春といえば、桜に次いで藤棚の鑑賞も人気ですよね。万葉集には藤を詠んだ歌が二十六首あり、歌の中では“藤波”と表現されることが多いと言われています。たくさんの藤の花がふさふさと垂れ下がり、風で揺れる様を、“寄せては返す波”に例えたのでしょう。優雅でやわらかい印象を与える藤の花は、長年日本人に愛されているんですね。でも、まだ知らないことがたくさんありそうです。杉センセイ、藤のこともっと教えてください!
鮮やかな紫の花を咲かせる藤
実はワイルドな一面も
ねえ杉センセイ、藤の花はマメ科の植物って聞いたんですけど本当ですか?
せやで。正確には「マメ科フジ属」っちゅー分類や。秋になると、さやえんどうみたいな実がなんねんで。まさに“マメ”がなるわけやな。実は食べれんが、花は天ぷらにして食べるとウマいらしいで、知らんけど。ちなみに藤という字は「上にのぼる植物」ちゅう意味を持つ漢字やで。
上にのぼる…?あ、つるだから?
そういうことや。藤はつる性の植物やから自立することができず、ほかの樹木や物体を支えにして成長すんねんで。ちなみに、あれでも立派な木の仲間なんや。それとな、つる性の植物の巻き付く方向は、遺伝的に決まっとんねん。藤の場合は、種類によって“右巻き”のものと“左巻き”のものがあってな。フジが左巻きで、ヤマフジが右巻きと言われとる。つるがアルファベットのZのように巻いとるのが左巻き、Sのように巻いとるのが右巻きやで。間違えへんように。
へえ~。藤でも種類によって巻き方が違うんですね。知らなかったなあ。
学校や公園によくある藤棚は、つるの性質を利用して作られてんねん。藤の花が下向きにきれいに咲いて、人々が藤の花を見上げて観賞できるよう、うまいこと調整されとるわけやね。ちなみに、藤棚の歴史は古く、元禄時代(1700年頃)まで遡ると言われとるで。日本髪の飾りにも使われとるんや。日本最古の歌集である万葉集でも、女性の優美な姿を藤に例えた歌が存在するくらいやから、藤の花は日本人に古くから観賞されてきた花と言えるわな。
じゃあ、野生の藤はどうやって生えているのですか?
野生の藤はなかなかワイルドやねんな~。近くに生えてるほかの木に思いっきり巻き付きながら、日光を浴びるためにぐんぐん伸びる。東京都の日の出町には樹齢400年と言われる野生の大藤があんで。ちなみに、この藤は“大久野フジ”と呼ばれてて、東京都の天然記念物に指定されとんねんで。まあ、近くの山にも野生の藤はようさんあるけどな。この時期は紫色に染まっとる箇所を探せば、すぐ見つけられんで。
お~!山が華やかに見えますね~。
写真ではよう見えへんけど、森に生えとる大木をへし折るぐらいにつるが巻き付いとるものもあるからな。せやから林業にとっては、藤は厄介者なんや。スギやヒノキの葉っぱが受け取る光を横取りし、巻き付いた木の成長を妨げるし、枯らしてまうこともあんねんで。一方で、藤のつるをつこた“かご細工”や、つるの繊維で作った“藤布”とか、藤のつるはわしらの暮らしの様々なシーンで使われてきたんや。それに、藤の家紋なんかもよう見るよな。優美な文様が気に入られてたみたいやで。
そうなんだあ。藤って鑑賞するだけじゃないんですね。
せやな。藤は観賞としての魅力がある半面、つる植物であるがゆえに他の木の成長を妨げてしまう厄介者でもある。せやけど、暮らしの道具としても使われるし、歌に詠まれる文化的な存在でもあって、実に多様な顔を持っとるねんな。名前の知れた植物でも、あまり知られておらへん特徴もあるわけや。他にも気になる木が出てきたら、また聞きに来るとええで。
【参考】茎を伸ばす植物の巻き方
https://jspp.org/hiroba/q_and_a/detail.html?id=89
杉センセイのまとめ
●藤には右巻き、左巻きのつるがある
●自然界の藤は他の木に巻き付いて成長する林業的厄介者
●観賞用の可憐さと野生のワイルドさ、どちらがお好き?
藤の花って、一つひとつの花が小ぶりで、色も落ち着いていてなんとなく和風な感じがしますよね。そんな落ち着いた見た目と裏腹に、生命力あふれたワイルドな姿もあるなんて驚きでした。植物としての特徴も知っておくと、花をより深く観賞できそうな気がします。
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