杉センセイの生物図鑑、 知らんけど
# 4
ツキノワグマ/クマ科クマ属
クマと自然と、人間と。
2020.8.17
photo by lasta29

今回はちょっと毛色を変えて、自然界で植物と共に生きている動物に焦点を当ててみます。ふわふわの毛と丸い耳が特徴で、ぬいぐるみやキャラクターのモチーフとして親しまれているクマ。ですが実際のクマは”日本に生息する哺乳類で最強”と言われるほど、迫力満点の動物です。今回は本州に生息するツキノワグマについて、杉センセイに話を聞きました。

文:鈴木 陽

食べるだけで儲けもん
ツキノワグマの食事

クマと聞くと、どんなイメージがあるかな?

ハイっ。遭遇した時は決して背を向けず、目を合わせながら後退して逃げます!遭遇しないためには、クマ避けの鈴が効果的です!

photo by Hajime NAKANO
知床に生息するヒグマ。

なんや、よぉ知っとるね。まさか遭遇したことはあれへんやろうけど…。日本には、ツキノワグマとエゾヒグマの2種類が生息しとってな。このうち木の実を好んで食べるのはツキノワグマやねん。エゾヒグマは魚や動物を主に食べる。「木彫りの熊」のイメージやな。ちなみに、エゾヒグマは凶暴で、日本の生態系の頂点に君臨してると言われとるで。

生態系…。以前も教えてもらいましたね。

おっ、よぉ覚えとったね。前に桜について話した時にクマのことも説明したな。少し振り返ってみようか。クマは食べたものが体に残る時間が比較的長くて、活動範囲も広いから、植物の種を運ぶにはうってつけやねん。ツキノワグマが桜の実を好んで食べや、活発に移動する=種を運ぶことで、桜の種を散布させる役目を果たしとる。

そもそも、どうして種を散布させる必要があるんでしたっけ?

それは、植物が途絶えず生き残るため。同じ植物が1か所に集中して生息しとったら、火事でも起きた場合に全滅してまうやろ?ようはリスク分散やわ。あとは、環境の変化があって生息しづらくなった場合、競争相手が少ない新しい環境を求めて種を運ぶっちゅう意味もあんで。

なるほど~。クマにとっては好きなものを食べているだけなのに、自然界の役に立っているなんて、一石二鳥ですね。羨ましいなあ。そういえばツキノワグマって、実を一粒ずつ手で取って食べるんですかね?それともなってる実にワイルドにかぶりつくんでしょうか?

これがなかなかおもろいねん。地上に落ちてきた木の実ももちろん食べるけど、ツキノワグマは自ら木に登っていって、実のついた枝をへし折って実を食べんねんで。

photo by Hiro

えっ、そんな高いところまで登るんですか!? 木が折れちゃいそう。

ツキノワグマがこうやって木に登って実を食べるのは、木に実が大量になっとる場合か、凶作で木の実が少ないときやと言われとる。枝を折って枝についた実を食べたら、食べ終わった枝をおしりに敷くねんて知らんけど。ほんで、食事し終わったあとにはこんな巣みたいなもんができるちゅうワケや。これは「クマ棚」と呼ばれとる。どないなもんか気になるやろ?ネット検索してみると画像がようさん出てくるから調べてみるとええで。

(「クマ棚」で検索中)へえ~こんなふうにクマが食事した跡が残るんですね~。この食事の仕方も、何か植物にいいことがあったりするんでしょうか?

鋭いな。こうやって実のなる枝を折って食事をすることで、枝の密度が減って、その隙間から日の光が差し込むねん。光が木の下まで届くことで、ほかの植物がエネルギーをもうて育つことができる。枝葉が密集しとると、地表に落ちた種が新たな芽を出そうとしても、光が届かず成長できひんねん。

なるほど、いい感じに枝を間引いてくれるんですね。

枝葉のない空間のことを専門用語で「ギャップ」と呼ぶけど、クマ棚の形成によってできるギャップは、自然形成されるギャップよりも面積が大きうて、ようけ光を通すことができんねんで。ちなみに自然形成っちゅうのは、木が枯れたり、台風などで木が倒れたりしてギャップができるってこと。

そうなんですね。ツキノワグマにとって大切な食事は、自然にとっても大事な役割があるんですね。そんな素敵な関係性なのに、どうしてクマは人里に降りてきてしまうんでしょうか?

主食の木の実が凶作のときに、食べもんを求めて降りてきてしまうっちゅうこともあるけど、山村地域の過疎化や高齢化が進んで森林の手入れが減ったことで、人が山に入る機会が減って、クマの警戒心が薄れとるんやろうなあ。

人の手で山を守っていくということが、野生動物との共存に繋がるかもしれないですね。私たちにできることはなんだろう…。

【参考】
花咲かクマさん:ツキノワグマは野生のサクラのタネを高い標高へ運んでいた/森林総合研究所
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2016/20160427-01/index.html
ツキノワグマは木を見て森も見ていた ~クマが木に登ってドングリを食べる条件~/森林総合研究所
https://www.ffpri.affrc.go.jp/press/2018/20180607/index.html
ツキノワグマの意外な役割とは? ~ただの有害獣とは言わせない~/夢ナビ
https://yumenavi.info/lecture.aspx?GNKCD=g005883
クマに注意!-思わぬ事故をさけよう-
https://www.env.go.jp/nature/choju/docs/docs5-4a/kids/p6-11.pdf#search=’%E3%83%84%E3%82%AD%E3%83%8E%E3%83%AF%E3%82%B0%E3%83%9E+%E7%94%9F%E6%85%8B%E7%B3%BB’

杉センセイのまとめ
●ツキノワグマは木の実が好き。エゾヒグマはやっぱり鮭が好き
●ツキノワグマの食事が、植物の繁栄に一役買っている
●森を手入れしていくことが、クマとの共存の第1歩かも

自然との関係性という視点からツキノワグマのことを知り、生態系の頂点という影響力の大きい動物だからこそ、植物の繁栄・成長にも一役買っているのだなと感じました。山とクマと人がバランス良く共存していける道を模索していきたいですね。

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鈴木 陽 (すずき・みなみ)
「ただいま熊が出没しています」という町内放送が流れる、岐阜の田舎出身。普段は「森のわくわくの庭」をはじめとする施設の運営管理を担当。hibi-kiでは朗読や記事の執筆などでじわじわと参加中。推し事も忙しい/いつでも眠れる/ラーメン巡り