春先から初夏にかけて、オレンジ色の実をつけるビワ。庭先に植えたという人も多いかもしれません。杉センセイに聞いてみると、ビワと日本人の関係は1500年もの間、続いているのだと言います。さて、私たちはどのようにビワと付き合ってきたのでしょうか。
小学生のころ
楽しみだった通学路のビワ
ちょっと前、柿についてセンセイに聞いたじゃないですか。柿っていろんな家の庭先に生えていて馴染みがあるんですけど、もう一つ懐かしい思い出の木がありました。
なんや、その木っちゅうのは?
ビワです!小学校のころ、通学路に生えていたビワの木が時期になるとたくさん実をつけるんです。だから帰り道によくもいで、食べながら帰っていました。家に着くころは手がベタベタで(笑)
いまでもそんな子がおるんやな~。なんか微笑ましいわ。ビワは関東から南の地域に、よく生えているんや。気温が低いところはあまり得意ではなくてな。氷点下になるような地域では、上手く育たんやろうな。
確かに、葉っぱも厚くて堅めだったような気がします。
そうやな、ビワは照葉樹というグループの仲間で、このグループは温暖な地域を好むんや。あんまり知られてないけど、冬に白い小さな花をつけるんやで。そして、6月ごろの初夏に実をつける。果実は人間だけでなくて、鳥にも好まれているんや。
人間も鳥も考えることは同じですね。そういえばビワって、時期になるとたまにスーパーでも見かけますよね。
せやな。産地としては、長崎が一番多く生産していてシェアは3割くらい。次いで、千葉県が2割弱のシェアを持っとる。ちなみに、長崎では「茂木」。千葉では「田中」っちゅう品種がよく育てられている。
なんだか人の名前みたいですね!
茂木は地名だけど、田中は植物学者の名前やで。庭先にまいて、発見したのが田中さんゆうらしいわ。
今後、スーパーで千葉産のビワを見つけたら「よぉ!田中じゃん」って、親近感湧いちゃいますね(笑)
店員さんに怪しまれんくらいにしとけや。
「琵琶」が先か?「枇杷」が先か?
語源にまつわる不思議
ビワ(枇杷)は語源が面白くて、楽器の「琵琶」と関係がある。互いに似ているから呼び名をもらっているんやけど、先に名づけられたのはどっちやと思う?
「鶏が先か、卵が先か?」みたいなことですよね。う~ん?
答えは楽器の「琵琶」が先や。ビインとはねて、パアンとかきならす音色から「ビワ」と呼ばれるようになったそうや。一方果物の方は、「楽器のビワ」に形が似ているということでビワと呼ばれ、木に実るので木編の「枇杷」。楽器は琴の一種やから部首をそろえて「琵琶」と書くようになった。
なるほど、それで似たような漢字を使っているんですね。ちなみに、琵琶に使われる木材は枇杷なんですか?
そんなことはないな。奈良の正倉院に保管されとる「螺鈿紫檀五弦琵琶」(らでんしたんのごげんびわ)はシオジやタモでできとるらしい。枇杷はむっちゃ強い材やから、枇杷で琵琶を作ったら音色も堅くなってしまいそうやな。ちなみに枇杷は強くて衝撃に強いから、木刀・なぎなた・杖に使われとることが多いな。
バランスのよい栄養素に隠れる毒!?
柿の話のときも栄養豊富やでって教えたけど、枇杷も負けないくらい豊富な栄養素を含んでいるんや。
そうなんですね、どんな栄養素が多いんですか?
ビワの果実には、ビタミンB・C群、カリウムなどのミネラル類、リンゴ酸やクエン酸などの有機酸、ポリフェノールの一種であるクロロゲン酸などを含んどる。要は老化を防ぐ「抗酸化作用」があるっちゅうこと。
いいですね!柿はその葉にも使い道がありましたけど、枇杷はどうなんですか?
しっかり覚えとるようやな!実は、枇杷の葉にも面白い使い道があるんや。枇杷の葉は古くから民間療法に使われとって、葉をあぶって患部に当てたり、ビワの葉にお灸をすえたりする療法が中国から伝来しとる。1500年も前のことらしいんやけど、全国のお寺で坊さんが施術して信頼を集めていたという話や。今でもその方法は「ビワ葉温熱療法」として行われとる。
お坊さんってお経を唱えるだけじゃなくて、医療的な知識も持っていたんですね。民間療法だからといって、侮れないですね。
そうなんや。ただ、当然注意も必要なんやで!特に「枇杷のタネ粉末には、ガンを治す効果がある」という説には注意が必要や。
なにか不都合でもあるんですか?
毒性が報告されとって、農林水産省が注意を促しとる。枇杷の種子や未熟な果実には、「アミグダリン」や「プルナシン」という天然の有害物質が含まれていて、総称して「シアン化合物」って呼ばれとる。
なんだか難しいですけど、毒があるんですね?
せや!簡単にいうと、漫画で見る名探偵の少年がよくペロッと舐めてる「青酸カリ」と同じ成分や。あれで具合悪くならへんのはあの少年の特権やからな。わしらはそうはいかんで!
それならわかります!結構、ヤバいやつですね。
ちなみに青梅も熟していない段階では、シアン化合物を高濃度に含んでいる。だからそのまま食べるのは良くないんや。でも、梅干しや梅酒・梅漬けに加工をすることでシアン化合物が分解して食べられるようになっているんや。
あぁ、工夫して食べているものもあるんですね。そう聞くと、判断に迷いますね。
やっぱり毒性が強い分、効き目がはっきりと出やすいのかもしれんけど、医者やないもんで詳しいことはあんまり言えんな。
やっぱり「自然界を甘く見ると死ぬぞ!」っていうのは、よく言いますしね。
せやな「天然物は安全だ」という思い込みはやっぱり危険やね。間違った種類のキノコや山菜を食べて亡くなる人もおるし。科学的な裏づけも調べて、心配ならお医者さんにも相談した方が安心や。今回ばかりは「知らんけど」では済まされへんな。
- 《杉センセイのまとめ》
- ・果実の「枇杷」は楽器の「琵琶」がもとになって名づけられた
- ・枇杷の木はとても強靭なため、木刀などに使われている
- ・枇杷の果実は老化を防ぐ抗酸化作用を持つ
- ・枇杷のタネには有毒成分があるので、注意が必要!
次回の杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!
- ●参考資料
- ・『樹木と木材の図鑑 日本の有用種101』著:西川栄明/監修:小泉章夫/創元社
- ・農林水産省HP
- https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/foodpoisoning/naturaltoxin/loquat_kernels.html
- ・わかさ生活HP
- https://himitsu.wakasa.jp/contents/loquat/
- ・南房総いいとこどりHP
- https://mboso-etoko.jp/cec/data/biwa3/biwa3.html