杉センセイの生物図鑑、 知らんけど
# 1
杉/ヒノキ科スギ属
花粉症との終わらない戦い
2020.1.27

日本で一番、多く植えられ、木材としても最も多く使われているのが「杉」。なじみ深い木ですが、実は日本だけの固有種なのです。そのため、学名にもラテン語で日本を意味する「ヤポニカ」という単語が入っています。(学名「クリプトメリアヤポニカ」)。木材としては柔らかく、温かみがあるのが特徴で、住宅資材としてだけでなく桶や樽などの日用品にも多く使われています。生物図鑑の第1回目のテーマは「杉」にまつわるあの話です。

文:渡邊杏奈/イラスト:伊藤実穂

最大の宿敵「スギ花粉」の飛距離
スギの花粉はどれくらい飛ぶの?

最近は「杉」と聞くと「花粉!」と反射的に思い浮かべる人も多いでしょう。国民の3人に1人が発症しているとも言われる国民病「花粉症」。季節になると、外出を控えたくなりますが、そのせいで個人消費が7500億円も落ちるそうです。さらに、労働効率が低下することでも経済損失が発生し、その影響は計り知れません。いい加減この戦いは終わらないのでしょうか……。杉は杉でも「花粉症」をフックに、大阪生まれ大阪育ちの杉センセイに訊きました。

そんなわけで、杉花粉についてやな。近所に杉なんて1本も生えてへんのに「どこから飛んできとんの?」って思うやろ。それもそのはず、スギの花粉は数10~300㎞も飛ぶねん。つまり、東京にいても名古屋や仙台辺りのスギ花粉が悪さしてるということやな。ちなみに、「木より高いマンションに住んでいるから大丈夫」と思うとる人もいるやろうけど、花粉は風に乗って運ばれるから、マンションの立地や風の抜け具合によっては、高い場所のほうが地面よりも花粉が多いこともあるんや。

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北側を例に取ると、平均落下量率は1階で5、15階で57、35階で128と、高くなるほど落下量率が増加する傾向が見られる。
【参考】住宅等における花粉の侵入と被曝量
https://www.jstage.jst.go.jp/article/aija/66/548/66_KJ00004226401/_pdf

花粉は都会で暴れまわる!?
なぜ都市生活者が苦しむのか?

杉の山がぎょうさんある田舎よりも、都会人のほうが花粉症にかかっとるイメージがあるやろ。なんとなく、「都会人はか弱うて、免疫が弱いからや」と思っとるやろうけど、そもそも田舎と都会の花粉は顕微鏡で覗くと違って見えるんや。 山から出発したスギ花粉は、都市に入る過程で、排気ガスとか粉塵やら、大気汚染物質をベタベタと吸着しながら入ってくる。せやから余計に悪化しやすいっちゅうわけ。

都会の空気には、アジュバントという大気汚染物質が付着する。花粉は森林から運ばれる際に、アジュバントを吸着して都市部に運ばれる。
【参考】花粉の困りごとと解決法
https://www.daikin.co.jp/air/life/laboratory/pollen/

2020年の花粉量はどうなの?
花粉の量に法則ってあるの?

前年の傾向から見てみると、2020年は“裏年”。つまり花粉の飛散量は少ないと思うで。と言うても、平年に比べて85%程度やから、それでも飛んどるけどな。この“表年”“裏年”というのは、 花粉がたくさん実ると翌年は反動で減る「隔年結果」の現象からきている言葉。それに、去年は梅雨が長引いたし、夏の後半に台風が続いたこともあって、花粉をつくるには不利な条件が重なったからな。人間にはうれしいが、我々スギ側からすると残念な結果だっちゅうことやな。

スギ花粉とヒノキ花粉の飛散数の年ごとの変動。年次変動して、互いに同調している。
【参考】過去26年間のスギ花粉飛散パターンのクラスター分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/117/5/117_681/_pdf
スギ花粉とヒノキ花粉の飛散数の年ごとの変動。年次変動して、互いに同調している。
【参考】過去26年間のスギ花粉飛散パターンのクラスター分析
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jibiinkoka/117/5/117_681/_pdf
全体的には80%以下、半分以下の予測エリアもあり、今年は少しだけ安堵か……。
【参考】weathernews.jp
https://weathernews.jp/s/topics/201910/010105/

スギ花粉がマジでしんどい……
この際、全部伐採したらどうなる?

花粉症がしんどい身からすると「全部、スギを伐採しちまえ!」って思うやろうけど、杉は日本の森林の18%にも及んでいて、現実的でない上に、花粉症以上に水害や山地崩壊を引き起こす恐れがあるし、生態系や自然環境への影響が怖すぎて、ようやれんわな。せやから、今はどんどん「少花粉杉」や「無花粉杉」に変えていく取り組みがされとる。最近は、年間2000万本ぐらい杉の苗木が埋められているけれど、だいたい30%ぐらいは品種改良された杉なんや。それをさらに15年で70%まで持っていくつもりらしいで。

【参考】花粉症対策苗木生産量について(林野庁業務資料より)
http://www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/naegi.html
【参考】花粉症対策苗木生産量について(林野庁業務資料より)
http//www.rinya.maff.go.jp/j/sin_riyou/kafun/naegi.html

苗木から植え替えるって……
もっといい方法ないの!?

たしかに、なんぼ「無花粉杉」っていっても苗木を今植えているんじゃ、効果がでるのは30年以上後やもんな〜。「その頃には花粉症どころか、体のあっちゃこっちゃにガタがきとるわ~」って感じや。

それで、即効性のある対策として「スギ花粉飛散防止液の散布」というのが、試験されている。散布しているっていうと、殺虫剤とかのイメージやけど、散布しとるのは「カビの菌」。スギの雄花だけに寄生するスギ黒点病菌っちゅうやつを、散布すると、そいつが花粉を栄養源として繁殖し、雄花の細胞を破壊してしまうため、雄花は開花できず、死んでまう。結果的に、花粉が飛散しなくなるらしいで。今は農薬の登録をできてへんから、散布されてへんけど、これから実用化に向けて安全性なんかを検証しとるらしいから、いつの日かスギ花粉が飛ばん時が来るかもしれんで、知らんけど。

杉センセイのまとめ

●スギ花粉は300㎞くらい遠くから飛んでくる!
●都会人は、大気汚染物質まみれのスギ花粉を吸っている!
●2020年の花粉飛散量は、まあまあ少ないらしい!
●ひとまず「無花粉杉」の苗を植えているけれど、早く「飛散防止材の散布」を!

受験シーズンや年度末の繁忙期など、踏ん張りたい季節に到来する悪魔「スギ花粉」。毎日、薬を飲んで、外出時はマスクをして、やれることをやっているのに終わらない攻撃に気が滅入りますが、近い将来、解決するかも……しれません。そんなこんなで今回はここまで。次回の杉センセイへの質問(CONTACTよりメールください)も待っています!

渡邊 杏奈 (わたなべ・あんな)
東京で生まれ育ち、木や森への興味はゼロ。だったが、ひょんなことからhibi-kiに携わり、“木や森と関わる暮らし”もちょっと良いかもと思っているところ。調べものが得意/ミニマリスト/本屋に何時間でも居られる/良い感じのカフェを探して2駅ぐらい歩く。