杉センセイの生物図鑑、 知らんけど
# 9
クスノキ/クスノキ科クスノキ属
トトロが住んでる木の正体
2021.10.18
photo by Japanexperterna.se

普段、私たちが何気なく目にしている景色や植物には、知らないことがたくさんあります。例えば「クスノキ」は街角で見かけることの多い樹木ですが、トトロが住んでいる木として描かれているように、古くから日本人の暮らしに欠かせない存在として重宝されてきました。トトロに出会えるのは子どもの特権なので、大人の我々はクスノキの正体に迫ってみましょう。杉センセイお願いします!

文:高岸 昌平

クスノキって
身近な素材なの?

この間、またテレビで『となりのトトロ』やってたんですよ。もうみんな観たことありますよね?毎年、数回放送されてる印象です。

いやいや、なんだかんだ見入ってまうやんか!それにジブリの映画には、自然と人とのかかわりを読み取ることもできるんや。映画のちょっとした仕掛けに気付けるようになると、見方変わるで。トトロはな、大きな木が出てくるやろ。あれ、クスノキなんや。

photo by hirohiro akabane

へ~。でも、クスノキってなんですか?歴史でそんな人の名前を聞いた気がしますけど…。

そうか、今の若いもんはクスノキに馴染みないか~。昔はいろんなもんに使てたんやけどな。有名なのは、「セルロイド」と「樟脳」(しょうのう)やな。

え?聞いたことない…。本当に身の回りで使うほど、馴染みがあるんですか?

樟脳とカンフル
天然の防虫効果

一番有名な、防虫剤から行こか。洋服タンスに防虫剤を入れるやんか、そこに樟脳が使われとるんや。

天然樟脳の効果を活かした衣類を守るアイテムも登場している。写真はKUSU HANDMADEのクスノキ製品。(詳しくはこちら

あ~、ホームセンターで売ってるあの防虫剤ですね。たまにCMでも見ますよね。

ちょっとちゃうな。ホームセンターで売っているものもあるかもしれんけど、安価な商品のほとんどは、樟脳と似た成分を持つ「ナフタリン」が主な成分になっているんや。ナフタリンは石油から生成された物質で安全性を不安視する声も多い。臭いがキツすぎることもあるみたいやな。それに比べて、クスノキから作られる樟脳は天然の防虫剤で安心っちゅうわけや。

なるほど、それにしてもなんで木材の成分で防虫できるんですか?

クスノキはハーブ系のスーッとした臭いがするねん。その香りには「カンフル」という成分が含まれとって、虫はそれを刺激的に感じて避けるんや。ムカデやゴキブリ、ダニなんかにも効果があるらしいで。

人体に無害な防虫剤って良いですね!一人暮らしをしていて、初めてゴキブリが出たときに防虫剤を買いに行きましたけど、商品の裏を見ると、なんだか得体のしれない成分の名前ばかりで正直困惑してました。

でも天然素材とはいえ樟脳も口には入れんようにな。小さい子がいるとこは注意や。

にしても、樟脳=カンフルのスーッとした臭いってどんな感じなんですか?いまいちピンとこないんですけど。

リップクリームとかボディクリームに配合されとることもあるな。メントールと一緒に使われて、爽やかな香りになっとるやろ!

それならなんとなくわかります!

樟脳は鎮痛効果もあるから、医薬品としてもピッタリなんや。よく「この政策は経済へのカンフル剤だ!」みたいな言い回し聞くやろ?あの「カンフル剤」というのは樟脳=カンフルを使った注射のことを意味している。心不全に効く「強心剤」にカンフルが使われとって、心臓が血液を送り出す機能を助けてくれる。それが慣用句的に残って、経済やビジネス界隈で「回復」とか「起死回生」みたいな意味で使われるようになったんや。

