12月に更新する記事のTOP写真に「なぜアサガオ?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。アサガオをはじめとする植物には、生きていく上で“時間”というリズムが欠かせないということをご存知でしょうか?今回はそんな植物と時間の関係性について、杉センセイからあれこれ教えてもらいます!
植物は“時間”が分かる?
杉センセイ、早いモノで、もう年末ですね。山の樹々も、すっかり葉を落として眠りに就いていますねえ。

そうやなあ、あの灰色の樹木たちが、ついこの間まで山一面を真っ赤に染め上げてたっちゅうのがちょっと信じられへんな。でも、不思議やと思わへんか?森には何百本、何千本という樹が生えているのに、皆ほぼ同時に紅葉して冬の眠りに就く。毎年決まった時期にな。
彼らは一体どうやって、休眠のタイミングを見計ってるんやろう?

確かに、言われてみると不思議。私たちが感じているような季節の移ろいを、樹木たちも感じている、っていうことですよね。

実は植物の体には、地球の自転に従って概ね24時間のリズムを刻む時計遺伝子が備え付けられている。彼らはコレを使って毎日昼夜の長さを計測しとって、日が短くなったことを検知すると、冬の到来を察して葉を落とすんや。


日照時間が短い冬の間は、葉を維持するコストが光合成による稼ぎを上回る、つまり葉をつけっぱなしにすると樹体に大きな負担がかかる。せやから、個体のエネルギー収支を維持するのに最低限必要な日長を下回った時点で、速やかに眠りに就かなあかん。
冬更かし厳禁の彼らにとって、季節の変化を正確に捉えることはまさしく命に関わる問題なんや。せやから、森の樹木たちは皆、高精度の体内時計を携えて、昼夜のリズムを見失わないようにしてるんやな。
樹木の世界にも、時計の概念があることに驚きです!
植物たちには“時間”を感じ取る能力があるんですね…。


そうやな。彼らは、私たちが思っているよりもずっと精細な感性・知性を持っているんや。
植物たちも、人間と同じようにモノを見たり、聞いたり、触ったり、そして考えたりするんですかね…?

もしかするとな。植物の知性に関する研究は19世紀初頭から200年以上にわたって続いているんやけど、いまだに解明されてへんことも多い。
でも、近年の植物生理学の目覚ましい発展によって、植物がどうやって世界を感じているのか、徐々に明らかになってきてる。現代の人間は、科学の力を使って、彼らが知覚している世界を覗き見ることができるんや。なんかワクワクしてくるやろ?
今日は、時間がわかる植物とか、“影”を追いかける植物、味覚を感じる植物などなど、本当に意思を持っているかのような振る舞いを見せる植物たちに会いに行ってみよか!

夕方になったら、絶対寝ます。
就眠運動の謎

まず初めに、植物の体内時計に関するネタをもうひとつ。「ネムノキ」(Albizia julibrissin)っていう樹を見たことはあるかな?日本の里山でごく普通に見かけるマメ科の落葉高木やねんけど、なんとも風変わりな習性の持ち主でな、日が暮れるとまるで眠りに就くかのように葉を折りたたむんや。
この現象はそのまま就眠運動と呼ばれとって、紀元前から数多の科学者の興味を惹きつけてきた。でも、未だにその目的ははっきり分かってないんや。

ネムノキ、私の家の近くに生えてますよ!初夏に咲くピンク色のお花がすごく綺麗なんですよね。
面白いですね、身近な植物の生態に、人類が2000年かけても解明できない謎が隠されてる、って。

かの有名な生物学者、チャールズ・ダーウィンは、1880年に『植物の運動力』っちゅう本を出版しとって、就眠運動の生態的な目的を“夜間に葉の表面から熱が逃げてしまうのを防ぐため”と説明してる。ただ、この説が本当に正しいのかどうかは、150年近く経ったいまでも結論が出てない。
うーむ、謎が深まるばかりですね…。


でもな、就眠運動の研究は、生物学の歴史に残る大発見のきっかけになったんや。もともと、就眠運動の引き金になるのは明暗の変化やと考えられてきた。実際ネムノキも、昼と夜の境目の時間帯で葉を閉じるやろ。
ところが、1729年にド・マイランというフランスの天文学者が、就眠運動を行う「オジギソウ」(Mimosa pudica )の鉢植えを数日間洞窟の中に置いてみたところ、常時真っ暗闇の環境下にも関わらず、毎日同じ時刻に葉が開閉したんや。
えっ!じゃあそのオジギソウは光に反応していたわけではなかったんですね!


