私たちの暮らしの身近にある雑草や、山の木々たちは、昔から変わらない姿形でそこにあり続けているのでしょうか。今回は杉センセイとともに、植物の歴史をめぐる壮大な旅に出かけてみましょう。
植物の出自をたどる
杉センセイ、今年の夏も暑かったですね〜。私は蝉の声なんかを聴きながら散歩して、なんだか、すごく懐かしい気持ちになったんですよ。あの独特な感覚、先生も抱いたことありますか?

どうしたんや急に(笑)。
まあ、なんとなく君の言いたいことはわかる気もする。
いやね、この前朝の河川敷をぶらぶら散歩してたんですよ。そしたら、夏の情景を目一杯表現しようとしているかのような、大輪の黄色いお花が咲いていたんです…。ああいう可憐な夏の花を見ていると、子供の頃の夏休みの初日、ワクワク感が胸の中で沸騰していたときの感覚が蘇ってくるんですよね。
夏の原っぱって、日本人の心のふるさとですよね。

“日本人の心のふるさと”…いい表現やなあ。
ところで、郷愁の念に水を差すようで悪いねんけど、その“黄色い花”って、こんなヤツやったんちゃう?

あ、それですそれです!抜けるような夏の青空と、優しげな淡黄色の花弁が、絶妙にマッチしてますよね。
でも、どういうことですか?”水を差す”って…。

その花は、恐らくアカバナ科マツヨイグサ属の「メマツヨイグサ」(Oenothera biennis)という植物や。
清楚なルックスの持ち主やからな、多くの日本人の夏の思い出に刻み込まれてきたんやろうけど、彼らの故郷は北アメリカ。バリバリの外来種なんや。
ええ!
完全に日本の夏の景色に馴染んでいたから、なんか意外です。


本来マツヨイグサ属は、地球上で南北アメリカ大陸にしか分布していなかったグループやねんけど、大航海時代に鑑賞目的でヨーロッパに持ち込まれて以降、園芸植物として世界中に広まったんや。日本には1847年にオランダ船によって「ツキミソウ」(Oenothera tetraptera)という種が持ち込まれたのが最初と言われる。
マツヨイグサ属の花は、一部の種を除いて夜咲きで、日没後30分ほど経つと突然、艶めかしい花びらを勢いよく展開させて夜行性の蛾を誘い出す。この独特な習性が、宵(よい、夕方)を待つ草、転じて「待宵草」という和名の由来になったんや。


マツヨイグサの仲間は園芸家から大人気で、明治〜昭和初期にかけて数多くの種が日本に持ち込まれたんやけど、いかんせん生命力が強くて、痩せ地でも難なく定着するうえ、種子は地中で70年以上休眠することができる。
そういうタフな性格ゆえに、上陸後わりと早い段階で庭先から逃げ出して、日本中に拡散したんや。神奈川県大和市のニュータウン「つきみ野」の地名は、1965年に東急が宅地開発に着手したとき、現地でツキミソウが生い茂っていたことに由来するらしい。当時すでに、マツヨイグサ属がごくありふれた雑草と化していたんやな。
現在日本国内では、14種のマツヨイグサ属草本が野生化しているとされる。

なんか不思議な感じがしますね、ごくごく普通に見かける植物なのに、ほんの150年ほど前まで日本には存在しなかった植物だったなんて。

マツヨイグサ属のように、海外から持ち込まれたのち野生化し、自力で繁殖・拡散するようになった植物を「帰化植物」と呼ぶ。
東京大学が2006年に作成したリストによれば、その時点で国内に2237種の帰化植物が存在していたらしい。
2237種…生態系への影響とか、大丈夫なんですかね?
ちょっと心配になる数字ですよね。


もちろん、帰化植物が大繁殖して、生態系に負の影響を与えてしまった事例はごまんとある。でも、一概に帰化植物を悪者扱いすることはできへん。
なんせ有史以来、日本列島には膨大な数の植物種が持ち込まれてきたんや。紀元前に農耕の伝来とともに渡来したような種は、すでに数千年間日本に棲みついてるからな、完全に日本の山里の景色に馴染んでる。中には、渡来した時期が古すぎて出自を辿るのが不可能で、在来なのか外来なのか、もはや誰にも分からへんような種だってある。
そういう植物たちは、どう取り扱えばいいと思う?
う〜ん…“外から来たモノは悪”みたいな単純論で、帰化植物との付き合い方を考えることはできないんですね。