そうなんですね!カンフルってなんとなく聞いたことあるなと思ってたんですけど、「カンフル剤」で聞いていたんですね。

そうや。そしたらもう少し時代をさかのぼって、クスノキの話をしよか。

世界初の人工プラスチック
セルロイド

一番初めに樟脳を使い出したのは、6世紀頃のアラビア人だったと言われてる。薬用や防腐剤などとして使われとったらしい。かつての日本でも樟脳は、原油に値するほどの資源だったんや。

昔からその効能を認められていたんですね。

日本でも明治時代から各地でさかんに植えられるようになってな。昭和37年(1962年)までは、塩や煙草と同じように「専売制度」が設けられた。規制がかかるほど、大事な役割を果たしていたんやろな。そうそう、クスノキは世界初の人工プラスチックづくりにも関係しているんや。

木からプラスチックですか?昭和の時代に?

カメラのフィルムにも使われた。

「セルロイド」ってゆうてな。クスノキに含まれるカンフルとニトロセルロースを合成してできる物質で、熱で軟らかくして形が作れる素材だった。今でいうところのプラスチックと同じ。当時はビリヤードや卓球の球、カメラのフィルムとして使われてきたんや。家の押し入れの中探したら残っとるかもしれんな。

そうだったんですね!そう考えるとクスノキって身近に感じますね。

せやろ!セルロイドって面白い素材でな、プラスチックでありながら吸湿性が少しあって肌ざわりがいいんや。唯一の弱点は、燃えやすいことで170度で自然発火してしまう。保管方法に気を遣う、企業にとっては使いにくいやろな。

なんだか不思議な素材ですね。一回触ってみたくなりました!

何言うとんのや、お前が欠けてるメガネのフレームたぶんセルロイドやで!

えっ!そうなんですか?このフレームデザインとか色が独特で気に入ったんですけど…。

セルロイドは加工がしやすくて弾力性があってな。しかも、使える色が多いもんで他とは違うデザインが多いんや。愛用者が一定数おる理由やね。

セルロイドは独特の風合い、色彩、弾力を持つ。プロのギタリストがセルロイドのピックを使うことも珍しくない。

街の中でクスノキを
見つける方法

ようやくクスノキにも親しみを感じてくれたみたいやから、最後にクスノキの街中での見つけ方を教えとこか。

お願いします!センセイ。

まずクスノキの名前はな、クサイキ(臭い木)とかクスリノキ(薬の木)から来ていると考えられている。まぁ、さっき話した通り色んな効能を持っているから想像はできるな。枝葉をちぎるとハッカのような香りを放つんや。ちぎって香りを確かめてみるとええよ。葉脈もはっきりと見えるはずや。でも、むやみに葉をむしらんようにな。

熱田神宮(愛知県)の敷地内には7本の樟の巨木がある。
photo by Bong Grit

あとはな、クスノキは育つと大木になる。だから神社仏閣の御神木だったり、天然記念物に指定されたりすることも多いんや。樹齢数百年を超えるクスノキも多いから探してみるといい。

そうですね、最近は遠出もできないので近場を散策してみることにします!

そうやな、最近はコロナやしな。カンフル剤でも打てばコロナにも打ち勝てるやろ。知らんけど。

杉センセイのまとめ
●スーッとした臭いが特徴のクスノキ
●クスノキから採れる樟脳=カンフルは防虫効果がある
●カンフルは世界初の人工プラスチック、セルロイドの素材

神社や公園など街の中に意外と生息しているクスノキ。街に近いはずの樹木にも知らないことがたくさんあります。これを機会に生活にクスノキやカンフルを取り入れてみるのも良いかもしれません。

次回の杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!

【参考資料】
西川栄明(2016)『樹木と木材の図鑑 日本の有用種101』小泉章夫監修,創元社
https://i-maker.jp/blog/celluloid-8946.html
高岸 昌平 (たかぎし・しょうへい)
さいたま生まれさいたま育ち。木材業界の現場のことが知りたくて大学を休学。一人旅が好きでロードバイクひとつでどこでも旅をする。旅をする中で自然の中を走り回り、森林の魅力と現地の方々のやさしさに触れる。現在は岐阜県の森の中を開拓中。