その通り。1732年に、同じくフランス人の植物学者・デュフェイが、24時間湿度が変化しない金庫の中にオジギソウを閉じ込めた際も、やはり決まった時刻に就眠運動が発動した。また、気温が一定に保たれた温室の中に、毛布にくるんで日照から遮断したオジギソウを入れてみても、やはり夕方の時刻になると葉は閉じたらしい。
光はおろか、湿度や温度の変化を一切無くした条件下でも、葉が開閉するタイミングは乱れへんかったわけや。となると、オジギソウは周囲の環境変化ではなく“時間”を察知して葉を開閉している説が濃厚になるねんけど、当時の科学ではそれを証明することはできへんかった。
たしかに、“時間”って、あまりにも普遍的な概念すぎて、その性質はどこか曖昧で、つかみどころがないですよね。そういうモノと生き物の生理現象の連動を科学的に証明するのって、難しそう…。


でも、そこからおよそ200年が経った1932年、「ベニバナインゲン」の就眠運動の研究に打ち込んでいたドイツの植物学者アーウィン・ブンニングが、「植物の就眠運動は、おおよそ24時間のリズムを刻む内的因子によって制御されている」という説を提唱した。また、彼は葉の開閉タイミングが異なるインゲン同士を掛け合わせる実験を行って、就眠運動のリズムが遺伝することを突き止めた。
ここで、生物の細胞内に、“時計”が存在するという概念──いわゆる生物時計(体内時計)が発見されたわけや。


現代の科学では、ヒトをはじめ、アゲハチョウやトンボ、ショウジョウバエなどの昆虫から、シアノバクテリアのような原始的な生物まで、地球上に生息するほぼ全ての生物種が何らかの形で体内時計を持っているとされている。
ヒトの体内時計に関する知見は、睡眠障害や精神疾患の治療とか、代謝リズムを整えることによる高血圧・糖尿病の予防、抗がん剤の投薬の時間を調節することによる副作用の軽減など、医療の現場で盛んに応用されてるんや。
18世紀の植物学の研究が、300年近い時を経て最先端の医療に活かされているって、すごいですね!科学の知見は、いつどんな形で役に立つかわからないですね。


1日24時間のサイクルは、地球の自転に基づいた、普遍的な生態系のリズムなんや。今日のリズムをきちんと刻んだ者にしか、明日はやってこない。全ての生命に時を刻む能力が備わっているのは、それゆえのことなのかもしれんな。
つる植物たちの
巧みな感性

植物の世界には、精巧な感覚を駆使して、犯罪まがいの行為に走るならず者もおる。人間社会でも生態系でも、知性というのは悪巧みの場で最も早く育つらしいな。
なるほど…。

日当たりの良い草原を歩いている時、ラーメンみたいな黄色いつるが、あたり一帯の草に無造作に巻き付いてるのを見かけることがある(下の写真↓)。「ネナシカズラ」(Cuscuta spp)っちゅう植物やねんけど、コイツは果てしなく他力本願な生き方をするヤツでな、つるを他の植物の茎にぴったり密着させて、そこから養分をかっぱって生活を成り立たせるんや。
光合成の能力はほとんどないし、発芽後の数日間をのぞいて生涯にわたって根すら持たへん。ホンマに、自分で養分を稼ぐ気は一切ないらしい。
見た目も生き方も、まさにヒモですね。


でも、ここまで徹底したタカり気質を貫いてると、逆に苦労も多いみたいでな、さっきも言った通り彼らは発芽して数日経つと根を失う。この間に寄生先を見つけることができなければ、あっけなく枯れてしまうわけや。
せやから新生の個体は、とにもかくにも根が使えるうちに寄生先を見つけ出すべく、ありとあらゆる感覚を研ぎ澄ませて、周囲を“探索”するんや。


彼らは、巻きつこうとしている標的の健康状態を予め推察できる。青々とした葉を茂らせている植物と鉢合わせたら、もちろん瞬時に絡みついて養分をくすねるんやけど、枯れ木や枯れ草と接触した場合は、逆につるを遠ざけるんや。
何も盗れるもんがない枯れ草にアタックして空振ったら、かなりの時間ロスになるからな。
健康な植物にターゲットを絞って襲いかかることで、効率よく優良な寄生先を見つけようとしてるわけですね。やたらと凝った作戦を練ってるあたり、そこはかとない狂気性を感じます。
でも、どうやって健康な標的と、そうでない標的を見分けているんでしょう?