その通り。帰化植物だって、日本の自然を構成する大事な一要素なんや。
今回は、一癖も二癖もある帰化植物の面々に会いに行って、その生き様を観察してみよか。私たち日本人が、帰化植物と付き合っていく中で、どんな恩恵を受け取ってきたのか?そしてどんな失敗をしでかしてきたのか?
その歴史を考察すると、私たちが普段見ている“自然”の見え方がまた変わってくるはずや。

素行の悪い帰化植物たち

さっきあんたが心配してたように、帰化植物の中には、在来の生態系に負の影響を及ぼすような、侵略性の高い種も少なからずある。
そういう素行の悪いヤツらは、環境省がしっかりマークしとって、「生態系被害防止外来種リスト」っていう、いわば生き物のブラックリストみたいなもんに掲載されるんや。中でも特に凶暴なヤツらは、特定外来生物に指定されとって、生きた状態での保管、輸入、運搬が法律で禁止されてる。
現在、生態系被害防止外来種リスト(※)に載っている植物種は167種、その中で特定外来生物に指定されているのは19種。コイツらに関しては、本気で警戒せなあかん。
※「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト」(平成27年3月26日発行の第一版)

要は、“わかりやすく悪”な帰化植物、っていうわけですよね。
具体的にどんな種が、そのリストに載っているんですか?

有名どころやと、「アレチウリ」(Sicyos angulatus)かな。1952年に静岡県の清水港で初めて確認された、北米東部原産のつる植物や。輸入大豆に種子が混入しとったらしくてな、面白いことに当初は豆腐屋の周辺を中心に分布を広げていったらしい。
1960年代に北米産の飼料用穀物の輸入が本格化すると、それに混じってアレチウリの種子が繰り返し日本に侵入するようになった。あれよあれよという間に、その分布は全国に拡大したんや。


奴らの攻撃力は凄まじいで。アレチウリの本数が1㎡あたり2本を超えたトウモロコシ畑では、収量がなんと90〜98%減少するという報告があるくらいなんや。
長野県の千曲川河川敷では、アレチウリのカバー面積がわずか5年で160倍に増加したという記録もある。その過程で、カワヂシャ、タコノアシなど、河原を棲家とする希少な在来草本が姿を消していったと言われとる。
聞けば聞くほど凶悪な植物ですね…。
ボテっとした葉っぱと強靭なツルが、見るからにヤバい雑草って感じで、殺気を感じます……。


アレチウリは明らかに雑草っぽい見た目をしているからまだ分かりやすいけどな、中には可愛い見た目をしている割に性格に難ありで、ほうぼうで人々をキレさせた帰化植物もおる。


春の終わりごろ(4月末〜5月はじめ)に、道端や空き地の原っぱで、可愛らしいオレンジ色の花が群生しているのを見たことないか?
あれ、「ナガミヒナゲシ」(Papaver dubium L.)っていうケシ科の植物で、65年前まで日本に存在していなかった植物なんや。
あのポピーみたいな、可愛いオレンジ色の花!すごく馴染みがあります!ごく普通に見かけるから在来種だと思ってた…。


彼らの故郷はヨーロッパの地中海地方。日本では1961年に東京の世田谷で確認されたのが最初で、どういう経緯で上陸したのかは未だによくわかっていない。
1990年頃までは、ナガミヒナゲシはどちらかというと珍しい雑草で、観測記録もごく少なかったらしいんやけど、どういうわけかそれ以降急増して、今日では47都道府県全てに分布するんや。



花の時期が終わると、彼らは「芥子坊主」(けしぼうず)と呼ばれるカプセル状の構造を結実させて、重さ0.1mgの小さ〜な種子を風にのせてばら撒く。
問題はその数で、1株が結実させる芥子坊主の数はだいたい100個。1個の芥子坊主には平均して1600粒の種子が詰まっているから、1個体で16万粒もの種子を撒き散らしてまう。
16万粒もばらまくって…可愛い見た目の割に、なかなか思い切ったことしてくれますね。

