WORLD FOREST NEWS
# 2
ドローンの活用から見る
日本と世界の林業
2020.5.19
photo by MIKI Yoshihito

世界や日本の森にまつわるニュース情報から、編集部が気になることを掘り下げる、WORLD FOREST NEWS。“森林文化”について幅広く学ぶことができる全国でも稀有な教育機関「岐阜県立森林文化アカデミー」の先生を講師に迎え、わかりやすく解説してもらいます。2回目はさまざまな業界で活躍している“ドローン”に注目してみました。

写真・文:杉本 和也(岐阜県立森林文化アカデミー講師)

山に木の苗を宅配?
苗木運搬ドローン

今やいろんなところで見かけるドローンですが、林業でも少しずつ活用されるようになりました。2020年の2月に株式会社マゼックスと住友林業株式会社で共同開発した林業用苗木運搬ドローン「MORITO(森飛)」が発売されたことはご存知でしょうか。ドローンを使って苗木を山に運搬するということですが、どのくらい林業に役に立つのか気になるところです。まずは苗木を植栽する作業について、具体的数字をイメージしながら想像してみましょう。

木を伐採して収穫した後に行う植栽作業は、苗木を植える行為のことを言います。植えるだけなら簡単そうに思えるかもしれませんが、苗木を運搬するのがとても大変な作業なのです。だいたい一人で1日に植栽する苗木本数は200~300本程度と言われています。

1本の苗木が120gなので、200本を一度に持って上がると24kgの重量があるリュック(苗木を入れるための袋)を背負って斜面を登る必要があります。植栽場所が林道から近いといいのですが、植えるところまで歩いて1時間かかる場所もざらにあります。

森林文化アカデミーで使用しているドローン。

そこで活躍するのがドローンです。今回発売されたドローンは1回のフライトで8kgの重量物の運搬が可能とのこと。ドローンのバッテリーは、20~30分が限度で、バッテリーを途中で入れ替える必要があるかもしれませんが、重たい荷物を背負っていくことを考えると、労働負荷をかなり下げることができます。苗だけでなく、植える人自身をドローンで植栽する場所まで運んでくれるといいのですが、安全性などを考慮すると、もうちょっと先の時代のようです。

運搬だけじゃない
林業ドローンの役割

さてこのドローンですが、林業においてはまだまだ他の活用方法があります。大きく分けると3つです。

① 重量物運搬業務(ロープ運搬含む)
② 林地確認業務
③ 測量業務

いずれも実用化されており、いくつか活用事例もあります。順を追って解説します。

左手前のオレンジの器具が、林内でワイヤを張り巡らすための滑車。

まず重量物運搬業務ですが、苗木以外にも斜面に重い物を持ち運ぶ業務があります。それが架線による集材作業です。木を山から運び出すためにワイヤロープをロープウェーのように斜面に架設する方法があるのですが、架設するためには10kg前後の重たい滑車をいくつも斜面の上まで運ぶ必要があります。

ドローンでリードロープを運んでいる様子。

またワイヤを張り巡らせるために、細いロープ(リードロープと言います)を斜面の上まで運ぶのですが、道なき斜面を直進するので、これまた大変な作業になります。これらは、すでに専用のドローンが開発されており、実用化されています。重量物を運ぶドローンは大型で、価格も高額になることから、広く現場で普及しているわけではありませんが、これから事例が増えてくると思われます。

森林文化アカデミーの演習林をドローンで撮影した航空写真。紅葉しているのが広葉樹、濃い緑がヒノキ、薄い緑がスラッシュマツ。

次に林地確認業務ですが、伐採の計画を立てるため、あるいは山林の土地所有界の確認のため、ドローンを飛ばして上空から林地を確認するという使い方があります。どこにどんな木が生えているのか、道から森林の中を見渡すのは限界があります。また土地の所有界を確認する際に所有者の立ち会いが必要になるのですが、所有者が足腰の悪いお年寄りだったとすると、きつい斜面を登ってもらいながら境界を確認するということは困難です。ドローンで上空から画像や動画を撮影することで、生えている木の樹種や大きさを確認することができます。

また所有者自身も画像や動画を見ながら所有界を確認することができます(土地の所有界で植えている木の年齢や樹種が異なる場合は、上空からの画像で判別することができます。同じ木ばかりが生えている場合は難しいですね)。これらの業務は主に画像や動画を撮影するだけなので、一般的な安価なドローン(5~6万円)でも可能であり、林業事業体で導入しているところも多いです。