ひとことで言うと、光の波長の差を感知して、“影の濃さ”を認識してるんや。
植物の枝葉を透過した自然光の波長(700nm〜800nm)は、何にも遮られずに地表に到達した直射光(600nm〜700nm)と比較して長くなる。光が植物体にぶつかった時点で、波長の短い青色光・赤色光は葉っぱに吸収されてまうからな。この波長が長い光のことを「遠赤色光」と呼ぶんや。
ネナシカズラには、遠赤色光の比率が高いところに向かって優先的につるを伸ばす性質がある。こうすることで、濃い影が落ちているところ、つまり何らかの植物が青々と葉を茂らせているところに、つるを到達させることができるわけや。
遠赤色光を目印に、寄生先として申し分ない健康な植物体を探し当てるんですね。
ここまでヤヤコシイことをやってのける動機が、“誰かの養分をパチる”なの、最高にイカれてますね。


ネナシカズラと同じくつる植物の「ヤブガラシ」(Causonis japonica)も、似た類の精巧な感覚を使いこなすことができる。2017年に東京大学が発表した研究で、この種に“味覚”を感じる能力があることが判明して、大きな話題になったんや。
植物の“味覚”…ってどういうことですか?


このヤブガラシ(薮枯らし)、名前通りの野蛮な習性の持ち主でな、何本ものつるを付近の樹に絡み付かせて、日照を奪うことで生計を立てている。ただ、複数のつるを一斉に動員して同じ標的にタックルをかまそうとすると、自分自身のつる同士が絡まって身動きが取れなくなるかもしれへんやろ。
これを防ぐために、ヤブガラシは巻きひげに備え付けられた感覚機構を使って、自分と同じ種のつるには高濃度で含まれている「シュウ酸化合物」を検知し、巻き付こうとしている物体が自身のつるなのか他の植物なのか識別するんや。
こうやって、“接触”をシグナルとして特定の化学物質の存在を認知する機能は、動物の世界においては“味覚”に該当する。
自分自身に絡み付かないように、自身のつるの味をしっかり覚えている、というわけですね…!か弱く見える巻きひげが、つるが接触した物体の正体を掴む“舌”となっているとは、よくできていますね。

意思ってなんだろう
結局、植物はどうやって世界を感じているんですか?彼らも、動物のように“意思”を持って生きているんですかね?

う〜ん、“意思”をどう定義するかによってその答えは変わってくるな。
動物の意思は、脳や脊髄、そして身体じゅうに張り巡らされた神経が外部からの情報を処理・伝達することによって構築される。一方で、植物は脳も神経も持たへんからな、解剖学的な観点から考えると彼らに意思が宿っているとは考えにくいのかもしれん。
でも、意思をその機能に基づいて「外部からの情報を編集して、自身の生存に有利な選択肢に結びつける能力」と定義することもできる。今日登場した植物たちは、皆この能力を持っているからな、その点から考えると“植物に意思はある”ということになる。


たしかに、“意思”って一体なんなのか、それすらもはっきりしてないですよね。人間中心的な視点で意思というものを勝手に定義して、それを植物の世界に当てはめるのもナンセンスな気がしますね。

科学の知見は、当然ながら人間の意思によって創り上げられる。それゆえに、私たちの意思そのものの正体を科学によって捉えることは非常に難しいんや。
“意思”と呼ばれるモノを扱う学問は、生態学から医学、心理学、法学まで多岐にわたるんやけど、「意思とはそもそも何なのか」という根本的な問いに対しては、決まった答えが存在しない。
私たちは、一体どうやって世界を感じてるんやろうな……。植物の世界にのめり込んでいくと、自分自身のことすら全然知らなかったことに気づかされるんちゃう?知らんけど。
- 《杉センセイまとめ》
- ①植物のからだの内部には、1日24時間のリズムを刻む時計遺伝子が内蔵されている。これを用いて昼夜の長さを計測することで、彼らは季節の変化を察知し、休眠したり、花を咲かせたりする。
- ②ネムノキの就眠運動も、体内時計によって司られた生理現象。植物の体内時計の研究は、数百年の時を経て人間の体内時計の発見につながり、現在は医学の分野で盛んに応用されている。
- ③ネナシカズラは、植物の枝葉を透過した遠赤色光の存在を察知することができる。彼らはこの能力を使って“植物の影”を追いかけ、健康な寄生先を探す。
- ④ヤブガラシは、つるの巻きひげで“味覚”を感じることができる。彼らは自分自身のつるの“味”を覚えていて、同種のつる同士で絡まってしまう事態を防いでいる。
- ⑤植物に意思があるのか?という問いに答えることは非常に難しい。なぜなら、意思の正体とは何なのか、まだよく分かっていないから。
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