冬というと葉が落ちて森の中は寂しい色合いのイメージがあるでしょうか。しかし、外見にとらわれてはいけません。落葉した樹木でも、その内側はカラフルな世界が広がっています。その代表格は「キハダ(黄肌)」です。読んで字のごとく木肌が黄色いわけですが、なぜそうした色を持つようになったのか、冷静に考えると不思議じゃないですか?そこのところについて、今日も杉センセイに教えてもらいましょう!
杉センセイ
キハダで布を染める
最近は密な環境を避けて森林を散策する機会が増えたんですけど、このあいだ黄色く光る木を見つけたんです!びっくりして調べてみたら「キハダ」だとわかりました。漢字の名前もそのままでおもしろいですね。
そうそう。一番外側のかたい樹皮をめくると、「内樹皮」っていう部分が見えるんやけど、そこが鮮やかな黄色になっとるねんな。「黄色い肌」から「キハダ」って、ほんまにそのまま。日本では北海道から九州にかけて生えとる落葉樹やから、わりかしどこでも見かけることができると思うよ。
へえ~そうなんですね。そもそもキハダって、なんでこんなに黄色いんですか?
この黄色は「ベルベリン」っていう色素が木の中に含まれとるからやねん。それにベルベリンには健胃・消炎作用があって、黄色い樹皮を口に入れるとめっちゃ苦い。まさに「良薬は口に苦し」で、製薬業界では「黄柏(おうばく)」として出回っていて、正露丸にも配合されとるそうやで。
そういえば、木こりのおじさんはお腹の調子が悪いときにキハダの皮をかじるって話を聞いたことがあります!
よお知っとるね。昔から身近な薬として使われとったみたいやね。ちなみに海外ではキハダとホオノキから抽出されたエキスを混ぜ合わせたサプリメントも開発されてるらしいで。ストレスを和らげる効果があんねんて。あとは打撲や捻挫したところに塗ったら効くとも言われとる。
ちょっと怪しげだけど、キハダなら効き目ありそう!薬以外で使われることはあります?
●キハダの実を使った「キハダ飴」の取材記事はこちら
かつてアイヌの人たちは、キハダの果実(シケレペ)を料理によく入れてつことったんやって。キハダはみかんの仲間やから、柑橘系の匂いがするねんな。やけど実もめっちゃ苦いらしい。
キハダはとにかく苦いってことはよくわかりました(笑)
その他にも、黄色の美しい色合いを活かして染料にも使われとったみたい。わしもこの前キハダの樹皮を手に入れたから自分で染めてみたで!
わぁ、すごい!どうやって染めたんですか?
キハダの樹皮を熱湯で煮出して、そこに布を入れて一緒に煮る。そのあとミョウバンで色止めをしたんや。
へえ~!意外と簡単。私でもできそうですね!
そうそう。意外と簡単にできるねん。キハダ以外の植物でも染められるんやで。自然の色を保存するみたいで楽しいで!
奇数羽状複葉を目印に
森でキハダを探し出せ!
私もやってみたい!またキハダを探しに森へ行ってみようと思います。キハダの木を見分けるポイントって何かあります?
キハダは山地の沢沿いの湿った場所によく生えてるで。パッと見ただけやと、黄色くないからわかりにくいかもしれんけど、ゴツゴツした樹皮をしてて、“奇数羽状複葉”(きすううじょうふくよう)っていう葉っぱの形が特徴的やから見つけやすいと思うな。
きすううじょう…なんでしたっけ?
“きすううじょうふくよう”ね。樹木の葉っぱの形は「単葉(たんよう)」と「複葉(ふくよう)」の大きく2種類に分けられて、「単葉」はもっとも一般的な葉っぱの形で、見た目そのまま葉っぱ1枚のもの。「複葉」は、小葉(しょうよう)と呼ばれる細かい葉っぱで構成されとって、見た目としては複数枚の葉が集まっとるんやけど、1枚の葉っぱとして見なされる。
小さい葉っぱがいくつか集まった状態で、1枚の葉として数えられるってことですか?
そのとおり!春になって葉っぱが生えてきたら奇数羽状複葉を目印にキハダを探してみたらおもろいかもしれへんな。知らんけど。
杉センセイのまとめ
●キハダの黄色い成分は「ベルベリン」
●胃腸薬として使われている
●アイヌの人たちも染料として使っていた
現代の私たちから見てもきれいだと感じるように、昔の人もキハダの美しい黄色を目にして、何かに利用できないかと知恵を絞ったのかもしれないですね。そうした積み重ねが今に続いています。
そんなこんなで今回はここまで。次回の杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!
【参考資料】
林将之『葉っぱで見わけ五感で楽しむ 樹木図鑑』
林将之『葉っぱはなぜこんな形なのか?』
北海道立林業試験場『森林で遊ぼうシリーズ1 おもしろい木の話』