にしている人たちとはだれか?
②の森林サービス提供事業者になります。森林所有者の山に対して、間伐などの手入れをしたり、木を伐って木材の売り上げを森林所有者に返したりする人たちです。手入れではなく、植えた木をすべて伐採するような伐採業者も、自分の山を伐採して収入を得るというより、森林所有者の山を伐って販売する際の手間賃を収入にしており、「森林所有者が持つ財産を現金化するサービスを行う」と言い換えた方が実態に近いと思いますので、森林サービス提供事業者としました。
②の森林サービス提供事業者になります。森林所有者の山に対して、間伐などの手入れをしたり、木を伐って木材の売り上げを森林所有者に返したりする人たちです。手入れではなく、植えた木をすべて伐採するような伐採業者も、自分の山を伐採して収入を得るというより、森林所有者の山を伐って販売する際の手間賃を収入にしており、「森林所有者が持つ財産を現金化するサービスを行う」と言い換えた方が実態に近いと思いますので、森林サービス提供事業者としました。
もう少し統計で数字を拾いながらみてみましょう。岐阜県森林・林業統計書(令和元年度)によると保有山林が1ha以上の林家数は32,704戸となっています。しかし、林業就業者数は1,899人となっており、そのうち、現場で働く森林技術者は936人、森林組合などの職員が300人弱です。林家数 >> 林業就業者数になっています。ここが林業の特徴的なポイントで、実際に現場作業であれ、事務作業であれ林業を生業にしている人たちのほとんどは、自分の山から木材を売って生活している人ではありません。ほとんどが②の森林サービス提供事業者に雇用されている労働者になります。
一昔前は、森林所有者自らが山に入り、小さな機械で木材を収穫して収入を得ることもありましたが、木材価格の低下により、専用の機械で収穫を効率化して生産コストを下げないと木材収入を得ることができなくなってしまいました。専用の機械を持つということは、機械への投資を回収すべく、たくさんの事業地を確保しないと採算がとれません。今の時代に、年間通して林業を行うのは、森林所有者ではなく、専門の技術者や機械を持つ森林サービス提供事業者なのです。
日本の林業は
不況なのか?
さてウッドショックで木材価格が上がって、直接収入が増えるのは誰でしょうか?
答えは①の森林所有者です。なぜなら伐り出した木材は森林所有者のもの。②の森林サービス提供事業者は、森林所有者の山を伐って販売する際の手間賃が収入ですので、木材価格が上がっても収入は変わりません。森林所有者の収入が増えることになります。
漁業では、釣りあげたクロマグロを築地の市場で売って高値がつくと釣った漁師さんが儲かることになります。しかし林業では、今働いている人たちが儲かるわけではなく、”現在は林業を生業にしていない”森林所有者が儲かることになります。儲かるとはいっても、60年前に木を植えたときからすると、木の価値は大きく下落しておりますので、投資を回収できたといえるレベルではないでしょう。再度、投資意欲が復活するためには、今回のウッドショックが一時的なショックではなく、長期的に高値安定が続くであろうという見込みがないと厳しいのではないかと思います。
漁業では、釣りあげたクロマグロを築地の市場で売って高値がつくと釣った漁師さんが儲かることになります。しかし林業では、今働いている人たちが儲かるわけではなく、”現在は林業を生業にしていない”森林所有者が儲かることになります。儲かるとはいっても、60年前に木を植えたときからすると、木の価値は大きく下落しておりますので、投資を回収できたといえるレベルではないでしょう。再度、投資意欲が復活するためには、今回のウッドショックが一時的なショックではなく、長期的に高値安定が続くであろうという見込みがないと厳しいのではないかと思います。
今の林業を担う森林サービス提供事業者はウッドショックをどう捉えればよいのか。ウッドショックが始まる前から言われていた課題は、木材の供給は一方的なプロダクトアウト(買い手のニーズよりも作り手の理論や計画を優先させること)で川下(丸太の買い手)のニーズに応えきれていない、ということ。欲しい時期に木材が出てこない、目標の出材量に達しないことが多々ある、等々。これでは川下と対等な立場で交渉することができません。
森林サービス提供事業者の役割は、川下のニーズに合わせて木材を供給すること、ただの言いなりになるのではなく、ニーズに応えることで付加価値をつけて木材を販売するということです。そうすれば川下の信頼にも応えることができ、さらには森林所有者の信頼にも応えることができます。ウッドショックは木材需給がひっ迫して、川下からの要望がたくさん集まっている状況です。ただ高く買ってくれるところに木材を販売するのではなく、ニーズを細かく汲み取ることで、長期的に取引ができる信頼関係を築けるかどうかが大事だと思います。
ちなみにこのテーマの裏には、「日本の林業は不況である、あるいは衰退産業である」という認識が一般的にあろうかと思います。しかし、実際には今林業を生業にしている方々、その多くを占める森林サービス提供事業者の仕事のパイがどんどん減っているというわけではありません。むしろサービスを提供すべき森林はたくさんあるものの、人手不足やインフラ不足でサービス(下刈や間伐といった森の手入れ、現金化のための伐採など)が追い付かない状況です。「日本の林業は不況である、あるいは衰退産業である」というのは当てはまらず、むしろ好況ですが、人手不足で仕事をこなし切れていないというのが実情かと思います。山を持っている方でも、持っていない方でも林業の仕事に興味ある方大歓迎です。ぜひ人と森とをつなぐ学校、「岐阜県立森林文化アカデミー」をのぞいてくださいませ。
ちなみにこのテーマの裏には、「日本の林業は不況である、あるいは衰退産業である」という認識が一般的にあろうかと思います。しかし、実際には今林業を生業にしている方々、その多くを占める森林サービス提供事業者の仕事のパイがどんどん減っているというわけではありません。むしろサービスを提供すべき森林はたくさんあるものの、人手不足やインフラ不足でサービス(下刈や間伐といった森の手入れ、現金化のための伐採など)が追い付かない状況です。「日本の林業は不況である、あるいは衰退産業である」というのは当てはまらず、むしろ好況ですが、人手不足で仕事をこなし切れていないというのが実情かと思います。山を持っている方でも、持っていない方でも林業の仕事に興味ある方大歓迎です。ぜひ人と森とをつなぐ学校、「岐阜県立森林文化アカデミー」をのぞいてくださいませ。
●岐阜県立森林文化アカデミー公式サイト
https://www.forest.ac.jp/
Profile
杉本 和也●岐阜県立森林文化アカデミー准教授。専門は木材生産システム。大阪府出身。2006年、京都大学農学部を卒業後、京都大学大学院に進学、林業現場における素材生産システムの効率化に関する研究を行う。2010年より現職。総額で1セット5000万近くもする高額な林業機械を使うためには、会計など経営全体を踏まえた意思決定が必要との思いから、2014年に中小企業診断士を取得。現在は、日報のデータベース作成など林業現場の生産管理に取り組む。チェンソーや林業機械の分解整備が趣味で、時間を見つけては機械の整備をしている。