家の庭先などで柿を目にする季節になりました。普段は食べてばかりの柿ですが、昔から葉や木もよく使われているのだそう。柿の木にまつわる歴史や文化を杉センセイに教えてもらうと、柿と日本人の間にある強い関係が見えてきました。
万病に効く!?
古くから伝わる柿のパワー
柿の季節も、もう少しで終わりそうやけど柿食っとるか?
食べてますよ。僕はシャキシャキの柿が好みですね。
なるほどな~。最近の若者にはシャキシャキした柿の方が人気らしいな。わしは少し熟れ始めてきたぐらいが甘くて好きなんやけどな。シャキシャキが好きなら良い柿の保管方法を教えたるわ。
柿の保管方法といっても、冷蔵庫に入れるくらいじゃないんですか?
まずは、キッチンペーパーを四角に畳んで、水にぬらす。そんで柿のヘタにくっつける。そしてラップに包んで冷蔵庫(チルド)に入れておくんや。柿はヘタが乾くと柔らかくなってまうもんで、この方法だと1ヵ月近く硬さを保ったまま保存できるで。
そんな裏技があったんですね。柿をおいしく食べられる時期が長くなりそうでうれしいですね。
柿のおいしさはDNAが覚えてるんやろな。昔の偉人にも「柿」って文字が入っている人がおるくらい身近で大事な果実だったようやからな。
ほー、そうなんですね。どれくらい前から食べられていたんですか?
史実によると甘柿は1214年の鎌倉時代以降やな。その時に渋柿が突然変異をおこして甘柿になったみたいなんや。せやけど突然変異だから、遺伝子が渋柿よりも弱いねん。せやから、新品種を育て続けるのが難しい。当時、甘柿はあまり食べんくて、渋柿を干柿にして食べるのが一般的だったみたいや。
突然変異だったんですね。それは知りませんでした。
そうや。だから甘柿のタネを植えても実るのは、渋柿やで!
え~、よく給食で食べた柿のタネを植えてましたけど、渋柿になっちゃうんですね。なんか少し残念ですね。
せやけど、干柿にすればおいしく食べられるで、心配せんとき。柿は昔から「柿が赤くなると医者が青くなる」ということわざがあるほど、栄養が豊富やからね。これから風邪もひきやすい季節やろから、柿食べてな。
郷土料理から伝わる
柿の身近さと食文化
最近の柿は果実を食べるだけになっとるけど、昔はいろんな使われ方をしたんや。まずは葉っぱの使い方から教えよか。まずは押し寿司やな。「柿の葉寿司」って聞いたことあるか?
なんとなくは…。
そか~。奈良県の吉野地域を中心とした寿司なんやけども。じゃ他の地域の押し寿司はなんか知っとるか?
富山のマス寿司は知ってますよ。駅弁を買う時は決まってそれでしたね。
せやな、一番有名な押し寿司かもしれんな。あれは笹の葉が使われとるな。日本には、他にも押し寿司や郷土寿司の文化がめっちゃたくさんあって、それぞれの地域で根づいてるねん。新潟の上越地域や長野県飯山地域の「笹寿司」とか飛騨高山地域では「朴葉寿司」なんかもあるんや。ほいで、この笹寿司と朴葉寿司と柿の葉寿司には、ある共通点があるんやけど何か気づかんか?
えーっと、ホオノキとカキとササか~。成分とかはわからないですけど、抗菌作用があるとかですか?
おー、正解や!あとは、全部それぞれの地域でよくとれる葉っぱなんや。昔の人は身の回りの樹木や葉にどんな効果があるのか経験的に知っとったんやな。
なるほど~。でも、柿の葉寿司の奈良県も笹寿司の長野も朴葉寿司の飛騨高山だって海なし県ですよね?なんで“寿司”が盛んになったんですか?
