杉センセイの生物図鑑、 知らんけど
# 14
タヌキ/イヌ科タヌキ属
本物って見たことある?
2022.6.7

最近は街中にいろんな動物が出現するようになりました。人がクマに襲われた、なんてニュースも見聞きします。一方で、クマだと思ったらタヌキだった!ということもよくあるみたいです。クマとタヌキ、大きさは全然違うので間違えないだろうと思えますが、生で見かける機会がないとわからないものなのかもしれません。そこで今回は、杉センセイにタヌキのことについて話を聞いてみることにしました。

写真・文:渡邉 智之

体型から分かる
タヌキの暮らし

こないだ杉センセイからキツネについて教えてもらった後、近所の河川敷にキツネがいないか探しに行ったんですよ。そしたらタヌキに出会いました!キツネじゃなかったけど、出会えて大興奮でしたよ。

それは良かったな。タヌキは漢字で書くと“獣へんに里”で「狸」。つまり昔から人里近くでよう見られた野生動物ということや。

今は見かける機会が少ないかもしれへんけど、某森のゲームには「たぬ〇ち」というタヌキキャラが登場したり、ジブリの作品にもタヌキが主役の作品があるやろ。それなのに、意外と知らないことが多いと思わへんか?

言われてみれば確かにそうですね…!じゃあ今日はタヌキについて教えてください!

まず、キツネのときと同じように体のつくりから見てみようか。タヌキの体型はどんなイメージ?

そうですね。ずんぐりむっくりって言葉がピッタリな体型ですかね。全体的に丸っこいイメージです。

冬のタヌキは冬毛のせいで丸っこく見えるんやけど、夏に見ると案外スラッとしてて、思い描くタヌキのイメージとは少し違うかもしれんな。特に仔ダヌキは思いのほか細く見えるで。とはいえキツネよりは足も尻尾も長くないな。そういえば、こないだ撮ってきた写真があるから見せたるわ。

仔ダヌキ

確かに思いのほかスラッとしていますね!この足や尻尾の長さもやはり彼らの暮らしに関係があるんですか?

その通り!キツネのスラッとした体型は走りやすくするためという話を前にしたけど、タヌキはキツネほど走るのが得意な体型ではない。その代わりに藪の中なんかを移動するのが得意な体型なんや。

なるほど。キツネのように足が長いと藪の中は進みにくそうですもんね。

例えば河川敷に暮らすキツネやタヌキを観察してみると、キツネは薮から出て開けた場所を移動することが多いのに対して、タヌキは藪の中を移動していることが多いんや。

足の長いキツネは開けた場所に出て、ネズミみたいに素早く動く生きものを追いかけて捕まえるけど、足の短いタヌキは地面の匂いを嗅ぎながら地面を歩いている虫やカエル、果実、動物の死骸なんかを食べとるんやで。体型の違いを見るだけでも、移動や狩りの仕方、いろんなことがわかるもんなんや。

同じ河川敷でもそれぞれの体型にあった使い方をしているんですね。

タヌキはその短めの足の長さを活かして側溝の中を通り道にしていることもあるで。君の家の近くの側溝もタヌキの通り道になっているかも知れへんな。

側溝の中を歩くタヌキ。

タヌキとアライグマの
違いは?

他にも体の特徴はあるんですか?

忘れてならへんのが彼らの模様やろう。歌舞伎の隈取のように目の周りが黒くなっとる。実はこの模様は個体ごとに違うから、そこで個体識別もできるんやで。

写真を見比べると黒の範囲とか違いますね!

タヌキによく間違えられる動物の中にアライグマがおるけど、顔や尻尾の模様が違うんや。よくタヌキの絵で尻尾がシマシマになっとるけど、あの尻尾だとアライグマになってしまうんやな~。わしはいつも見てモヤモヤするわ…。

そもそもタヌキとアライグマって同じ種類じゃないんですか?

タヌキはキツネと同じ犬の仲間や。アライグマは犬の仲間ではなくて、イヌやクマの祖先から別れた全く別の種なんやで。

それにタヌキは東アジア、アライグマはアメリカ大陸と、元々の分布も全く違う。元々英語圏にはタヌキがいないから、英語では「raccoon dog」(アライグマみたいな犬)って呼ばれとるしな。

こちらがアライグマ。

そんなにも違う生きものだったんですね!他にも違いがわかる特徴ってありますか?

タヌキは夫婦や親子の小さな群れを作って暮らしとるで。夫婦でそろって子育てもするし、子育て以外のときにも一緒におる。ちなみにキツネは、子育て以外は単独で暮らすから、その辺も彼らとの違いやな。

同じ犬の仲間でもそんな違いもあるんですね。

他にもタヌキの大切な特徴に「ため糞」をする習性があってな。いわゆるタヌキの公衆トイレで、複数の個体が一箇所に糞をするんや。その理由は個体同士のコミュニケーションのためとか、食べものの情報交換のためとか色々な説があるけど、はっきりした理由はわかってへん。

ため糞とタヌキ。

タヌキってみんなが知っている動物なのに、まだまだわかっていないこともあるんですね。

ネットで調べたら何でもわかる気でいるだけで、案外、世の中不思議だらけだからな。

ちなみにタヌキのため糞には種子を遠くに運んで、そこで種子が発芽して育つことで、植物の分布を広げる役割もあるみたいやで。ま、タヌキは食ってうんこしてるだけで、そんなこと考えてへんやろうけどな。

タヌキが意識していなくても結果的に他の生きものにも役立つことがあるんですね。他にも知られていない秘密があるんだろうな~!

そうやな。タヌキは人を化かすって昔から言うけど、本当にそんな力があるかもしれへんな、知らんけど。

《杉センセイまとめ》
・タヌキの体型は藪や側溝の中などの狭い場所を移動するのに適したつくりをしている
・タヌキは犬の仲間。アライグマとは尻尾も顔の模様も全然違う
・共同トイレ(ため糞)をもっていて、植物の分布拡大にも一役買っている

●Information
本記事のライターが写真絵本を発売します!

『きみの町にもきっといる。となりのホンドギツネ』
写真・文:渡邉智之
出版社:文一総合出版
定価:1,980円(税込)

著者のコメント:
以前、この連載で紹介したホンドギツネの日本初の写真絵本が出版されます!人の身近な場所に住む彼らの暮らしに迫る一冊です。小学校低学年から大人まで幅広い年代に楽しんでいただけると思います。この写真絵本を読んで、あなたのそばで暮らすホンドギツネを、ぜひ探してみてくださいね。

▼詳細はこちら
https://www.bun-ichi.co.jp/tabid/57/pdid/978-4-8299-9017-9/Default.aspx

渡邉 智之 (わたなべ・ともゆき)
「自然と人をつなぐ」写真家。ニコンカレッジ・名古屋校の講師。岐阜県在住。人の身近に暮らしつつも多くの人が知らないキツネやタヌキなどの生態や人との関わりを撮影。また養蜂やヘボ追いなどの自然と関わる生業・文化も撮影している。?現代社会では見えにくい「自然とのつながり」を見える化することを目指し日々奮闘中。