彼らの微細な種子は、自動車のタイヤの溝にうまいこと潜り込んで、何キロも先まで移動するんや。東京都稲城市で行われた調査では、ナガミヒナゲシの生育ポイントの80%以上が、幹線道路の植栽帯とか、駐車場の脇とか、車の往来が激しい立地に集中しとったらしい。
さらに厄介なことに、ナガミヒナゲシは根から周囲の植物の生長を阻害する化学物質を発散する(アレロパシー)。土地を独り占めしたいがためにこういう凶行に走るんやけど、こんな奴が農地や庭園に侵入したらエラいことになるからな、各地の自治体が駆除や取り扱いについて注意を呼びかけてるみたいや。

植物のくせに、移動手段がまさかの車とは。しかもその旅行スタイルで47都道府県制覇してるのがすごいですね。
インバウンド旅行者のごとく日本をエンジョイしてるじゃないですか…!
人間の歴史よりも長く、
日本に棲んでいる外来植物たち
さっき、そもそも在来種なのか外来種なのか、それすらよくわかっていない植物種がいる、っておしゃってたじゃないですか。具体的には、どんな植物がその例に当てはまるんですか?

街中でよく見かける種やと、「ドクダミ」(Houttuynia cordata)かな。じめっとしたところが好きな雑草で、軒先とか、建物の隙間とか、街中のちょっとしたスペースで群れて生えているのをよく見かける。
茎や葉は独特の臭気を放つうえ、繁殖力・成長力ともに旺盛で、ちょっと目を離すとたちまち庭全体がドクダミだらけになってまう、みたいな話もよく聞く。
手に負えへん雑草として嫌われがちな植物ではあるんやけど、古くから「十薬」(じゅうやく)、つまり十の病気に効くとされた有用な薬草でもあって、あの独特な臭いも「デカノイルアセトアルデヒド」っていう、抗菌物質によるものなんや。


興味深いことに、日本に生えているドクダミは、ほとんど種子を実らせることがなくて、地下茎を伸ばして繁殖する。そもそも人里でしか見かけへん植物やし、在来種なのに種子を実らせる能力がないってのはちょっと考えにくい。
せやから、日本のドクダミは太古の昔に人為的に移入された外来種で、人間の生活圏に入り浸りながら、数千年以上細々と世代交代を繰り返してきたと考えられているんや。
でも、いかんせん日本に上陸した時期が古すぎるからな、彼らが一体どこから来たのか、真相は誰にもわからへん。


ドクダミ、縦横無尽に地下茎を張り巡らせるから、雑草むしりのときに難儀するんですよね…。意外にも、千年以上薬草として重宝されてきたんですね。

ドクダミのように、“よく見かけるけど出自が謎”っちゅう植物は結構ある。
例を挙げると、春の浜辺で見事なお花畑をつくる「ハマダイコン」、夏休みのカブトムシ捕りでお世話になる「クヌギ」、ドクダミと同じく迷惑雑草としてその名を轟かせる「カタバミ」なんかは、みんな日本の人里の景色に馴染みきってるけど、彼らがどこから来たのかについては、いまだに議論の決着がついてへん。
仮に彼らが遠い昔に持ち込まれた外来種やとしたら、“歴史がはじまる前に日本にやってきた植物”ということになる。そういう植物種を、「史前帰化植物」というんや。
人間の歴史よりも長く、日本列島に棲み続けてきた外来植物が少なからず存在する、というわけですね。
私たちが普段見ている景色を作っているのは、海の向こう側からやってきた植物たちなのかもしれない、ということですよね。



人里の景色に溶け込んだ植物たちの過去は、
誰にもわからない
一口に外来植物といっても、そのバックグラウンドは様々なんですね。ほんの60年前に世田谷の路上で発見された雑草もあれば、何千年も前に持ち込まれたのち日本の景観に溶け込んでしまって、いつ、誰が、どこから持ってきたのか出自を辿ることができなくなった植物もある…。
彼らを単に“よそ者”というレッテルで括って、同列に取り扱うことはできないですよね。