気になるよな。まず、寿司といっても魚を使っていない寿司もあってな。長野の「笹寿司」、飛騨高山の「朴葉寿司」は酢飯に山菜やミョウガを加えたり、ワラビやゼンマイにショウガを加えたりしたもので、魚を使わないこともあるんや。でも、柿の葉寿司だけは魚、特に「鯖」がないと成立せえへん。
そうなんですね、柿の葉寿司は鯖か~。なんで鯖だったんですか?
それは、「鯖街道」の歴史が関係しとる。昔、吉野地域には熊野から都に向かって鯖を売り歩く行商人がぎょうさんいて、その往来を「鯖街道」と呼んでいたんや。
絹をたくさん運んでいたシルクロードと同じですね。
そして、吉野地域はちょうどその中継地点。山村の人にとっては、生魚は貴重だったもんで、長く食べられるように、身近にあった柿の葉で包んで押し寿司にして保存したんや。当時は「ハレの日」の食べ物だったらしいで。
なるほど、和歌山・奈良は柿の生産量も多いですもんね!昔から身近だったんですね。
そういうこっちゃ。柿の葉はほんとに万能で、包むだけじゃなく「柿の葉茶」としてお茶も淹れることができる。ノンカフェインで味もさっぱりしとるそうや。
お茶までつくれるんですね!なんだか、柿のフルコース料理ができそうですね。
栄養満点やな!
伐ってみないとわからない
幻の黒い柿
これまで食べ物の話ばっかりやったけど、柿は他にも木材として重宝されているんや。
そうなんですね。柿って果実にばかり目がいって、あまり木として見てなかったですね。
普通はそうやろな。柿が木材として重宝されてるのは、その色が特徴的だからなんや。何色やと思う?
緑とかですか?
それも珍しいな!実は緑の木もあんねんけど、それはまた次の機会に解説しようか。答えは「黒」や。材が黒い柿は“黒柿”と呼ばれていて、貴重。すべての柿が黒いわけではなくて、黒い柿は1万本に1本と言われている。しかも、外見だけでは、黒さはわからんから伐ってみてのお楽しみや。木材で黒を表現するのはなかなか難しくてな、特に木工や手工芸なんかに良く使われとるんや。奈良の正倉院にも黒柿で作られたものが納められていて、古くから使われていたことがよくわかる。
黒でしたか~。でも黒いとなんか良いことあるんですか?
木材で聞かれると困る質問の一つかもしれんな。「節がなくて何が良いんですか」とかな(笑)。まぁ、それは置いておいて。水墨画みたいに黒の濃淡でいろんな表情が生まれることが、良いところやと思うな。柿の木ってまっすぐ生えとらんから黒い部分にも揺らぎが生まれるんや。それが味になって、一つのアートのように見えてくる。
自然の造形なんですね。
でもな、黒柿で良い品をつくるのは、職人の腕がないとできない。黒い部分と白い部分で木の成分が違うもんで、乾燥のスピードも違うし、堅さも違う。いろんな工夫ができんと製品にならん。やっと上手くいくと、自然の造形美を拝めるようになるんや。
へぇ~、それは実際に工房で見てみたいですね。
ほんま。黒柿の良いところって自然物を活かす過程の面白さなんやで~。知らんけど。
- 《杉センセイまとめ》
- ・甘柿は突然変異で誕生した
- ・身近な柿の葉を使った押し寿司「柿の葉寿司」がある
- ・黒を表現できる貴重な木材「黒柿」としても使われる
私たちの身近にある柿の木。現在は果実を食べるくらいですが、柿の葉に抗菌作用があることや貴重な木材(黒柿)として使われていることもわかりました。郷土の歴史や食事には、古めかしいだけではない日本人と自然との関係性が表れているのですね。みなさんの身の回りには、どんな郷土料理や歴史があるのでしょうか?気にしてみると、何か見えてくることもありそうです。
次回の杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!
- 【参考資料】
- 西川栄明(2016)『樹木と木材の図鑑 日本の有用種101』小泉章夫監修/創元社
- 富有柿.com
- http://www.fuyugaki.com/
- 奈良県公式ホームページ
- https://www.pref.nara.jp/item/210107.htm