続いて測量業務です。特殊なソフトやドローンが必要になるため、林業事業体ではなく、公的機関や森林の調査会社が行っている場合が多いです。何を測量するかというと、森林の面積、樹高、蓄積(林内の木の材積)などを計測します。

木を伐って山から出す場合に、どれだけの木が計画エリアで伐採されて運び出されるのか、事前に正確な計画を立てることは、会社の経営やサプライチェーンを考える上でとても重要です。ドローンで現場を撮影し(飛行計画を作成する専用のアプリケーションが必要です)、専用のソフトで解析することで、3Dの測量図面を得ることができます。

“SfM(Structure from Motion)”という技術を利用しているのですが、ドローンにより撮影した画像から三次元点群データを得ることができます。点群データを解析することで、樹冠(葉っぱや枝が生い茂っている木の上部)の形状や面積を計測することができます(地表面の高さデータがあれば樹高の計測も可能)。

さらには1000万円以上の高額ドローンを使えばレーザー測量も可能になります。上空からレーザー光を発射して地表から反射して戻ってくる時間差を調べることで、森林で覆われている樹冠部の高さ、地表面の高さを計測することができます。

林業業界でのドローンの活用について、①重量物運搬業務、②林地確認業務、③測量業務の3つを紹介しましたが、海外ではどのような使われ方をしているか一例を紹介します。

2018年にドイツで開かれた林業機械展「Interforest」の様子。

2018年、岐阜県立森林文化アカデミーと連携しているドイツのロッテンブルグ大学を訪れた際、ドイツの林業機械展「Interforest」にも足を運びました。林業へのドローンの活用にとても期待が高まっている様子が感じられましたが、日本と状況は異なり、重量物運搬業務、林地確認業務はなく、主に測量業務に使われているようです。

なぜかというと日本と比べて森林地帯の傾斜が緩く、林道(林業に必要な大型機械が走行する道)が張り巡らされているため、わざわざドローンを使って重量物を斜面上方まで持ち上げる必要がありません。土地の所有界の確認等も車で林内を移動して確認できるのでドローンの出番はないのです。測量については、樹高や蓄積を計測する方法が主ですが、特殊な使い方としては、林道の凹凸をドローンにより把握し、メンテナンスの要不要を判断する、近赤外線センサーをドローンに搭載して樹木の水分状況を調べ、健康状態を把握するということを行っていました。

日本と海外(主にドイツ)のドローンの活用事例を紹介しましたが、紹介しきれていない研究や試験段階のことも多く、これからいろいろな利活用が生まれてきそうです。日本と海外で共通して期待されることは、森林の管理や計画の精度をより高めることができる、あるいは手間を大幅に省くことができるという点です。人手不足が叫ばれるなか大いに期待したいポイントです。

さらに日本ならではの状況として、急な斜面が多い日本の森林で、重たい荷物を持ち上げてくれことができると、どんなに楽なことでしょう。苗木だけではなく、滑車やワイヤロープなど、重たい荷物をドローンの力で運んでくれる未来を期待しています!

岐阜県立森林文化アカデミーの公式サイト

Profile
杉本 和也●岐阜県立森林文化アカデミー講師。専門は木材生産システム。大阪府出身。2006年、京都大学農学部を卒業後、京都大学大学院に進学、林業現場における素材生産システムの効率化に関する研究を行う。2010年より現職。総額で1セット5000万円近くもする高額な林業機械を使うためには、会計など経営全体を踏まえた意思決定が必要との思いから、2014年に中小企業診断士を取得。現在は、日報のデータベース作成など林業現場の生産管理に取り組む。チェンソーや林業機械の分解整備が趣味で、時間を見つけては機械の整備をしている。
https://www.forest.ac.jp/teachers/sugimoto-kazuya/

田中 菜月 (たなか・なつき)
1990年生まれ岐阜市出身。アイドルオタク時代に推しメンが出ていたテレビ番組を視聴中に林業と出会う。仕事を辞めて岐阜県立森林文化アカデミーへ入学し、卒業後は飛騨五木株式会社に入社。現在は主に響hibi-ki編集部として活動中。仕事以外ではあまり山へ行かない。