環境省が定めた外来生物法では、海外から人為的に日本へ持ち込まれ、本来の生息地・生育地の外に存在することとなった生物を「外来生物」として扱う。特定外来生物の選定では、原則として、おおむね明治元年以降に日本へ導入されたと考えられる生物が対象とされている。
逆に言えば、それ以前に持ち込まれた種は、たとえ出自が日本在来でなくとも“外来生物”とは見なされず、在来種と同じような扱いを受けるんや。
この理由として、
①日本が国際的な交通網と結ばれたのが明治時代で、侵略的な種の定着リスクもそれ以降急激に高まったこと
②明治時代以前の生物種の移入については、信頼できる記録が残っていないケースがあり、在来種・外来種の判別が難しいこと
という2点がある。


ただ、さっき出てきた史前帰化植物だって、今でこそ悪者扱いされていないものの、3000年前には侵略的な性格を剥き出しにして、当時の在来生態系に甚大なダメージを食らわせたのかもしれん。
でも、太古の昔の生態系の様態を正確に知ることは非常に難しい。日本の人里の景色に溶け込んだ史前帰化植物の過去は、誰にも分からへんのや。
“外来種”の判定が、その種の絶対的な出自ではなく、“人間の側がその種を移入した事実を認識しているかどうか”に基づいているわけですから、在来種・外来種って、人間が一方的に設けた区分に過ぎないのかもしれないですね。
まあ日本のように歴史が長くて、出自不明の植物種が多い国では、そうならざるを得ないですよね。


“外来種”という言葉にネガティブなイメージを抱く人は多いかもしれへんけど、冒頭でも言った通り外来種を丸ごと悪者扱いすることはできへん。
私たちが日々食べている野菜、果物、穀物は、ほぼ全て外来種やからな。日本の文明・文化は、海の向こう側からやってきた植物たちの助けのもと育まれてきたんや。
そこに人の生活がある限り、外来植物の侵入を完ペキに防ぐことは不可能や。大事なのは、侵略的な種による悪影響をいかに和らげるかであって、外来種そのものを完全に排除することではない。


一般的に、ある地域に持ち込まれた外来生物種のうち、10%が人の管理下から逃げ出して野生化し、さらにそのうちの10%が深刻な問題を引き起こすと言われている。
人為的に導入された外来生物の中には、だいたい1%の割合で侵略的な種が混じっている計算になるんやけど、これは“10の法則”として生態学の世界で長年唱えられてきた経験則なんや。
いつやってくるか分からない“侵略的な1%”を見逃さへんためには、単に“外来種”という言葉にヒステリックに反応するのではなく、身近な自然を冷静に観察して、その変化を細やかに捉えるしかないやろうな。

歴史上、日本には膨大な数の植物種が持ち込まれてきたわけですから、その全てを“外来種”として一緒くたに取り扱ってしまったら、その中に僅かな割合で含まれている侵略的な種を見落としてしまいそうですよね。
大切なのは、個々の種のバックグラウンドや性質にきちんと目を向けることですよね。

現代の日本でも、年間16種ほどの外来植物が新たに野生化していると言われる。2025年には、中央アジア原産のセリ科の有毒植物「ジャイアント・ホグウィード」によく似た外来草本が北海道大学の札幌キャンパス内で発見されて、騒ぎになったことがある。
専門家が鑑定しても結局種名の特定には至らず、あのセリ科は一体何者なのか、その正体は謎のままや。
もしかしたら、きみが毎日歩く道端に、日本でまだ誰も見たことがない、未知の外来植物が生えているかもな。知らんけど。
- 《杉センセイまとめ》
- ①日本の人里の景色には、国外から何らかの経緯で渡来し、野生化した“帰化植物”がかなり高い割合で含まれている。その種数は、2237種。
- ②帰化植物の中には、侵略性の高い種も一定数存在し、そういった“ならず者”は環境省がマークしていて、生態系被害防止外来種リストに掲載される。
- ③人間が居住して以降の歴史が長い日本列島には、人が持ち込んだのか、元から日本に生えているのかもはや分からなくなってしまった“出自不明の種”が数多く存在する。
- ④人の生活がある限り、必ず外来植物はやってくる。そして育つ。これを防ぐことはほぼ不可能であり、外来種を丸ごと悪者扱いして排除しようとするのは現実的ではない。重要なのは個々の種のバックグラウンドにきちんと目を向けた上で、それに応じた適切な付き合い方を考えていくこと、そして生態系の変化に気づけるよう、身近な自然をつぶさに観察することである。こうすることで、一部の侵略的な種による負の影響を抑えることができる。
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